【Rescue of Tom and Jerry③(トムとジェリーの救出)】
10人目を狙撃し終わった頃、ゴードンとジムが戻って来た。
横たわる10体の屍を見て「10発で10人ですか」とゴードンが驚いていたが、俺は上の道を逃げ惑う敵に的を合わせながら「M82だからな」とだけ答えて「そっちは、どうだった?」と聞き返す。
「駄目です。すぐ250m先で尾根が切れて崖になっていて、その向こうに行くにはかなり大回りしなくてならない」
「そこから向こうの崖の上に居る敵や、ジェリーの居る谷は見えたか?」
「いや、見えない」
“ズドンッ”
道を走って逃げる敵を撃つと、転がって崖から落ちた。
「じゃあ、敵も尾根伝いに直ぐにこっちには来れないということか?」
「そうなる」
「じゃあ、守りやすそうだな」
“ズドンッ”
次は崖の下に照準を合わせ12人目の敵が倒れる。
「どうする?」
「もう一度すまないが今度は下側を偵察して、安全に谷を進めるルートがないか探してみてくれ。ジェリーたちはこの谷に転がっている死体の、一番下にある2つの間にある茂みに潜んでいる」
“ズドンッ”
「了解。ジムは置いて行こうか?」
「いや、尾根が切れていることが分かった以上、ここは当分安全だ。それより味方に押し戻されて先に逃げ帰ってくる敵がそろそろ出て来るかも知れないから、それに遭遇しないように注意しろ」
「了解」
“ズドンッ”
ここで13発撃ち、同じ数の敵の屍が転がった。
M82は良く当たる。
欠点があるとすれば、その12.7mm弾。
こいつは威力があるが、その分硝煙も多く出る。
そのおかげで敵から、こっちの場所も特定されやすい。
だいぶ敵の銃弾も時折近くを通り過ぎる様になってきたので、場所を移動することにした。
移動したついでに、銃もHK416に替えた。
こっちなら、マズルフラッシュ(銃口からでる火花)を確認されない限り、どこから撃っているのかは分からない。
HK416にスコープを取り付けて、狙いを定める。
“パンッ”
先ずは“お試し”
動きのない、敵を目標にして銃を撃つ。
弾丸少し斜め右上に逸れたので、スコープを調整して2発目を撃つ。
高さは合ったが、今度はやや左にそれたので修正して撃つと、当たった。
次は崖にできた僅かな縦の窪みに、体を無理やり埋めて反撃している敵を撃つ。
弾は当たったが、やや右に逸れたので修正してもう1発お見舞いすると、まるで座り込むように体を崩した。
5.56mm弾は風に流されやすい。
その上、HK416の直接照準時の有効射程は400m。
スコープを使うことによる弾道調整で有効射程は伸ばせるが、この谷に吹く風による不規則な空気の流れは調整できない。
風を計算に入れて位置を少しずらして、今度は崖の下に居る奴を狙って撃ち16人目を倒した。
死んだ敵兵には悪いが、これでHK416のセットアップは出来た。
そうやって崖の下と直ぐその上にある道に居る敵22人を排除して、残るのは崖の上に居る敵だけになったが、これを完全に排除することはこの位置からは困難で、しかも正確な人数も把握できていない。
約500m先のガレ場に銃弾が届くのは、発射してから約1秒近くかかる。
銃弾を通さない岩の陰から、狙撃を警戒して少し顔を出してまた直ぐ引っ込める敵の行動と不規則な谷の風を考えれば、ここは無理に狙撃するよりも視野を広く持ち大まかな人数をもう少し正確に把握しておいた方が良さそうだ。
そう思って元居た場所に戻り、スコープを覗きながら敵の動きを観察していた。
勿論そんな時にも、うかつな敵を見つければ容赦なく狙撃したし、攻撃を止めない事がゴードンとジムの援護になる。
ここに来てから俺だけが銃を撃っているので、敵も狙撃兵が1人いるだけだと思っていてくれれば有難い。




