【Attack on the back③(裏側への攻撃)】
ここから先は、真直ぐに正面に突撃する。
急襲すれば敵兵は皆、自動小銃を手に取り反撃してくるはず。
こういう時に誰も重くて狙いの付けにくいRPGを手に取る奴は居ない。
もしも居るとすれば、余程RPGの扱いに慣れた奴か、知らず知らずのうちに真っ先に死を選んでしまう大馬鹿野郎のどちらかだ。
ジムは戦車兵だから、この岩場の戦闘は慣れていない。
海兵隊員のゴンザレスなら、突撃はお手の物だろう。
だから、ジムに狙撃援護を任せることにして伝えた。
「でも、この部隊で一番の狙撃手は軍曹だ。だから軍曹がここで狙撃するべきだ」
一般的に女性兵士が実戦部隊に配備されないのには理由がある。
それは男には、常に女性を守ろうとする心理が働くこと。
例えば拠点を占領するための突撃で、男性隊員が敵の真っただ中で負傷して動けなくなった場合、その隊員は目的を拠点占領から後方支援と自己防衛に切り替える。
もちろん負傷した男は、仲間が再び戻ってくるまで、その場に置いてけぼりだ。
しかし負傷したのが女性隊員だった場合、男性隊員の誰かが必ずその女を守るために落後してしまい、部隊は戦力を一気に2つも失ってしまう。
これはいくら教育しても難しい。
子供を産む女性の身を守ることは、男性の本能だから。
確かに狙撃の腕は、ここの誰にも負けやしない。
でも、この場に必要なのは狙撃で敵を倒す事じゃなく、突撃してRPGを奪う事。
これまで俺の指示に従順に従っていたジムの提案は、俺が女性である事を知ったために出て来たもの。
つまり俺を危険な任務から遠ざけようとしてくれている。
確かに俺がここで狙撃に着いた方が、戦車兵のジムよりも多くの敵を倒すことは出来るだろう。
だが、もし、その狙撃の銃声が途絶えたとしたら。
狙撃が途絶えると言うのは、何も負傷するという事だけではない。
狙撃に夢中になり過ぎて、左右からの敵の進入を許し、その敵と格闘戦になる場合もあるだろう。
その場合、ジムとゴンザレスは躊躇なく当初の予定通りに作戦を進められるだろうか?
俺は2人に聞いた。
「作戦の目的はなんだ」と。
「3門のRPGの破壊もしくは確保。それに、そのほかにRPGを持っていないかの確認」
2人は明確に答えた。
「もしも作戦途中で負傷、もしくは死亡しても、その場に置いて行く。敵に取り囲まれていようと、屍がさらし者になるのが分かっていようが今は敵のRPGを排除して、救援ヘリをここに呼ぶのが最大の任務だ。俺が撃たれて倒れたらゴンザレスが、そしてそのゴンザレスも撃たれて倒れたらジムがやる。いいな」
2人とも少し驚きはしたが、作戦の重大さを理解しているので素直に返事を返してきた。
突入する俺たちが負傷して動けなくなった場合の合図と、乱射やRPGの支援を依頼するときの合図、それとジムの周囲に敵が近づいていることを教える合図を確認し、ジムに持って来た2門のRPGを渡す。
合図がなくてもRPGを撃つのは自由とし、俺たちはその独特の発射音で在庫の確認をして判断する。
それからジムには、たまに穴から出て、身の回りの安全を確認することを伝えた。
袋小路で格好の狙撃位置だが、それだけに左右後方の視界は無いから。
「では、行ってくる」
「お気をつけて」
俺とゴンザレスは、いきなり突撃はしないで、なるべく発見されないように身を隠しながら近づけるだけ近づいた。
距離がまだあるので、早く発見されると近づけなくなる恐れもあるし、発見されないまま辿り着くことが出来れば、この上ない。
身を低くしながら時には這って、焦らずに接近する。
しかし目標まであと50mまで近づいたとき、左側の敵に気付かれた。
ちょうど左側からの攻撃に対する遮蔽物のない場所。
直ぐにジムに合図して左側への攻撃を指示した。
その間に銃弾が当たらないように、地面に這いつくばって耐える。
近くの岩に、無数の銃弾が当たり、跳弾が直ぐ傍を通る。
後方からバシュっという発射音。
さすがに戦車兵だけあって、大物を躊躇なく使うのが頼もしい。
白い煙が上がり左側からの攻撃の手が緩んだ隙を見て、前に走る。
10mほど走ると窪地があり、そこに一旦身を隠し後方のジムを確認した。
RPGを撃ったことで場所を知った右側の敵の拠点から3人が、ジムの隠れている岩場に向かっていたので、それを撃つ。
2人仕留めたが、3人目が岩に隠れて見えなくなり、ジムにそれを知らせた。
ゴンザレスと手りゅう弾を手に取り、爆発と同時に走ることにして、ジムにも援護の合図を送った。
「行くぞ!」
投げた手りゅう弾が爆発して白い煙が上がり、俺たちは岩場から飛び出す。
しかし、どうしたことかジムの援護がない。
乾いた岩場に、もうもうと白煙が立ち込めて敵の姿が確認できないが、それは敵にとっても同じ事。
意外に上手くいきそうだと思った矢先、横に並んでいたゴンザレスが付いてこなくなる。
おそらく負傷したのだろうが、今は構っちゃいられない。
無事を祈るだけ。
煙が薄くなった左側から4人の敵が現れ、応戦した。
2人倒したが、あとの2人が岩陰に隠れて、銃だけを出して滅茶苦茶に乱射してきた。
左側の敵に応戦している隙に、右側からも3人来た。
気付くのが少し遅れた。
“やばい!”
そう思った瞬間激しい爆発音と煙が右側を遮った。
ジムの放ったRPGだ。
直ぐに左側の岩に隠れた敵に向かって手りゅう弾を投げると爆発音と共に、正面からの銃声は沈黙した。
正面の岩場にたどり着くと、そこに2人の死体が転がっていた。
おそらく最初の手りゅう弾で命を落としたのだろう。
3門のRPGは、そのまま。
右側の3人はジムのRPGで、そして左側の4人は俺が銃と手りゅう弾で倒し、合計九人。
1人足りない。
俺の頭をかすめるように一発の銃弾が飛んだ。
“敵!?”
振り返ると、伏せたまま銃を構えているゴンザレス。
銃口からは白い煙。
背中を向けていた岩の上から、銃が落ちてくる。
それは、上から俺を狙っていた敵の銃だった。
RPG-7
種別クルップ式無反動砲
口径40mm
装弾数1発
全長950mm
重量7kg
銃口初速 115メートル毎秒




