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グリムリーパー  作者: 湖灯
A sniper called GrimReaper死神と呼ばれる狙撃兵
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【Iraq April 2016.US military(イラク2016年4月、米駐留軍)】

<ジョン、聞こえるか? これから西の通りに移動するが、大丈夫か?>

「大丈夫だ軍曹。敵の狙撃兵は、まだ見えない」

<頼りにしているぜ!メアーズちゃんと監視しとけよ>

「ああ、任せとけ」

「ちゃんと監視してらい!オメーはいつも一言多い!」

<オメーには負ける>

 軍曹の最後の一言がツボにはまったのか、ジョンが笑い出す。

「さあ仕事、仕事」

 不機嫌になったメアーズは、再び双眼鏡を覗いて敵を探し始めた。


 イラク郊外の街を、砂嵐が襲う。

 強い風が砂ぼこりを舞い上げ、太陽の日差しを遮る。

 舞い上げられた砂と同じ色の建物が並ぶ通りを進む完全装備の7人の歩兵たちを、4階建てのビルの屋上から狙撃手と監視員が護衛のために周囲を警戒している。

 狙撃手が構えているのはM82A1バレット。

 12.7x99mm NATO弾を初速853m/sで発射し、2000m先の的を撃ち抜く世界最強の対物(アンチ・マテリアル)ライフル。

「これだけの砂嵐だ、敵の狙撃兵も本日は休業。今頃はベッドに横になってテレビでも見て寛いでいる事だろうぜ」

 双眼鏡を覗いたまま、監視員のメアーズがクチャクチャとガムを噛みながら、伏せている狙撃手のジョンに話し掛ける。

「普通の狙撃兵は、そうだろうな。だが俺の“お目当て”は絶対に潜んでいるはず」

「おいおいお目当てはあのグリムリーパーかよ!ちきしょう。おかげさまでこっちは服の中まで砂が入って来て、体中砂だらけだぜ」


 グリムリーパーと言うのは敵民兵組織の狙撃兵。

 こいつのせいで既に100人以上が、あの世に連れ去られている。

 顔も名前も年齢さえも分かっていない。

 ただ分かっているのは、コイツに狙われた者には確実に死が訪れると言う事だけ。

 だから死神グリムリーパーと名付けられた。

「でも奴の死神としての人生も今日で終わりだな。なにせ相手が悪い。ジョンは現役のライフル射撃の選手で、今日の銃はM82。腕にかすっただけでも関節から先のパーツがもぎ取れてしまう。あー怖い怖い」 

「あんまり喋っていると、死神(グリムリーパー)に連れて行かれるぞ」

「まさか、奴の銃は旧式のドラグノフだぜ、7.62㎜弾じゃあこの風に流されちまう」

「だから、こうして風上を見張っているんじゃなかったのか」

「うっ……」 

 メアーズは何かを言いかけて止めると、ペッと噛んでいたガムを吐き出して身震いした。


 しばらくしてパーンという銃声が響き、通りを進んでいた軍曹が倒れた。他の6人は壁に貼り付くようにして、動きを止めた。

「やべぇ! 敵の狙撃兵だ。屹度お前の“お目当て”さんのお出ましだ。俺は確認できなかったが、ジョンは見つけたか? 」

「――」

 しかし、ジョンは返事をしない。

 パーン。

 続けざまに、もう一発銃声が鳴るが、今度は誰も倒れない。

「ざまあみろ、外しやがったぜ。今度はこっちの番だ。ジョン、確認できたか?」

 監視員がジョンの肩を叩くと、その首は力なく崩れ落ち、伏せている体の下側には血だまりが出来ていた。

 そしてその事に気が付いた時、自身の意識も途絶え、ジョンの上に覆いかぶさるように倒れていた。


 パーン。


 まるで今倒れた監視員を追悼するように、銃声が後を追って空に響く。

 1発目の銃声が聞こえたときに死んだのは、街を偵察していた歩兵の軍曹ではなく狙撃兵のジョン。

 グリムリーパーの射撃距離が遠過ぎたため、監視員は歩兵が撃たれたと勘違いしてしまった。

 そして2発目の銃声で歩兵の軍曹が撃たれた。

 その次は監視員のメアーズ。

 誰も自分が撃たれた銃声を耳から脳へ伝達する事なく、この世を去って行った。

<ジョン! 軍曹が撃たれた。敵の狙撃兵は見つけたか!?>

<ジョン! おい、聞いているか? 返事をしろ!メアーズ、ジョンが撃たれたのか? おい、メアーズ。どうした返事をしろ‼>

 屋上に静かに横たわる2人の傍に置かれた無線機だけが、けたたましく声を上げていた。



 *米軍 イラク駐屯地本部*


「一体いつになったら解決するんだ。今日も3人やられて、これで犠牲者は今月だけでももう10人を超えた。いったい奴の対策はどうなっているんだ!?」

 仮設テントの中に作られたオフィスで、バッジを沢山付けた中年の男性が報告書を机に叩きつけて叫ぶ。

「この地域一帯はグリムリーパーの縄張りの中だ。だから奴を始末しない限り、今後も犠牲者は増え続ける。で、今日の失敗は何なんだ? 餌にはチャンと喰いついて来たと聞いたが?」

「はい。地上軍の制圧地点を予め漏らし、その周囲を4組の狙撃班に見張らせて待機させていましたが……」

「――いましたが?」

「それが……砂嵐に近い状況の中、こちらの想定していた範囲外から狙撃され、狙撃兵のジョン曹長と監視員メアーズ伍長、それに制圧部隊のオビロン軍曹がヤラレました」

「なんと、あのジョンが……それで、想定していた範囲外からの攻撃とは?」

「当日の砂嵐と言う気象状況から我々は狙撃距離を200~300mと推定しておりましたが、実際にはグリムリーパーの狙撃位置は800mほどでした」

「どうして、それが分かった?」

「解析の結果、オビロン軍曹が撃たれた時、銃声が2.3秒遅れて聞こえてきたからです」

「想定の3倍の距離から撃って来たというのか……これではもう我々だけでは手に負えん。直ぐに多国籍軍として参加している各部隊に作戦の協力を求めよう!」

「作戦の協力とは?」

「決まっているだろう。本格的な死神(グリムリーパー)暗殺作戦だ!」

挿絵(By みてみん)

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