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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
183/273

【Resolution of Corporal Fujiwara(フジワラ伍長の覚悟)】

 なるべく森の中の敵から見えにくくなるように、戦車の影に沿って走る。

 それでも、近くを弾の通り過ぎる音が幾つも聞こえた。

「そろそろ伏せるぞ」

 そうフジワラに言って、草むらに身を沈める。

 直ぐにドーンと言う爆発音。

 爆発で吹き飛ばされた破片が白い煙の尾を引きながら、物凄いスピードで右横を突っ切って行く。

 戦場では運の大きさが生死を分ける。

 伏せた位置がもう少しだけ右に寄っていたら、俺たちはあの破片に切り刻まれていた事だろう。

 爆発に気が付いた何人かの敵兵が身を起こし、後ろを振り向き、そのうちの何人かが俺たちに気付く。

 そしてそのうちの何人かが、俺たちに撃たれるかゴードン達に撃たれ、運の悪い何人かが戦車の破片の直撃を受けて草むらに沈んだ。

 燃え上がる戦車では搭載していた砲弾と燃料による誘爆と火災がはじまりドンパチと賑やかになり、もう数十メートルも離れた場所に居る俺たちの所でもかなりの熱さを感じるほどだから、戦車のすぐ後ろの森に多く潜んでいた敵兵たちの中には火傷で戦えなくなった者も出ているだろう。

 高原に進出した敵兵の何人かが後ろを気にして振り向き、俺たちに気が付き、そして俺に倒される。

 そろそろ航空支援も始まる頃。

 急がなくては味方の航空機による機銃掃射の巻き添えを喰らう。

「突っ切るぞ!」

「OK」

 フジワラを担いで走るには、ボディーアーマーとヘルメットが邪魔だったので、その場に脱ぎ捨てた。

「GO!」

 フジワラは撃たれた方の足は使えないが、必死にケンケンして走る。

 それでも姿勢を低く出来ないので、いい的になる。

 右手でフジワラを支えているので、応戦は左手に持つ拳銃のみ。

 直ぐに18発撃ち切ってしまった。

 空になった拳銃を投げ捨てて、少しは軽くなったが、もう応戦は出来ない。

 あとは敵の弾が逸れてくれるのを願うばかり。

 反撃しない敵に対しては、余裕をもって照準を合わす事が出来るので、今までより弾丸の風切り音が近い。

 敵の武器がAK-47だった事だけで命が繋がっているようなもの。

 AK-47は、反動が大きすぎて、狙った的に当てるにはコツがいる。

 ましてやコピー品ともなると、狙えば狙う程当たらない。

 しかし、いつまでこの幸運が続くのか……。

 不意にフジワラに引っ張られて倒れそうになる。

「どうした!?」

「背中に弾が当たった」

 直ぐに走るのを止めて身を伏せた。

 幸い、フジワラはボディーアーマーを着ていたから貫通はしていないが、ダメージは相当あるだろう。

 ほんの十数センチ横にずれていたら、俺に当たっていた。

 輸送機迄の距離は漸く2/3まで来たところ。

 だが、これから先は敵の前を進む事になるので、いい的になってしまう。

「軍曹、俺を置いて行ってくれ」

「馬鹿!味方の機銃掃射を喰らうぞ」

「でも、このままでは共倒れだ。俺が軍曹の命令通り動かずに、あそこに長居し過ぎたせいでこうなった。責任は自分で取る。軍曹はここを迂回して輸送機に戻ってくれ」

「駄目だ、戦場に誰も残して帰らない」

 フジワラは「それじゃシールズじゃないですか」とニッコリ笑った。

「引っ張って行くぞ、少々痛いのは我慢しろ」

「了解、ボス」

 ほふく前進しながら、負傷したフジワラを引っ張って進む。

 歩くよりも遅いが、敵には気付かれにくい。

「来た」

 仰向けに引っ張られているフジワラが言った。

 空を見上げた途端、ボーッという亡霊の叫び声のようなM61 バルカン砲の音と戦闘機の金切り音が青い空を貫き、正面の森に砂ぼこりが舞い上がる。

 戦闘機は、まるでタッチダウンするように森を抜けると機首を上げ、飛び去って行き次の2機目も同じルートを機銃掃射して行った。

 そして3機目のルートは後ろの森。

 この攻撃に驚いた、後ろの森の敵兵が森を出て来やがった。

“万事休す!”

 遮蔽物の無い草むらでは防げない。

 地鳴り。

 そして戦闘機の爆音。

 機銃掃射の音。

「軍曹、ありがとう」

 そう言って、俺の胸のベルトに残った最後の手榴弾を取り上げるフジワラ。

「何をする!」

「軍曹は輸送機に戻って皆を指揮して下さい。俺1人のために皆を見捨ててはいけない」

「黙れ!」

「俺は大丈夫です。近づいて来る敵には、この手榴弾をお見舞いします。そしてこの戦闘が終わって、まだ俺が生きていたなら連れて帰ってください」

「だめだ!」

 フジワラは、どういうつもりか俺に覆いかぶさってきた。

「頑固だな、貴女は。じゃあ、俺が弾避けになってあげます。なにも一緒に死ぬことは無い」

「やめろ!なにを……」

 振りほどこうとしたが、出来なかった。

 それはフジワラが俺の胸の上で「日本に残してきた恋人の香りがする」と幸せそうに言ったから。

 地鳴りは直ぐそこまで来ていた。

 俺は手袋を脱ぎ、素手でフジワラの頬を優しく撫でた。

「どうして分かった?」

「だってボディーアーマーを脱ぎ捨てたら、体の線が細かったし、俺を担いでくれた体の柔らかさで……」

「すまない」

「いいですよ、敵を倒すのが兵隊の務めなら、女性を守るのは男の務めですから」

 負傷したフジワラを見捨てられない以上、これが最も有効な手段かも知れない。

 そう思ったとき、希望が見えた。

“この近づいて来る地鳴りは敵兵の物ではない、戦車だ!”

 草が邪魔をして辺りは見えないが、確実にキャタピラの音も聞こえる。

「フジワラ!助かるぞ!」

 覆いかぶさっていたフジワラに話し掛けたけれど、返事はなかった。

 首を触ると、脈は有る。

 体を除けると、ボディーアーマーが引き裂かれていて、脇腹の辺りから出血していた。

「隊長!迎えに来たぜ!」

 止まったヤクトシェリダンの後部ハッチが開き、銃を撃ちながらジムが降りて来た。

「フジワラが負傷している!」

「OK!」

 二人で気絶しているフジワラをヤクトシェリダンに乗せると、ジムが「出せ!」と言った。

「誰が運転している!?」

「俺の隣に居た相棒でさあ」

 フジワラの応急処置をしながら、どこで運転を習ったのか聞くと、さっきジムに習ったばかりだと答えて笑った。

挿絵(By みてみん)

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