【4 enemy soldiers④(4人の敵兵)】
とっさに伏せて、地面を強く押すと向こう側に飛び出したのは、俺が今バランスを崩した木の先端。
直径にして約10cm。
タックルを仕掛けてきた男の顔を、飛び出した木の先端が捉える。
当たった力が逃げないように、渾身の力を籠めて地面に固定すると強い衝撃が伝わった。
並の人間なら首の骨が折れたかも分からないくらいの衝撃。
起き上がると、俯せに倒れている男。
腕を逆手に持ち、ちょうど十字固めを仕掛けるような形で、仰向けにした。
木にぶつけた顔からは血が流れている。
鼻の骨が折れたのだろう、心なしか曲がっている。
脳震盪を起こして気を失っているうちに、拘束しておかないといけない。
もう一度男を俯せにして、脱がせたズボンの腰ひもで手を縛り、ズボンで足を縛った。
縛り上げるために、さっきの木の棒を利用して膝の曲げ伸ばしが出来ないようにしてから、担ぎ上げ俺が装備を置いたところまで一旦運ぶ。
途中、ズボンをロープ代わりに使った影響で、男の一物がブカブカのパンツから飛び出して、俺の頬をペタンペタンと打つ。
“ヤバイ、コンゴのモトリの一物を思い出してしまう……”
気絶してしまった本人に代わって、俺を攻撃しているつもりなのだろうが、非力ながらモトリの件がトラウマになっている俺への精神的なダメージは大きい。
“どうして男たちは、股の間にこんなものをぶら下げた状態で器用に走れるのだろう?”
正直、この男を担ぐのが嫌になった。
脱いだ服を着る前に、ロープでもう一度確りと結び直して気絶している男を起こし尋問した。
「他の者たちは、どこに行った」
男は知らないと答えた。
留守番役に詳しく内容を教えないのは、正規軍でない部隊ではよくあることだ。
だがヤザは、この男に教えて出ているはずだ。
自分たちの欠点と、敵の優れたところを理解して、組織を強くすることを考えているから。
死んだ男の胸に刺さったナイフを抜いて、男の胸に軽く刺し「言え!」と言った。
男は、神の名を呼んだだけで何も答えない。
更に力を入れると、ナイフが骨に当たった。
「どこに行った?」
男は震えながら、再び神の名を呼ぶ。
骨に当たったナイフの先を、グリグリと回し、骨を削る。
更に力を籠めようとしたとき、男が言った「お前たちの救援部隊を撃退しに行った。だから、待っても救援は来ない」と。
俺の予想が当たった。
次にRPGと地対空ミサイルを持って行ったかと聞くと、ここにRPGを2門残して、残りは全て持って行ったと答える。
地対空ミサイルは、いくつ残っているか聞くと、もう残っていないと答えた。
RPGの残りは何処にあると聞くと、裏に展開した部隊があと3門、救援ヘリ撃墜用に持っていることが分かった。
必要な情報は得ることが出来た。
もう、この男には用がない。
あとは、おとなしく休んでもらえればいい。
俺はゆっくりと立つ。
男の顔が、まるで恐怖でも感じたように歪んでいくのを不思議に思いながら、その場を離れた。
草の中に潜り込み、ある物を探していて、急にあることを思い出す。
首を伸ばして、辺りを確認する。
“ここに居た人間は自分で殺したというのに”
ズボンのベルトに手を掛けてそれを解き、パンツごと膝までおろして座りなおす。
そう。
おしっこをするために。
男たちのように、立ったまま簡単に済ませられない。
いちいちズボンを脱いで、おしりをさらけ出す必要がある。
いくら戦場経験が豊富にある俺でも、男たちの見ている所で、あきらかに男の物とは違う白くて丸いお尻を見られるのは恥ずかしい。
最後の一滴を絞り出すと、ふーっと幸せのため息が漏れた。
戦うのに夢中になって忘れていた時もあったけれど、ずっと我慢をしていた。
平たい葉っぱを千切って、残った雫を拭く。
下半身だけだけど、こうしてのんびりと肌が直に空気に触れる感覚は気持ちいい。
ほんの少しそのままの恰好でいると、どこから現れたのだろう、小鳥が肩にとまった。
生き物は可愛い。
人間だってそうだ。
人を殺すためではなく、ベッドの上で裸になりたかった。
“男と寝るっていうことじゃ無いからね”
自分の頭の中で思ったことが小鳥には筒抜けだと分かり、少し顔を赤くして弁解すると、小鳥は「さぁ、どうかしら?」と、からかうように飛び立ち、空中で囃し立てる。
「もー!意地悪ね」
そう言って俺も立ち上がり、パンツとズボンを上げた。
傷に効く薬草を見つけ、出来るだけ多くの葉を取りポケットに入れた。
捕虜の男のところに戻ると、男がビクッとして俺の顔を見て、その動きを目で追う。
その視線には構わず、俺はポケットから取り出した薬草で俺が傷つけた胸の傷を手当する。
「ありがとう」
何故か男に、礼を言われて驚いた。
「すまん、俺が傷つけてしまったところだから」
そういって、謝る。
「いや、俺は君を殺すつもりだった。だけど君は俺を簡単に殺せたのに殺さなかった」
「人質を取るためだからな」
「それは知っている。だけど情報を得た以上、君は俺を殺すと思っていた」
「お前が言った情報が嘘で、そのせいで俺の仲間が死んだり傷ついたりした場合は、迷わず殺す」
「知っている。嘘は言っていない」
「そうだろうな……」