【5:00, before being besieged(5時00分、包囲される前)】
30名ほどの兵士の治療が終わる頃には、薄っすらと空が明るくなりかけていた。
現在時刻AM5時。
負傷者の中には銃くらいは撃てる者もいたので、その者たちに機内から周囲の見える場所に警戒に当たらせフジワラ伍長とゴードン上等兵を呼び戻す。
死んでいた将校のマップケースから見つけた地図を頼りに皆で現在位置の特定と、2号機の墜落地点や敵のミサイル発射位置の特定をする。
先ず2号機の被弾から、この3号機が被弾するまでの時間に対して意見を聞く。
誰も計ってはいないので皆の感覚から平均を取り敵の発射位置を特定し、被弾してから墜落するまでの時間を当てはめ、昨日23時時点の俺たちと敵の位置関係を予想した。
結果は直線距離で約20キロから30キロの間。
先に被弾した2号機の墜落現場には必ず立ち寄る事だろうから、ゴードンの意見では、この山岳地帯の地形から徒歩で約12時間は掛かるとの事だった。
偵察から戻ってきたゴンザレスとキムの報告で、付近に自動車が通れそうな道は無く、この高原以外は殆どが石と木で覆われた歩きにくい高台だということだったので、敵に前衛部隊がいない限り13時までは安全かも知れない。
俺は直ぐにヤクトシェリダンを貨物室から出すことにした。
ジムは操縦も出来たので先ず貨物室に残されていたシェリダンⅡの砲塔部にワイヤーを掛けて前部ハッチの前まで引きずり出しそこに据えた。
ワイヤーを外した後、ヤクトシェリダンを機体の後方に移動させて、攻撃が始まった場合に開いたハッチの前に遮蔽物となるように攻撃するように指示を与えた。
こいつを動かすために操縦士と砲手の2人が必要になり、人数的には大きな痛手になるが、戦力としてはそれ以上の物が見込めるから仕方がない。
ジムに操縦と砲の操作のどちらをやるか相談したところ、ヤクトシェルダンは旋回砲塔を持たないが、走行していない状態であれば旋回は砲手側のレバーで車体を左右の方向に動かせる機能が供えられているということで助かった。
そこで俺は、ジムの隣に片腕を負傷して自動小銃を持てない兵士を見張り員として付けることにして、拳銃と双眼鏡を渡した。
そして機体側面についている乗降用のハッチを壊して、それを縦として重機関銃を配置する。
射手と弾薬係は足を負傷した者2名、それに手を負傷した見張り員の3名を一つのグループとして、弾薬はなるべく途中の給弾回数を減らすためにベルトを繋げて出来るだけ長く伸ばさせた。
前部のハッチに移動したシェリダンⅡのコマンドハッチにも重機関銃を取り付けて、ここにも負傷兵を2人配置させる。
あとの銃が打てる負傷者は、貨物用ハッチ下の僅かな隙間に寝かせ、各持ち場には予備の銃とありったけの弾倉と水筒を用意し、盾として使わなかったパラシュートと死亡した兵士達のコンバットアーマー(防弾チョッキ)を土嚢代わりとして置き、仕上げに泥を被せて分からないようにした。
機体の周りには、なるべく悲惨な墜落現場を装うように(実際に悲惨な墜落現場ではあるが)機内に散乱していた不必要な物や兵士たちの亡骸を周囲にばらまいた。
見晴らしの良い壊れたコクピットにはレイ伍長とキムの2人が軽機関銃を、そしてスナイパーのゴードンを配置し体力のあるゴンザレスはサポート要員として、武器や兵員の移動を任せた。
レイ伍長が修理した無線はノイズが酷いものの、とりあえず基地に現在位置と生存者数を伝えることも出来たみたいだ。
もっとも、向こうからの返信はノイズが激し過ぎて聞き取れない。
しかしまあこちらからの発信に対して、なにか応答している気配は有ったので電波が届いている事だけは確かなようだ。
万が一、声の解析は出来なくても、発信源から場所の特定はできるだろう。
通信が一応できた所で、各自持ち場で休憩を取らせることにした。
こちらは負傷者を抱えているから、この場所を離れるわけにいかない。
いわば籠城戦。
追手の手を逃れて休憩する術はないから、今のうちに出来るだけ体を休ませておく必要がある。
幸い、機の周囲は見晴らしが良く、その間の見張りは手と足の両方を負傷しているものに任す。
重傷者はモルヒネで眠らせていて、この頃になると生存確率が無いと判断して見捨ててしまった兵士たちの呻く声も消え、静かな朝が訪れようとしていた。
ひと段落終わったところでフジワラと高原の傍の森を歩いて、敵が隠れそうな場所を見て回る。
歩きながら「トラップ(罠)仕掛けます?」と聞かれたので「NO」と答えた。
たしかにトラップを仕掛けると、敵が来たことは分かる。
しかし10個仕掛けたとしても、せいぜいヒットするのは1~3個程度なものだろう。
それよりも敵に油断させて、少しでも多くの敵をなるべく森から高原に誘い込みたい。
ただ、陣地として厄介になりそうなところにだけは、別の物を仕掛けておいた。
それは迫撃砲弾。
迫撃砲はバラバラになって使えなくなっていて信管をセットされていなかった砲弾のみが爆薬として使えたので、それを木に吊るしたり地面に埋めたりして機に戻りフジワラにも休むように言って、俺も機体に寄りかかり目を閉じた。
“今頃ハンスは何をしているのだろう”
“もう、俺の乗った輸送機の墜落を知っているのだろうか?”
二度と会わないと決めていた心が揺らぎそうになる。
こんな事ではいけない。
俺はハンスのお兄さんを殺し、ハンスを傷つけたグリムリーパー(死神)だ。
ヤクトシェリダン(架空兵器)




