【Enchanted lace-up sandals(魅惑のレースアップサンダル)】
現場には警察の他に、ウクライナ軍も来ていた。
警察の事情聴取を受けた後、ウクライナ軍のレーシ中佐が来た。
「ユリア中尉、ご苦労様。君がナトー軍曹だね」
「はい」
「テロを防いでくれて、ありがとう」
「いえ」
「テロリストを捕らえただけでなく、爆弾の処理までするとは、さすが世界でも屈指のフランス外人部隊の特殊部隊員だけの事はある。なにか困ったことがあればいつでも遠慮なく言ってくれたまえ。ウクライナ軍、いや国を挙げて支援させてもらうから」
レーシ中佐は、そう言って握手を交わすと、地下に入って行った。
「本当、どこでも困ったことがあったら言ってね。屹度大統領も協力してくれると思うわ」
「しかし」
「どうしたの?」
「服」
お互いの服を見たユリアが「あー、ドロドロね」と嘆いた。
「ユリア、怪我は?どこか血が出ていないか」
「ないわよ。どうして?」
「君が捕まった付近に、血痕があったから」
ユリアは笑いながら「捕まるときに1人に蹴りを入れたからよ。でも直ぐに他の2人に取り押さえられちゃったけどね。ナトちゃんみたいにパーっと片付ける事なんて私には出来ないもの」
そこまで言うと、急に新たまって気を付けの姿勢をとる。
どうしたのかと思ってこちらも気を付けの姿勢をとると、いきなり抱きついて来た。
「どうした?!」
少し焦って聞くと「私を……いいえ、ウクライナの国民やウクライナに来た人たちをテロから救ってくれて、ありがとう」と言ってくれた。
抱きしめたかったし、その華奢な顎を引き上げて唇を合わせたい衝動が襲う。
でも年下の俺からそんなことは出来ない。
それに口はシャキシャキして行動もおてんばだけど、ユリアは誰よりも純真で可憐な女の子だ。
ホテルに戻って服をクリーニングに出す。
ロビーに戻って来た時もクリーニングに出すときも、フロントの従業員もボーイも嫌な顔一つしないで対応してくれた。
まだ時間は早かったが、直ぐにシャワーを浴びることにした。
時間がもったいないからとユリアが手を引っ張って、一緒にバスに連れて行く。
ドキドキしている俺にはお構いなしに、サッサと服を脱ぐと北欧らしい眩しいほど白く輝く肌が露わになる。
軍人のくせに、とてもスタイルが良い。
「何しているの。ナトちゃんも早く早く!」
言われるまま俺も服を脱ぐ。
「ワー!ナトちゃんナニコレ、筋肉?」
何かと思っている俺の顔などお構いなしに、いきなり胸を触って来た。
「大きいとは思っていたけれど、ナトちゃんって脱いだら凄いのね。しかも重力にも逆らっているし」
俺のバストに対する見解はエマと同じ。
「肌も綺麗で真っ白。北欧出身なの?」
「いや」
この楽しい雰囲気を大切にしたくて、その先は言わないで頭からシャワーを浴びた。
俺が“孤児”だと言う事や、ヤザやハイファの事を言えば、話しが暗くなる。
“巨乳でオッドアイの傭兵” 今はそれだけでいい。
シャワーを浴びて髪を乾かしてから、困ったことに気付く。
外に出るために履く、スカートやパンツが無い。
俺の方は、それでもスーツがあるが、観光地には似合わない。
ユリアの方はGパン1つだったから、履く物が無い。
とりあえず俺がスーツに着替えて、買ってこようかとも思ったが、ファッションセンスが無いので自信がない。
困っている俺を他所に、ユリアが「これが有るじゃん!」と言って見せてくてた。
見るとユリアは昨日買ったヴィシヴァンカを着て、ウェストをスカーフで巻いてワンピースにしている。
長めのヴィシヴァンカだから、膝上5㎝ほどのワンピースとして充分使えるし、とてもユリアに似合っている。
「どう?」
「とてもチャーミングだ」
「まあ、お上手ね」
それでは着替えて外に出るか、と思ってスーツを着ようとしたところ、ユリアに駄目出しされた。
「まさか俺も?」
「その通り」
俺は似合わないぞ。
そう思いながらも同じようにヴィシヴァンカを着ると、案の定下がスースーする。
元々ワンピース用に作られていないから、背の高い俺には丈が短い。
その上、胸のところが立体的に裁断されていないので、胸のふくらみの分だけ太ももの前の部分が上に上がる。
「うーんチョッとエロ過ぎるかな……」
ユリアがそう言うくらいだから、そうとうエロいと思う。
「よし!じゃあ君たちには自己主張を少し遠慮してもらう事にしましょう」
何を言っているのか分からない。
“君たち”っていったい誰と誰??
戸惑う俺に、ユリアがベストを着せた。
ベストが胸を押し、スカートの丈がホンノ少し長くなる。
「これで良し」
「でも靴は?」
「たしかに靴も汚れてしまっているわね……そうだ、買いに行きましょう!」
ユリアはフロントに電話を入れ、靴のクリーニングとサンダルを借りる手筈を整え、俺たちは一旦借りたサンダルで外へ出て真直ぐに靴屋に向かった。
どの靴にしようかとスニーカーのコーナーを見ていた俺だが、直ぐユリアに手を引かれてサンダルのコーナーに連れて行かれた。
ユリアが選んだのは黒のダブルサイドのレースアップサンダル。
そしてユリアが俺に選んだのは、ブラウンのレースアップサンダル。
2つともヒールは8㎝だけど、ユリアのレースは靴ひものような丸い紐で、くるぶしより5cmほど上。
それに対して俺に選んだのは平らなリボンに使うような紐で、ふくらはぎまで高さがある。
「チョッとこれ上まであり過ぎない?」
「それ、ナトちゃんみたいに足が長い人じゃないと似合わないのよ。だから文句は言わない」
結局、それで押し切られて購入することになった。
街に出ると昨日と同じヴィシヴァンカを着ているというのに、下がスースーして恥ずかしい。
しかも街を歩いていると男たちの視線が露骨に脚に集まっているのが丸分かりで、日頃体の線が余り出なくて肌の露出が少ない服を着てい俺にとっては、まるで別世界に来たような感じ。
部隊では女として扱われない規則を外でも通しているのに、ユリアと一緒に居ると、それが崩れてしまう。
でも、恥ずかしく感じたのは最初だけ。
不思議な事に、そのうち男たちのエロい目線も左程気にならなくなるばかりか、逆にそういう風に見られていること自体が俺の中で何かのエネルギーに変わっていくように感じられた。
“女の子”
そう、これが普通の女の子なんだ。