【Enemies set traps①敵が仕掛けた罠】
ここへ来た時に、死体を調べた。
状況的には、敵に取り囲まれた格好だが、どうも腑に落ちない。
第一に、取り囲むのであれば、時間的にはもっと早い時間から囲めたのではないかということだ。
敵からしてみれば、少々位置がずれたと言っても、大凡の降下ポイントは分かっている。
そして、どこに向かうのかも。
だったら、もっと早い時期にアメリカ軍を全滅させてから、他の部隊へ応援に行く方が効果的なはず。
第二は、その時間。
19時45分にLéMATが輸送機の所へ到着する5分前に、アメリカ軍の交信は途絶えた。
しかもその場所は、彼等がここに着いたときの着陸位置。
敵に押し戻されて、ここまで退却したにしても、死体の位置関係から考えると交戦範囲が狭すぎる。
アメリカ軍は数時間も掛けて、僅か3~400mしか進んでいなくて再び押し戻されたことになるが、ここの地形から見てそれは有り得ない。
膠着状態になるとしたら、この西にある崖……。
「軍曹、アメリカ軍本部から返信来ました! 一部モールス信号で解読できませんでしたので書き留めてあります」
ハバロフからメモを渡された。
メモを読むと俺たちが渡した認識票の他にも、まだ12名の兵士の行方が分からない事と、衛星携帯電話の発信記録がある事が書かれていた。
“……やはり”
「ブラーム、崖の下を捜索する」
俺の予想が正しければ、崖の下に11名の戦死者が居るはず。
12名全員の死体がないと予想したのは、そのうちの1人は裏切り者だから。
約1時間の捜索の結果、崖の下に10人の戦死者が新たに見つかった。
行方不明者は、隊長のノリス大尉とエリアン1兵。
この2名のどちらか、それとも両方かが裏切って衛星携帯電話で敵に情報を漏らしていたに違いない。
おそらくアメリカ軍部隊はここに到着後、裏切り者による偽の情報をもとに本来向かうべき道をそれて崖の下へ導かれ、ヤザ達が到着するまで身動きを封じ込まれたに違いない。
そして崖の下の敵と、上の森から出てくるヤザ達との挟み撃ちに合う。
これで漸く分かった。
この作戦での敵のトリックが。
ヤザ達は東の村から来たんじゃない。
わざわざ東の村から来たように見せかけるために、東の端で俺たちの輸送機が上空を通るのを待ち構えていたのだ。
本当に東の村から来たのなら、アメリカ兵を全滅させたこの場所にはもう用がないはずだから帰るために、ここを目指してきた俺たちの部隊とどこかですれ違うか、今頃は俺たちが居た2号機の所で戦闘をしているはず。
ところが、俺たちは敵とすれ違うことなくここまで辿り着き、2号機の墜落現場も戦場になっていない。
もっとも奴らは戦おうとしても、度重なる戦闘で、もう弾薬も残っていないはず。
そうなれば落後者が出るだろうから、それを俺たちが見つけれない訳はない。
「ハバロフ、直ぐにモンタナに戦える者を連れて、ここへ来るように伝えろ。電文は暗号を使え」
裏切り者がアメリカ兵であるとしても、LéMATの暗号電文は解読できない。
東の村ではなく、ここにザリバンの本部があると言うのは、まだ仮説であり証明は出来ない。
カナダ軍には敵の予備兵力を止めるため、東の村へ通じるあの崖の道を抑えていてもらわなければならない。
前線基地に、俺たちが崖を降りることと、崖の下に敵の大部隊が潜んでいる可能性があることを暗号で知らせておいた。
「もう一度崖を降りて、あとから来るモンタナ達の安全を図る」
ここで全滅したアメリカ軍部隊が、崖で身動きが取れなくなった二の舞は避けなければならないので、赤外線感知機能のあるAN/PVS-22暗視スコープ(AN/PVS-14の後継機で架空のスコープ)で崖の下に広がる森の中に敵が潜んでいないか入念に探り、安全を確認してから崖の下に降りて拠点になるような場所を探した。
崖の下には、まだ敵は居ない。
AN/PVS-22暗視スコープで調べてから降りたのだから居ないのは当然なのだが、まるっきり居ないと言うのはどうも腑に落ちない。
ここで大規模な戦闘があったのだから、置き去りにされた敵の負傷者くらいは居てもおかしくはない。
森の中を偵察していると、木々の切れ間に草木の生えていない小高い丘があるのを見つけた。
丘の上には多少緑があるが、枝の様子や葉の向きに不自然なところがあり、近付こうとするボッシュを止めて、ほふく前進をして大量の木が盛ってある隙間から催涙弾を落してみた。
強い夜風の中に微かに煙は上がったものの、人の居る気配はない。
あとから登ってきたボッシュが「木で隠していやがる」と言って、木の枝に手を伸ばそうとしたので腕を掴んでその手を止めた。
ライトを照らして用心深く、盛ってある木を観察すると、何本かの木からワイヤーらしき物がブラ下っているのが見える。
「ボッシュ、ハバロフにテスターとペンチと白いビニールテープを借りて来てくれ。それから本国に応援要請!」
木を除けるために持ち上げると、ワイヤーの先に付いている爆弾が爆発する仕掛け。
だからワイヤーを切ろうとして止めた。
しかし、なにかしらそれだけではない嫌な予感がした。




