【13:35 enemy base alone reconnaissance(13時35分敵陣地単独偵察)】
キムの容態も心配だが、気を失ってしまったフジワラも気になる。
他の重傷者も。
それに、今は怪我をおして戦ってくれている仲間たちの事も。
そこで俺は偵察を出すことにした。
レイをはじめ皆が反対したが、墜落のショックと傷の痛みを背負いながら、何時来るか分からない救援隊をただ何もしないで待ち続ける事が出来るのか問うと、渋々賛成をしてくれた。
それで俺が偵察に行くと言うと、皆が付いて来てくれると言い出した。
どうせ敵は動く気配がないのだから、4人で行こう、と。
レイが不満そうに「5人だろうが!」と文句を言ったがゴードンが「怪我人は連れて行けない」と俺の口真似をするように無感情に言った。
「ありがとう」
皆の気持ちが嬉しかった。
でも、俺は1人で行く。
敵も馬鹿ではない。
これまでの戦いで、俺たちが動かないのは、ただ立て籠もっているのではない事くらい、あのヤザなら見抜いているはず。
偵察を出すだけの人数の余裕もない事も。
当然反対されるのは承知の上。
案の定それを言った途端反対され、せめて俺が付いて行くと皆が口々に言ってくれた。
危険な任務だ。
フジワラと俺とで少しだけ入った、コクピット前の森とは違う。
戦力も士気も、それに面積も。
少ない人数から、更に数名の偵察を放った事が知れると、突撃を仕掛けてくるかもしれない。
動けない人間たちでは死角が出やすい。
今までは、その死角を動ける人間でカバーしてきた。
ジムが、せめて戦車で森まで送らせて欲しいと言ってくれたが、断った。
今までRPGの餌食にならなかったのは、それなりの距離が離れていたからで、森に近付くことは自ら命の長さを縮めに行くようなもの。
自殺行為だ。
森までは、ほふく前進で行く。
その間、敵に察知されないように援護射撃を頼む。
敵が頭を上げないような方法で。
「敵が頭を上げない方法?」
「そうだ」
「重機関銃の乱射か?」
「それでは、撃たれまいと反撃して来るだろう、お前たちはどんな場合一番隠れようとする?」
「狙撃!」
「そう、狙撃は常に“もしかしたら自分が狙われているのではないか”と言う意識が入る。そして目立たないように身を隠す。勇気のあるやつでも、狙撃兵が何処から撃っているのか探すのに集中してしまうから視野が極端に狭くなる」
「なるほど、それなら俺も出来るぜ」
負傷しているレイが明るく言った。
「もしも生きて帰れそうにない場合と、無人・もしくは取るに足らない戦力という合図として“のろし”を上げる。だが、それを見たとしても決して持ち場を離れるな。これは命令だ」
皆が、敵地への単独潜入のリスクに俯いた。
「大丈夫、きっと戻ってくる」
そう言って、一人一人の肩をたたいて、励ました。
「よし、では頼む!」
ほふく前進の際に視野を妨げるヘルメットは置いて行く。
レイがコクピット側、ジムが裏、ゴンザレスが正面、そして俺の進むハッチ側は一番狙撃の腕の確かなゴードンに頼んだ。
向かう先に敵が待ち受けていたのでは、その時点で俺は遣られて作戦も終わるから。
新しい拳銃を、空になった腰のホルスターに挿し、予備のカートリッジを多めに持ち、ポケットに狙撃用のスコープだけ入れた。
HK-416自動小銃は持たずに行く。
今回は偵察であって、なるべく戦闘はしないつもりだ。
森の中は見通しが悪い。
それに足場も。
素早く、しかも静かに動くのには邪魔になる。
自動小銃を使わなければならない状況になれば、それは戻ることが叶わなくなった時だろう。
じゃあ頼んだぞ!
後部ハッチから出たのでは目立つので、コクピット下を潜って、前車輪の収納スペースから機の隙間を縫うように伏せて進む。
後部ハッチの手前で、味方であることを告げてその先に進む。
ゴードンが伝えたのだろう、兵士達から「ご無事で!」と声を掛けられた。
ここからは、墜落の影響で草が薙ぎ倒されているから、目立ちやすい。
全速で草丈の高い正面側まで這って進んだ。
時折パン、パンと敵兵を狙う銃声が聞こえる。
まだ、森までの距離は長い。
仲間の援護のおかげで、無事森の端に辿り着くことが出来た。
正直、森が近づくにつれ不安になっていた。
もしも、森の端に見張りが居た場合、這いながら近づいて来る俺の姿は簡単に見つけられてしまい、そして簡単に殺すことが出来る。
だから、1番狙撃の腕の確かなゴードンに頼んだ。
おそらく彼なら、細心の注意を払いそれを見つけてくれるだろうと。
そのゴードンの発砲が一度も無かった。
見張りが居ないわけがないと思っていた俺にとっては、それが不安だった。
しかし辿り着いてみると、森の端には人影はなく、有るのは死体だけだった。
機銃や砲弾の破片で倒れた死体が、木々の根本を覆うように折り重なっている。
“俺たちが奪った命”
だが奪わなければ、俺たちの命が奪われていた。
暗い森を奥に進むと、倒木や落ちた枝が散乱していて足場が悪くなる。
もはや足音を忍ばせて歩くことなど困難に等しい。
これが航空機の30㎜機関砲の破壊力。
木々の枝という枝が落とされて、森がここから明るくなる。
所々に人体の一部と銃が散乱しているが、その数は左程多くはない。
破壊力に比べると、所詮航空機による攻撃はこんなもの。
だからいくら時代が進んでも、地上を制圧するためには歩兵が必要となる。
人の死には、それ相応の犠牲が必要だと言う事か。
それにしても、敵と出くわさないのが妙だ。
森に入って出くわすのは死骸ばかり。
別に敵を殺したいとは思ってはいないので、こちらにとっては好都合なのだが。
ようやく、ヤザと狙撃兵が居た場所まで辿り着いた。
拳銃を構え、注意して近づく。
しかしヤザは居なくて、あの堀の深かかった若者の首から上が吹っ飛んだ死体だけがあった。
更に進むと、ここに来て初めて生きている4人の兵士が屯しているのが見えた。
見つからないように、その周囲をぐるりと周る。
他に敵は居ない。
4人は、どいつも銃を地面に転がし煙草を吸って寛いでいる。
武器はAK-47と、それにRPGが2つ。
銃で殺るか?
いや、発砲音に気が付いて輸送機の攻撃に出ている敵が戻って来る危険性がある。
ナイフ。
2人は殺れる。
だが、声を出されて気付かれるだろうし、結局銃を使うことになるだろう。
RPGが有る以上、見逃しては置けない。