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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
239/273

【Warmth of the back and warmth of the chest②背中の温もりと胸の温かさ】

「葛藤じゃ」

「えっ……」

 ナトーを背負って歩いている俺の横にアサム様が並んで来て言った。

「この子は、己自身の葛藤に耐えられなくなって気絶したのじゃ」

「己自身の葛藤?」

「そう。ヤザを殺そうとする戦士の心と、父親を殺せない娘の心」

「しかし、この娘は……」

 そこまで言いかけたところで、アサム様は言葉を遮り他の仲間に先に村へ入りターニャにこの手紙を渡したのち、迎えに来させるように言った。

 ターニャと言うのは、アサム様の妾。

「いいのですか、我々2人きりで。しかも私の背中には敵の暗殺者が……」

「なぁ~に構わんよ。この娘はザリバンの戦士、ヤザの娘じゃろ」

「しかし……」

 しかし、その外人部隊に入隊した俺の娘は、俺の命だけでなくアサム様の命をも狙っていたと、言おうとして止めた。

 そんなことは、既にお見通し。

 なのになぜ敵であるナトーを救ったのか?

 まっ、まさかまたグリムリーパーとして戦わせるつもりでは……。

 たとえアサム様の命令だとしても、それだけは断らなければならない。

 あの頃は、生きていくために金を稼がなければならず、戦場で共に戦い決して死なないように厳しく教育した結果、敵兵からグリムリーパーと呼ばれるようになってしまった。

 だが、今のナトーは金を稼ぐためでも自分が死なないために敵を倒しているのではなく“仲間を守るため”戦っているのだ。

 あの頃と今では目的が違う。

「二人っきりになったのは言うまでもない、この娘の処遇についてだ」





「こんなもので、いいだろう」

 渓谷のこちら側にチョットした丘が出来た。

「隊長、これで一体何を」

 ブラームに聞かれたハンスは、直ぐに答えないで、装備を取り始め服以外はリュックだけになった。

「いいか。これから俺はアサムの生存確認のため、この渓谷を渡るが、ついてくるな。ユリアもヘリで追うことを禁じる。これは大尉としての命令だ。君も分かっているだろうが、ここへ来たからには多国籍軍の一員として、国は違うが上官の命令は守れ」

「この渓谷を渡るって、どういうことですか?」

「まあ見ていろ」

 そう言うとハンスは置いていたバイクの所まで行くと、それに跨りエンジンをかける。

「まさか隊長!」

「そう。そう言うことだ」

 ハンスはアクセルを全開にして、物凄い勢いで渓谷に向かって走り出す。

「無茶だ!やめてください!!」

 慌てたハバロフが飛び出して止めようとしたのを、ブラームが止める。

「もう遅い。今止めると隊長は確実に渓谷に真っ逆さまに落ちる」

「でも」

 ハンスのバイクは、そのままさっき作ったばかりの丘を越えてジャンプした。

「ハンス大尉!」

 皆が悲鳴にも似たような声を上げ、見守る。

 バイクが丘を越えた反動で、まるで羽の生えた鳥のように高く舞い上がる。

 このままなら軽く渓谷を飛び越えられそうだと思った矢先、バイクは宙に描いた放物線の頂点を過ぎ下がり始め、だれが見ても明らかに飛び越えられそうにない。

「駄目だ!!」

 皆の心に冷たい絶望感の刃が突き刺さろうとしたとき、ハンスがバイクを捨て、飛び上がった。

“越えられるのか!?”

 バイクはそのまま失速して渓谷の向こう側の崖にぶつかり谷へ転げ落ちて行く。

 だが、バイクを捨てたハンスはギリギリ向こう側に辿り着き、その勢いで何度も転がった。

「ハンス大尉!」

「隊長!!」

 皆の心配をよそに、ハンスは起き上がると「大丈夫だが、アサムの代わりにナトーを見つけたら、直ぐに帰る」と言い終わると、そのまま森の中に駆けていった。

「……」

「ナトちゃんも無茶だけど、あの大尉もナカナカね」

「ああ、あの二人は似た者同士だからな。高い次元の……」

 ブラームの言葉に、ユリアが「あら、アンタよく見ているわね」と、肘で小突いていた。

「さあ、すぐにヘリに戻って本部に連絡よ!」

「どうするんですか?隊長は追うなと――」

「もちろん私たちをはじめ誰もハンスを追わないわ。こういう時は、無人偵察機に探させるのよ」

 3人が戻ると直ぐに見張りに立っていたキースが駆けてきて、ハンスの事を聞いた。

「バイクのエンジン音と、何かが落ちる音が聞こえたけれど、ハンス隊長は??」

「渓谷の向こう側よ」

「まさか!あれだけの助走じゃ、飛び越えることは出来ない!」

「バイクはね」

「じゃあ、隊長は?!」

「バイクから飛び降りて、無事向こう側に不時着したわ」

「無茶な!」

「そう、貴方たちの隊長も、分隊長も無茶すぎて私は付いていけないわ。それなのに、良く貴方たちは付いて行けるね……」」

 ユリアはヘリに戻ると、直ぐに無線で本部に連絡した。

『敵の首領アサムを追ったと思われるナトー1等軍曹行方不明、そしてハンス大尉は逃げたアサムを単独で追っています。これから先は民間人を含む敵の勢力圏内なので一旦我々のヘリは帰投するが、引き続き捜索は無人偵察機でお願いする』

挿絵(By みてみん)

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