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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Death fight! Zariban Plateau(死闘!ザリバン高原)*****
174/273

【What I knew on the night of departure②(出発の夜に知ったこと】

 俺がハンスのお兄さんを射殺したグリムリーパーだと言う事を知らないハンスは、心配してバレットM82を俺の予備装備品として送ってくれたと言っていて、他にも何か言われたけれど殆ど頭の中には入らなかった。

 ただハンスのお兄さんをこの手で殺してしまったあの日の事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

 あの時、俺が未だ撃つ前に、ハンスのお兄さんは俺の正体に気が付いた。

 しかし、直ぐに撃っては来なかった。

 武器を持っていない少年を撃つことを躊躇したのか、狙撃の許可を待っていたか俺には分からない。

 あの時、俺には殺される不安など一切なく、ハンスのお兄さんを捉えていた。

 自分が撃たれると言う事は、考えてはいなかったが、今迄対戦した中で最強の狙撃手と言う事だけは分かっていた。

 遠くからで表情までは見えなかったが、その魂が子供である俺の正体に気が付いた事だけは気が付いた。

 だから、ハンスのお兄さんがトリガーに指を掛けたとき、ホンの少しだけ早く撃ってしまったため、狙いが微妙にずれた。

 いつもなら確実に脳天に突き刺さるはずの弾丸が、頸動脈を切り裂き、おびただしい血しぶきが上がった。

 続いて撃った観測兵の脳天には命中したが、その次の通信兵は背中をかすっただけ。

 その通信兵こそがハンスだった。

 ハンスの動きが速かったのは言うまでもないが、外すはずのない的を外しながらも俺には悔しさはなく、結局そのハンスが伝えた的確な砲撃座標により俺の居場所に砲弾が落ちてグリムリーパーとしての役目を終えることになったのだ。


 ハンスに空港まで送ると言われたが、2人きりになるのが怖くて物資を運ぶトラックに荷台に潜り込ませてもらい逃げるように基地を出た。

 景色は全て色を失い、まるでサオリを失ったときの様な気持ち。

 赤十字難民キャンプを抜け出して街を彷徨い、貨車や貨物船に忍び込んでフランスに辿り着いたあの時と同じ。

 いっそのこと、走るこの車から飛び出して任務からも部隊からも、そしてハンスからも逃げ出したい。

 だが、今度の任務は今までより危険な臭いがする。

 仲間を見捨てるわけにはいかないし、ヤザに復讐もしなければならない。

 そして俺に特別な任務を託してくれたハンスの期待にも応えたい。

 期待に応えたところで、何もなりはしない。

 俺がハンスのお兄さんを殺してしまった事実は変わらないし、俺がサオリを殺した義父のヤザを許せないように、事実を知ってしまったらハンスも決して俺を許さないだろう。

 だから俺は、この任務で仲間を守りきったあと、ヤザに復讐して自らも死ぬ。

 いや、ヤザへの復讐なんかもうどうでもいい。

 俺の命と引き換えに仲間の命が助かるのなら――。

 ハンスに知られる前に、消えて無くなりたい。

 そして……。

 そして、ただ一つ願いが叶うなら俺がグリムリーパーであることを一生分からないまま、ハンスの腕に抱かれてこの生涯を終えられたら……。

 夜の闇の中、頭の中を彷徨うのは、ハンスと居た時の事ばかり。

 外人部隊で初めて会った時、制服の前ボタンを一つ外したラフな体育会系のハンス。

 入隊試験のランニングの前、服を脱ぐ俺に背中を見せた真摯な態度のハンス。

 そのあとの格闘技試験では、まんまと俺の裏をかいて思いっきり俺を投げ飛ばしたハンス。

 射撃試験のあと、ハンスの仕掛けた罠に引っかからずに見事クリアした俺をジープに乗せて褒めてくれたハンス。

 その日に行なわれた全ての特別な実技試験をクリアした御褒美に服を買ってくれ、食事に連れ出してくれたハンス。

 俺のためにドライヤーをくれたハンス。

 初めて会った時から気になっていて、格闘技ではサオリ以外に負けたことのない俺を初めて負かし、俺の入隊を応援してくれて入隊が決まると喜んでくれたハンス。

 

 初めて会ったその夜の宿直室。

 夜中にドアの開く音で目が覚めた。

 ハンスがニルスと交代して部屋に戻る声が聞こえた。

 ハンスの部屋のドアの締まる音に導かれるように、俺はベッドを出てドアを開けると、そのまま廊下を進みハンスの居る宿直室の前まで来てしまった。

 そのときは、どうして来てしまったのか、分からなかった。

 でも今ならハッキリと分かる。

 好きだった。

 抱いて欲しかった。


 そのあともリビアでの作戦でバラクのアジトに潜入するときに恋人ごっこをした時の事や、パリのテロの前にDCRIの担当課長が俺に対して侮辱的な行動を部下に取らせた時にはその本部を占拠して汚名を晴らしてくれた。

 コンゴでの時だけじゃなく、いつもハンスは俺が無茶をするたびに、見守って助けてくれた。

 大好きなハンス。

 まだ出会って2年も経っていないのに、俺の心はいつの間にかハンスの虜。

 それなのに俺は……。


 いつ乗ったのかさえ覚えていない輸送機が、着陸態勢に入る。

 パリを出て何時間が過ぎたのだろう。

 もうここはバグラム空軍基地。

 アフガニスタンにある、ザリバン最前線に一番近い空港。

挿絵(By みてみん)

空挺装備のナトー

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