【Rescue of Tom and Jerry④(トムとジェリーの救出)】
空が赤くなり、そろそろ辺りも暗くなりかけて来た。
ジェリーとトムの救助は暗いほうが安全でやりやすいが、気になるのは次第に大きくなりつつある銃撃の音。
おそらく救助隊と均衡を保っていたのが、徐々に崩れ出したのだろう。
一旦崩れ出すと、踏ん張りがきかなくなり、雪崩のように早くなり止められない。
そう、あの少尉たちのように。
森の中から足音が近づいて来る。
足音は、ふたつ……。
だからといってジムとゴードンだとは限らない。
「軍曹!」
「あれ、軍曹が居ない……」
「ヘルメットは置いてあるぞ」
呑気にジムが言っている。
少し離れた所から、わざと足音をさせて近づく。
「ああ軍曹、そこに居たの」
ゴードンが、ゆっくり振り向いた。
「お前たちは、2人とも死んだぞ」
「えっ!?なんで?」
「もし、俺が敵にやられていて、近づいて来たのが俺じゃなかったら」
「縁起でもないこと言わないで下さいよ」
「これは映画や小説じゃない。仮にヒーローやヒロインが居たとしても、死はそれぞれ平等にやってくる。敵の真っただ中でチェーンガンをぶっ放しても敵の弾は避けてはくれない。俺たちにできることは死の確立を減らすことだけだ。そのために、どんな時でも用心を怠ってはいけない」
2人は少しシュンとなって「はい」と、子供のように頷いた。
「ところで、ルートは見つけたか?」
ジムがゴードンを見て、そのゴードンが「見つけた」と自慢そうに言った。
「よし。じゃあ3人で行こう!」
森の中を下り、やがて岩場が見えてくる。
谷の斜面は、上よりも更に暗くなってきていた。
「ここから登って行けば、足場も比較的好いし、左右に大きな石があるから比較的安全だと思います」
なるほど、大雨が降った時に水が流れる場所なのだろう。ここだけまるで水のない川のような道が出来上がっている。
「さて、行きますか!」
ジムの言った言葉に対して、直ぐに返事が出来ないでいた。
確かに3人で行けばいい。
おそらくトムは歩けないだろうから、担いでやらないといけないし、もしも担げない場合は担架に乗せる必要がある。
その場合担架を担ぐ2人の両腕が塞がる。
そしてもしもジェリー伍長が歩けなかった場合は3人居ないと連れて帰ることが出来なくなることも考えられる。
だから3人で行くのが一番良い。
しかし……もし、帰り道を戻って来た時に、この森の中に敵が潜んで居たとしたら。
無防備な状態で帰って来る俺たちは、敵にとって格好の餌食。
さっきまで丸見えの敵を森の中から狙撃していた事が、逆の立場になってしまう。
3人で行って、帰りに誰かが斥候としてようすを探るという手も無くはないが、その斥候にしても敵に撃たれることで仲間に知らせる水先案内人に成り兼ねない。
待ち伏せする者は、常に先手を取る権利を持っている。
それを避けるには、敵の進入を許さない事。
そのためには、森の中に1人残して周囲の警戒に当たること。
戻って来る人間の安全を確保するためには、少ない人数の中でもこれは避けられない。
敵が来たことを知らせ、どこに居るかを戻って来る人間に伝えられるだけで、安全に戻る事が出来る。
時間が遅くなれば、それだけ敵の戻って来る確率は高くなる。
ジムは残せない。
彼の体力なら、担架を担ぎながらでもジェリー伍長に肩を貸す事くらい出来るだろう。
あとはゴードンと俺の、どちらが残るか……。
俺は、こういった任務には慣れている。
だが救助に行った先でも状況によっては高度な判断が必要となり、それを誤ると命取りにも成り兼ねない。だからゴードンに残ってもらうことにした。
「いいか、ここでの任務は見張りではないし、拠点の確保でもない。一番重要なことは敵の発見だが、それは哨戒でも偵察でもない」
「じゃあ、どうすればいい?」
「じっと耳を澄ませて、敵の気配を探れ。そして敵が来た場合は出来るだけ発砲は避けて、それを俺たちに知らせろ」
「でも、敵が1人なら撃ってもいいか?」
「駄目だ、その後に続いて来る者が居る可能性もある。この人数では、戦わずにやり過ごせたら、その方が良い」
「では、どうやって軍曹たちに知らせる?」
「敵に見つからずに、こっちに来い」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ。だが決して油断せず判断を誤るな。もし敵が1人で、それが負傷兵だとしても自分が見つからない限りは発砲するな。そして拠点を離れるか残るかのタイミングも間違うな。早く拠点を離れてしまうと、それ以降は情報量が少なくなるし、遅くなると敵に気付かれる。くれぐれも注意しておくが、暗視スコープに頼るな。視力は聴力を奪う」
「分かりました」
ゴードンも任務の重要性が分かったらしく、いつもの“了解”と言う返事ではなかった。
3人で、もしも森に敵が進出してきた場合、拠点になる場所を確認した。
そして、そこに銃弾の詰ったリュックを置いて目印にした。




