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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
158/273

【Play Yulia and Kiev trip②(ユリアと遊ぶキエフの旅)】

 公園で休憩した後、地下道を通って道の反対側に出て静かな通り進み、アパートの一室を借りて営業しているカフェに入ってパンケーキを食べた。

 俺はイチゴ、ユリアはブリュレを頼んだ。

 ごちゃごちゃしていなくて、まるで貸事務所にテーブルと椅子を並べただけのような清楚な店内。

 窓際の席からは通りが見え、妙に落ち着く。

 注文したパンケーキは幾段にも積み重なれて、その間に生クリームを挟んだケーキのように豪華で綺麗なものだった。

 味も旨い。

 一緒に頼んだ紅茶を飲みながら食べながら話をした。

 出身地の話や彼氏の有無、好きな音楽や映画と言った、ごくありふれた話しだが俺の場合それがありふれた話にならないから困る。

 特に面倒なのが出身地。

 あまり正確には言えない。

 それは俺が懸賞金を掛けられた”お尋ね者”のGrim Reaperだったから。

 だからいつも戦災孤児で、赤十字難民キャンプのスタッフに拾われて育てられたと言っている。

「ユリアは?」

「私は、普通の家庭。西部のオデッサ出身だから平和に暮らしていたわ」

 ここウクライナ東部ではロシアの影響力が強く、特にクリミア半島をロシアに実効支配されてからは険悪な状態が続き、内戦での死者数は5000人を超え第2回ミンスク合意を経た後ようやく終息に向かった。

「東部はロシア人が多いから」

 ウクライナには、ソビエト連邦に併合されていた時代に統治しやすくするために多くのロシア人が入っていて、それが独立後の体制を難しいものにしている。

“あれ!?”

 話しながら、窓の外、通りを歩く人物に気が付いた。

 それは、寝台列車の中で同室だった、あの年配の女性。

 確か途中のジロビンで降りたはずなのに何故……。

「KGBよ」

 急にユリアが言った。

「KGB?あんなオバサンが?」

「オバサンだから相手は油断するの。彼らは時々“ツーリストらしくない”不審な人物を見つけては、付きまとうの」

「俺は、ツーリストらしくないのか」

「“らしく”は見えるけれど、ミンスクでナトちゃんなにか目に付けられるような事した?」

 特に何もしていない。

 ミンスクでは時間が余ったので、公園でピロシキを食べ、駅のトイレで服を着替えたくらいなもの。

「おそらく、その公園で目を付けられていたのね。そして駅のトイレで着替えたので付けられた」

「まさか……ユリア、ひょっとして知っていたの?」

「まあね、あのKGB局員は、よく見かけるから。列車がホームに着いた時も貴方の乗っていた車両の車掌と話をしていたし」

「それで」

 そう。

 それでKGBをまくためにユリアは走ったのだ。

 俺たちが本気で走れば、年配のオバサンは着いて来られないし、脚に自信があったとしても街中でオバサンが全力疾走するのは違和感があり目立ち過ぎる。

 おそらく、まかれると思い慌てて駅前でタクシーを拾って追いかけて来たに違いない。

「でも、なんでそんなことを?」

「しらないわ。だけど昔っからKGBは人を監視するのが趣味だから。さっ、食べ終わったらここを出ましょう」

「でも、KGBがいるよ」

「大丈夫よ」

 ユリアは店を出ると、入って来た通りに面した出入り口には向かわずに、裏口に向かった。

 そこはアパート専用の駐車場。

「さあどうぞ」

 停めてあった車のドアを開けてユリアが言った。

 車は玩具みたいに小さなジープ。

「なんなのこの車、走るの?」

「日本製小型ジープ。スピードは出ないけど、雪道や不整地での走りは軍用車並みよ」

 車は、お世辞にも綺麗とは言えなくて塗装もカサカサになっているが、ユリアによると中古で買った時から既にこんな感じだったという。

 軍の将校なのだから、もっと国産の良い車が買えるのでないかと思っていたら、ここウクライナには自動車産業が無くて車の価格は給料に対して馬鹿のように高いのだと教えてくれた。

「これが、欧州最貧国と呼ばれる所以よ」

 数分走ったところで車を降り、ペチェルーシク大修道院が見える丘に着いた。

 とても大きな修道院で、真っ白な外壁に金色のドームを持ったバロック建築が青いドニエプル川に映える。

 歩いて近くで見ると汚れた部分が少しもなく、これが1037年に建てられたものかと驚いていたら入り口の近くに壊れたレンガの壁が置かれてあり、元の建物は第二次世界大戦の時に爆破されて現在の建物は2000年に修復された物らしい。

 女性が皆スカーフを被っていて不思議に思っていると、中に入るには女性はスカーフを被らなければならないと教えてもらい困っているとユリアがバックからスカーフを出してくれ、それを被って中に入った。

 中に入るとシャンデリアや祭壇、そして柱や天井などいたる所に金色の装飾が飾られているが、イヤミもなく天井や壁に描かれた数々の絵を神聖で厳かなものにしていた。

 ペチェルーシク大修道院と言うのは総称らしく周囲約7キロにも及ぶ敷地内には地下墓地やウクライナ歴史文化博物館、イワン・ゴンチャー博物館などがあり見ごたえは充分で、アップダウンもかなりあり良い運動にもなった。

 ペチェルーシク大修道院を出て、次はローヂナ・マーチ像を見に行った。

 像の高さ62m、土台を含めた高さは102mを誇る像は第二次世界大戦の勝利を記念して旧ソビエト時代に建てられたもので、ウクライナの祖国記念碑の母とも言われ、台座を含めて93mの自由の女神像よりも高いらしい。

「お腹空いたね」

 ユリアに言われて時計を見ると、もう3時を回っていた。

 宿の予約も取っていないので、のんびりしていられないと思っているとユリアが一緒に宿を取っていると教えてくれて、とりあえず駅へ引き返して荷物を出した。

 ホテルはドニエプル川に近い街中のホテルで、内装はまるで王様の宮殿に招かれたように綺麗だった。

「ここは私のおごりだから気にしないで」

「そう言う訳にもいかないだろう。結構高そうだし」

「いいのよ。これは訪ねて来てくれたお礼。その代り、約束通りディナーはおごってもらうからね」

 可愛い顔で笑うユリアは、まるでお姉さんみたい。

 荷物を置いて、着替えた後、ディナーを食べに外へ出た。

挿絵(By みてみん)

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