【Desperate situation①(絶体絶命)】
敵の発砲音が次第に断続的になって来る。
俺たちとの戦いの中で数が減って来たのも有るだろうが、それだけが原因ではない。
おそらくは、士気が落ちて来たのだろう。
このまま旨く行けば、武器を捨てて敵兵が降伏してくる可能性もある。
「一丁派手にお見舞いしますか!?」
モンタナも、それを察知したらしく、乱射しようかと尋ねて来た。
一度に沢山の銃弾を撃ち出すことのできる軽機関銃だが、実質的には“狙い撃ち”が主体だから個々の目標ごとに連射を小分けして銃弾の節約をしている。
「思ったより、たいしたことはねえな」
「この調子なら、応援が来る前に片が付きそうだな」
ジェイソンとボッシュが言った。
所詮指揮官の居ない兵は、こんなもの。
確かにこのトーチカと言う目標はあるが、堕とせないと思うと、戦闘意欲も弱くなる。
戦い抜いて死ぬよりも、彼等もまた平和に生きていたいのだ。
しかし気になるのはヤザの存在。
ヤザは一体、どこで何をしているのだ?
まさかこのまま負けを認めるとも思えない。
その時、ドカンと言う鈍い地響きにも似た爆発音が響いた。
RPGの着弾音。
“シェリダンⅡが遣られたのか!?”
目の前に居る敵から目を離し、東の空を見上げると激しい黒煙が上がっていた。
「فعلت دبابة!(戦車をやったぞ!)」と言う、太い聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
ヤザだ!
基地から出てきたヤザが、歩兵を護衛するために随行していたシェリダンⅡを破壊したのだ。
これで、我々の方に回り込んで合流するはずだった前線基地の部隊も動きを封じ込められ、足止めを喰らう。
当然、この戦車と言う歩兵にとっては怪物に等しい代物を破壊できたと言う成功体験で、敵の士気も上がる。
なによりヤザが前線に出てきたことで敵の目標はこのトーチカに絞られ、これまでとは違い戦略的にここを攻撃してくるはず。
「敵の攻勢が強くなるぞ!各自注意しろ!」
敵の士気を落とすには、是が非でもヤザを仕留める必要があるが、トーチカの中央で射撃する俺の位置からはヤザは確認できない。
おそらくヤザも、自分がやられる事により、総崩れになる事は十分承知しているのだろう。
「RPG!」
左端に居たジェイソンが、RPGのバックドラフトを確認して叫ぶ。
「大丈夫、全然的外れでさぁ」
RPGを正面に確認し、それから目を離したモンタナが俺たちに顔を向けて言ったのを聞き、俺は逆に敵から目を離しRPGの方に向いた。
見るとRPGの狙いはかなり上にズレて、このトーチカの頭上を通り抜けるコース。
「全員射撃止め!トーチカの中で体を丸めて小さく蹲れ!!」
慌てて大声を上げ、両隣に居たブラームとフランソワの頭を押さえつけて、トーチカの中で身を丸めた。
上空でドカンと言う爆発音が響き、誰かの悲鳴が聞こえた。
「誰が遣られた?!」
「ボッシュが左腕と左足に破片を喰らっています!」
ブラームが確認した。
「ジェイソン!傷を見てやれ!」
「了解!」
「RPGまた来ます!」
「伏せて丸くなれ!」
また上空で爆発して、今度は怪我をして丸くなれないでいたボッシュを庇ったフランソワが脚に怪我をした。
「俺がRPGを抑える!ジェイソンは2人を診てやれ」
「了解!」
「モンタナ、ブラーム。正面の敵に隙を与えるな!」
「承知!!」
RPGは直接当てなくても、信管のタイマーをセットすることで、この様に好きな位置で弾頭を自爆させる事が出来る。
乱戦の最中に、この様な事を仕掛けて来るヤザに対して、敵ながら流石だと思った。
だが、負ける訳にはいかない。
ヤザが、どれだけ知恵を絞ろうとも、俺はGrim Reaper。
出ようとする芽は、その命ごと刈ってみせてやる。
俺はRPGが発射された方向を狙撃するするために、モンタナの左側の位置に回った。
2発とも同じ角度から発射されたもので、位置は直ぐに掴めたがもう発射される瞬間だった。
「全員伏せて丸くなれ!」
皆をトーチカに伏せさせて、俺だけはそのまま照準を合わせるために銃を構えたままでいた。
発射した後加速してくるとは言え、初速は時速300キロ程度。
その弾頭に銃弾を当てられるものかどうかは、やって見なけりゃ分からないが、真直ぐこっちに向かって来るのだから冷静に見れば出来そうな気がした。
バックドラフトが光り弾頭が飛び出す。
その弾頭の軌道に照準を合わせ、トリガーを引き、俺も直ぐにトーチカに身を沈める。
爆発音とともに破片が降り注いできたが、その破片たちは既に勢いを失い俺たちに突き刺さるほどではなかった。
直ぐに身を乗り出し、敵を狙う。
今の爆発で敵の射手は死んだ。
敵は慌てて射手を変え、次の弾頭をRPG発射機にセットしているところだった。
弾頭が全てセットされるまで待ち、敵がそれをこっちに向けたところでトリガーを引く。
狙ったのは射手ではなく、その弾頭。
俺が発射した銃弾が、RPGの弾頭に当たり、そのまま推進用の火薬迄真直ぐに突き抜ける。
赤い火と、血飛沫の赤色を帯びた煙が舞い上がり、ドカンと言う爆発音が響く。
RPGの弾頭は筒内爆発をして、発射機ごと射手の上半身を一瞬にして跡形もなく粉砕した。
おそらくこれでRPGの脅威は排除出来たはず。
発射機が無くなれば、弾頭が幾つあろうが、撃ちこむことは出来ない。




