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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
257/273

【Touring escape strategy⑤ツーリング脱出作戦】

 その日の夕方、イシュカーシム付近の河川敷で野営をするため、村の人達に許可をもらってキャンプをすることになった。

 誰も武器を持っていないので、銃で襲われたら、ひとたまりもない。

 焚火を囲ってスープとパンだけの簡単な食事。

 一応ツーリストと言う名目なので、表立った見張りは置かなかったが、食事を始めた頃に侵入者があった。

 2人の若い男。

 そして、その後ろには、見つからないように4人の男女が潜んでいた。

 なんだか血生臭い匂いもする。

「どうします……」

 慌てたキースが俺の所に飛んできて指示を仰いだ。

「馬鹿、この作戦の隊長はエマ少佐だ、それにハンス大尉も居るしニルス少尉も居る。順番を飛ばすのにも程があるぞ!」

 俺が笑って注意すると皆が笑った。

「いいんじゃない。生かすも殺すもナトちゃんの判断に任せるわ」とエマが言う。

「じゃあ、命令する。もう殆ど直っているんだろう?フランソワとモンタナはギブスと包帯を取れ。そして彼らを迎え入れる」

 怪我人が多すぎると怪しまれる恐れがある。

「ماښام مو پخیر(こんばんわ)」

 俺が手を振って挨拶すると、村の若者が「یاست؟تاسو د کوم ځای څخه راغلی (どこから来ました?)」と聞いてきたので「اروپا(ヨーロッパ)」だと答えた。

「イズ、イット、ツーリング?」

「その通り!君は英語が上手ですね」

 俺に褒められて英語を話した若い男は頭を掻いた。

「キャンプ?」

「そう。夜は暗いし、危ないと聞いているから」

「この人たちは?」

 怪我をしているジェイソンとボッシュの事を聞かれた。

「途中バイクで転んで、この有様さ。トランスポーターを同行させて正解さ」

「バイクは壊れたの?」

「ああ」

「これからどこへ?」

「カブール方面」

 本当はバグラムだが、バグラム空軍基地は印象が悪いだろうと思って伏せ、首都カブールから40キロしか離れてないのでカブール方面と言った。

「一緒に焚火を囲んでもいいですか?」

「いいよ。お仲間が居れば一緒にどうぞ」

 笑って答えると2人の男は、後ろに潜んでいた2組の男女に声をかけた。

「実は鳥を持ってきています。焼いて一緒に食べましょう」

 後からやって来た2人が鳥を持って来て、あとの2人のうち1人は手に長い大きなものを抱えていて皆を少しだけビビらせたが、これはアフガニスタンに伝わる民族楽器“ルバーブ”そしてその後ろから付いてきた女の子は手にパーカッションの様なものを持っていた。

 焚火に串刺しにした鳥を丸ごと炙りながら、一組のカップルがルバーブとパーカッションを使ってアフガニスタンの民族音楽を奏でてくれた。

 幾つもの共鳴弦を持つルバーブの音色は澄みきっていて、まるでこの場所ごと夜空に吸い込まれるような錯覚を覚える。

 心なしかパーカッションや歌の声も、同じ響きを持ち幻想的だった。

 何曲か音楽を聴かせてもらいながら、焼きあがった鳥を皆で食べた後、若者たちは村に戻って行った。

 最後に「いつかまた来てください」と言って。

 

 俺はユリアとエマと3人で川のほとりで星を見ていた。

 エマが言った「不思議なものね……」と。

「何が?」

「あの子たちの事。もしも私たちが戦車に乗ってこの村を訪れたとしたら、彼らは決してこの様には迎えてくれなかったでしょう?」

「それは、そうだろう」

「でも、私たちは軍人よ。しかもナトちゃんとユリアは、つい数日前までこの村から僅か100数十キロ離れた高原で、あの子たちと同じアフガニスタンの人と闘っていたのに」

「……」

「そんなものじゃないの。私が子供だった頃、クリミア半島は観光でよく行ったわ。とても綺麗な所で人々も皆優しかった。でもロシアによるクリミア併合後は、そんな風に思えない。特に軍人としてあの地を踏むことはないでしょうね」

「民間人同士だと、何かのきっかけで直ぐに仲良くなれるのに不思議なものだな……」

「そうね」

「軍服を着て銃を持つ前に、どうにかしなければいけない。屹度そうなんだ」

「そう。戦争では平和な世の中は築けないのよ」

「私たち軍人が言うのも変だけど、確かにそうね」

「俺は歩兵だから良く分かるよ。今日の事」

「彼らの事?」

「いや。今日来た道の事」

「今日来た道?」

「そう。もしも軍服を着て完全装備でバイクに跨っていたら、最初の10キロ程は進めただろう。だけどその後は敵に囲まれて前に進めなくなる。よく頑張っても今日進めたのは20キロ前後だったろう。それがこんなツーリングジャケットを着て、普通の民間人の格好をしていると、遊びながら走っているだけで100キロ以上も走れてしまった。しかも1人の犠牲もなく、1人も殺さずに」

「戦争って一体なんだろうね」

 それを考えるのは俺たちではない。

 と、これは言葉に出さなかった。

 それを真剣に考えなければならないのはお互いの国の指導者。

 アサムはそれをサオリに託しているのだろう。

 でないと、ターニャに成りすましたサオリを自由にさせてはいない。

 サオリは今どこで――。

挿絵(By みてみん)

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