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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
238/273

【Warmth of the back and warmth of the chest①背中の温もりと胸の温かさ】

「ヤザ!やめろ!!」

 直ぐ腰の辺りでアサム様の声がした。

 慌てて振り返ると、そこにアサム様の姿はない。

“なぜ!?夢なのか……”

「阿呆、我が子を殺そうとするとは何事じゃ!」

 誰かが俺の腰を掴む。

 下を見ると、崖の直ぐ傍に這いつくばって苦しそうな顔をしているアサム様が、俺の腰を掴んでいた。

「驚いている場合じゃなかろう。直ぐに助けよ。出ないと妖精ごと谷に転落してしまう……」

“妖精ごと?”

 とにかくアサム様の体を引っ張ろうとしたが、なかなか動かない。

 それもそのはず。

 アサム様の右腕は、助けを拒むように、崖の下に降ろされているのだから。

 崖に降ろされたその腕を見て驚いた。

 アサム様の年老いた手が掴んでいるのが、なんとナトーだったから。

 しかも、そのナトーは気を失っているのか、軍服のサスペンダーを捕まれたままダラーンと俯いたままぶら下がっている。

「こらっヤザ、何を見とれている。早く引き上げなければワシの手がもう持たん」

 慌てて手を伸ばし、ナトーを引き上げた。

「でも、いったい何故?」

 それは2つの、疑問。

 何故、アサム様がナトーを救ってくれたのか。

 何故、ナトーが気絶しているのか。

 オートバイの音と、そのはるか向こうから微かにヘリの音が聞こえてきた。

「ここはマズイ、早く移動するぞ。ヤザ、お前は娘を背負え」

「はい」

 娘と言われて嬉しかった。

 実の娘ではないから血も通っていなければ、顔や姿も似ていない。

 そのうえ、身長なんて父親の俺とまるで変わらない。

 亡くなった妻ハイファより、10センチ以上もデカい。

 しかし俺にとって大切な娘。

 グリムリーパーとして最後の狙撃となったあの日、隠れていた建物が砲撃の直撃を喰らったあの時、俺はようやく気が付いた。

 大切なこの子に、もうこんな事をさせるべきではない事を。

 瓦礫の中でまだ息のあるナトーを見つけたら、今しているようにこの背中におぶって、どこか戦争のない村でヒッソリと暮らそうと思った。

 しかし、その思いは叶わなかった。

 あのサオリという女と、その一味が先に見つけ出し連れ去ってしまったから。

 でも、そんなことは今どうでもいい。

 俺は今、こうしてナトーを負ぶっている。





「渓谷の向こう側に上手く辿り着いたかも」

「そうよ。ナトちゃんなら、そうに違いないわ、探しに行ってみましょう!」

「駄目だ。もう帰れ!」

 ハンスの言葉に3人は驚いた。

「ナッ、ナトーを見捨てるんですか!?」

「いや、見捨てはしない」

「だったら……」

「もしも、ナトーがこの渓谷に落ちたとしたなら、探し出すのは困難だ。そしてもし探し出せたとしても、それはもうナトーではないだろう」

「ナトーではない?!」

「そう。見つけ出せるのはナトーだったものに過ぎない」

「それでも……」

「気持ちはわかる。だがこの渓谷の高さと、下に流れる川の深さから考えれば答えは分かり切っている。橋から落下したとすれば、その高さは約20m。20m落下時のスピードは時速約70kmそしてその衝撃は約30t近くになる。生身の人間が耐えられる衝撃ではない」

「でも……」

「そう。でも、生きている可能性はある。それはナトーがここを渡り切った可能性だ」

「だったら皆で探しましょう」

「だから、帰れと言っただろう」

「じゃあ……」

 ハンスの言っている意味が分からない。

 帰れと命令しながら、見捨てないと言うのは一体どういう事?

「ここから先は森が続く、そしてその先には村がある。おそらくザリバン縁の村。森の上をヘリで飛ぶのも、ザリバン縁の村に集団で潜入する事も危険すぎる。敵の首領アサムが、まんまと逃げ遂せたとしたら、この先に居る事は確実だ。だから俺は、その確認のために村に入る」

「無茶です」

「無茶は承知だ。だが、ここまで来てみすみすアサムを逃す訳にはいかん」

「しかしどうやって向こうにわたるのですか?ロープで降ろしますか?」

「だから、ヘリは危険だと言っただろ。少し手伝ってもらえるか?」

 ハンスは崖の傍に、こんもりと土を盛る作業に取り掛かる。

 何をする気かわからないが、ユリアたちも石を運んだり、その上に土をかぶせたりするのを手伝った。

挿絵(By みてみん)

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