【Attack on the back④(裏側への攻撃)】
RPGを捕獲したあと、この正面の岩をグルリと一周して、他にもRPGが無いか確認した。
輸送機は見えないが、輸送機のある方向の見通しは抜群。
確かに、この位置にRPGを配備したというのは、地形的に間違いない。
正面には岩があり、その下には人が数人潜れるくらいの隙間もあるから、航空機からの攻撃にもビクともしない。
前面には幾重にも味方を配置しているから、正面からの攻撃にも強いし、側面も数は少ないけれどよく守られている。
おそらく俺たちが出てこないのを前提に、側面背面を守っていた人数を割いて、救援ヘリへの攻撃に向かわせたのだろう。
それがなかったら、近付くことはできなかった。
正面に見える岩場から幾つもの人の気配。
派手に戦ってしまったので、前面の守りについていた敵がこちらに向かって来ている。
早く撤収しないとヤバイことになる。
ゴンザレスを置いて戻ることはできないし、担いで戻るには左右の敵が残っているのが邪魔になる。
だから戦利品のRPGを左右の敵にブチ込んだ。
LéMATで様々な武器の射撃訓練を徹底的に熟したおかげで、正確に敵兵の居場所を捉え、左右からの銃声は沈黙した。
「大丈夫か!どこをやられた?」
「すまない、足をやられて歩けない。ここで援護するから俺に構わず行ってくれ」
ゴンザレスが話している間に、服を脱いでTシャツを破いて止血した。
「大丈夫!骨と動脈はやられていない。元気を出せ」
「しかし生身で110キロあ――」
ゴンザレスの言葉が止まるのも無理はない。
今の俺は、上半身スポーツブラ一枚だから。
「怪我をしながらも、俺を頭上の敵から助けてくれたご褒美くらいにはなったか?」
「いっ、いや、俺はそんな……」
「もっと良い事が出来るように、国へ帰るぞ。ただし相手をするのは俺じゃないけど、かまわないか?」
そういって拳を突き出すと「あぁ。俺が相手じゃアンタに悪い。故郷に居るガールフレンドで充分さ」と、そう言って拳を合わせてくれた。
上着を適当に羽織り、その上からボディーアーマーを付け、ゴードンの腰から弾倉ベルトを外して自分の腰に巻き付ける。
ゴンザレスの自動小銃は放棄した。
少し痛むが、我慢しろ。
そう言って、ゴンザレスを担ぐ。
確かに重い。
こんな重いものを担いで悪路を進むのは、入隊試験の延長で行ったマルタ島での空挺訓練以来かも知れない。
「すまねえな。重いだろ」
「まったくアメリカ人は、どうしてこうも筋肉オタクが多いんだ?」
LéMATのモンタナを思い出していた。
そう言えば奴は確か120キロあると言っていた。
もし負傷したのがゴンザレスじゃなくてモンタナだったら、俺は置いて行った。
あと10キロも重い荷物をこの岩場で運ぶなんて、こりごりだ。
頭の中で、置いてけぼりにされて情けない顔を見せるモンタナの顔が浮かんで、微笑ましかった。
勿論、負傷したのがモンタナだからって本当に置いて行きはしない。
目の前に、周囲を慌ただしく警戒するジムの姿。
もう直ぐ、ジムの居る中間地点に着く。
ジムが銃を撃ち始めた。
急いで走り、岩場の陰に潜り込むと、そこには2人の先客がいた。
ただし2人とも既に死んでいる。
ジムが援護射撃をしていなかった時間、彼はこの2人と戦っていたのだ。
「ジム、怪我は?」
「ああ、大丈夫だ」
ジムにケガがなくてホッとした。
ゴンザレスが歩けない状態で、ジムまで歩けなかったら、もう2人を連れて帰ることは出来ない。
俺たちが攻撃した岩場より前に居た敵が、さっきまで居た正面の岩場に取り付く。
約10人。
更に、そこから左右に展開する者も、それぞれ10人ほど。
輸送機からの重機関銃の音も聞こえるということは、この地域の敵に動きがあったということ。
おそらく少ない獲物を漁りに来たのだろう。
3対30。
これはナカナカ帰れそうにもない。
「ゴンザレス、撃てるか?」
「ああ、大丈夫だ」
ゴンザレスに俺のHK416を渡して、俺は死んだ敵のAK47を取って応戦した。
重点目標は左右に展開しようとする敵。
これを許してしまうと、もうここから脱出することは叶わない。
そして敵を撃ちながらも、たまに後方を確認する必要もある。
万が一、敵の部隊が返って来た場合、早く察知しなくては全滅してしまう。
長期戦は避けられそうにもないので、2人に出来るだけフルオートにしないように指示した。
俺たちの応戦で敵の動きも止めることが出来た。
だが、それだけ。
状況が好転したわけではない。
持久戦に持ち込めただけで、不利な状況は変わらない。
輸送機に居るレイやゴードンなら5発のRPG発射音を聞き分けているはずで、すでにヘリの救援要請をしているはず。
だが、同時に派手な打ち合いの銃声も、ヘリの攻撃に出た敵にも届いている。
敵が戻って来るような状況は作りたくはない。
「最後のマガジン装填する!」
ジムが言った。
援護射撃をするため派手に撃ちまくっていたので、弾の消耗が激しかったのだ。
「ゴンザレス。あと何マガジンだ」
「未使用1!」
俺のベルトには3マガジン残っていたので、ジムに2、ゴンザレスに1マガジン渡す。
死んだ敵は2人とも予備マガジンを使い果たしていたから、俺の残り弾数も少ない。
3人とも拳銃を持っているが、この距離だと拳銃はナカナカ当たらないから価値は低い。
もっと切羽詰まった状況用に残しておかなければ――。
「最後のマガジン装填!」
ゴンザレスが言ったあと、直ぐにジムも同じ報告をした。
それに俺も。
残る弾数は、それぞれ30発を切ってしまった。
あれから20名近い敵を倒したが、補充されたらしく依然正面にはまだ10数名の敵が居る。
長引けば、この地域に居る敵が全て此処に集まって来る。
そうなれば、俺たちの負け。
「ゴンザレスと俺で狙撃!ジムは後方警戒!」
弾が切れたのが分かると、敵は容赦なく左右に展開して更に不利になるので、狙撃の腕の確かな2人で応戦することにして、ジムには岩の裏側に回らせることにした。
そしてジムが裏をそのまま森伝いに、来た道を戻って輸送機に帰るように命令した。
ジムは嫌だと言ったので「命令!」だと言い聞かした。
「心配すんなって、拳銃の弾も俺と軍曹とでまだ60発はある。自動小銃と合わせると120発だ。それに軍曹の自動小銃の残り30発だけで敵が全滅する可能性だってあるだろ、だから遣られはしねえよ」
ゴンザレスが明るくそう言ってくれると、ジムは泣き出してしまった。
「馬鹿だなぁ、俺たちは死ぬためにお前を返すんじゃない。ゴンザレスはこの通り歩けない。それに敵がいるこの岩場を担いでは帰れないだろう?だからサッサと戻って戦車で迎えに来い!」
そう言ってジムの肩をポンと叩いた。