【From Belarus to Ukraine②(Minsk to Kyiv International Sleeper Train)ベラルーシからウクライナへ】
早めに駅に着いたので3階のカフェに入る。
このミンスク駅は22の国際路線を抱え、国際線の出発便だけでも1日に40便を数えるからまさに国際ターミナル駅。
ここ3階からは、その広いホームを見渡せるのでとても便利。
21時9分のベルリン行きが発車したかと思うと、直ぐに立て続けに国際線の寝台特急が入って来た。
22時26分発のラトビアのリガ行きと、22時28分発のモスクワ行きだ。
少し早いがホームに向かうと赤色の機関車に引かれた青い寝台車が入って来た。
どうやら、この区間の専用車両らしく青い車体にはロシア語でМинск-Киев(ミンスク―キエフ)と書かれてある
この日は空いているのか、いつもこうなのかは初めて利用する俺には分からないが、パリの鉄道に比べるとホームに居る人は少ない印象を受ける。
ドアは閉まったまま。
しばらく待っていると乗車のアナウンスが聞こえ、ドアが開く。
この頃になると、そこそこの人がホームに集まっていて、乗車を始めた。
ドアごとに車掌が居て切符とパスポートを見せて乗り込んだ。
自分の席に着くと年配の女性が一人いるだけで、どこに行くのか聞かれたのでキエフの友達に会いに行くと答えると「そう」と言って微笑んでくれたが、それは何だか形だけつくろった笑顔に見えた。
実はこのベラルーシとウクライナは鉄道路線が繋がっていると言っても、お互いの国どうしの関係は良くない。
その大きな原因はベラルーシと言う国自体が得意な政治体制もあり、最も親密な関係であるはずのロシアともギクシャクしているが、ウクライナとの関係はその中でもかなり悪いと聞いている。
定刻の22時40分になると列車は動き出した。
たまに乗るパリの地下鉄に比べ、やや揺れが激しい。
出発して3時間、列車がミンスクの次の駅ジロビンに到着すると同室の年配の女性はそこで降りた。
それから1時間ほどして2番目の停車駅ホメリに着くと車掌が出国審査を始めた。
ここは国境の手前の街。
ホメリを出て30分も経たないうちに、今度は入国検査。
これ以降は終点のキエフまで停車する駅もイベントも何もない。
時計を見ると午前3時半、あと5時間ほどまとまった睡眠がとれる。
廊下をこっちに向けて歩いて来る足音に気が付いて目を覚ます。
ドアがノックされ、誰だろうと思ってみると、車掌が小さなボックスを差し伸べた。
「Я принес завтрак.(朝食をどうぞ)」
「Спасибо Вы можете заказать напиток?(ありがとう、飲み物を頼めますか?)」
「Конечно же(もちろんです)」
俺は車掌に紅茶を頼んだ。
カーテンを開けて、運ばれた紅茶を飲みながら、外の景色を見る。
この国も緑が多くて美しい。
だけどベラルーシに比べると、森よりも小麦畑が多く、家々の間隔も狭い。
車窓からの風景はやがてビルや背の高いアパートが多くなりキエフが近い事を知らせ、もらった朝食の入ったボックスには手を付けずにスーツケースにしまい、降りる準備をした。
駅に着くとホームにはもうユリアが来ていた。
太ももの部分でカットされたGパンにタンクトップの上からカジュアルシャツを羽織り、、たすき掛け用の小さなリュックにシューズはナイキのピンク色厚底シューズ。
ホント、その辺りに居る大学生にしか見えない。
俺を探してキョロキョロしていたので手を振ると、まるで子供のように全力疾走して掛けてきた。
“まさか、そのままの勢いで抱きついてきたりしないだろうな……”
ふと勢いよく跳びつかれて転倒してしまう光景が頭をよぎり、そうならないように身構えて待っていると、予想通りユリアは走って来たまままるで漫画かアニメの一場面のように俺の胸に飛び込んできた。
真正面から受けてしまうと、運動エネルギーの逃げ場所が無く衝撃となる。
だからユリアの体の中心が、やや俺の重心の右側に来るように体をずらして受け止めると飛ばされないように確りと抱き寄せ、俺を軸として円を描くように回して直進してきたエネルギーを周回運動に変えることで衝撃を逃がした。
「キャー!まるで遊園地みたい!」
俺の苦労に気が付いているのかいないのか分からないが、ユリアは本当に遊園地で遊ぶ子供のように回ることを喜んでいた。
「久しぶりね、尋ねてきてくれてありがとう」
「いや、こちらこそ現地では本当に世話になって、おかげで多くの人命が救われた。あのあと隊に帰ってバレなかったか?」
「もちろんバレたわよ。作戦終了後のフライトレコーダーの提出は義務だから」
ユリアは悪戯がバレた子供のように無邪気に笑った。
「すまない。迷惑を掛けてしまって」
「いいの、いいの。演習じゃないんだから予定なんて、あってないようなものなんだから」
「怒られた?」
「常習犯だから、それ程でもないよ。それに私のフライト変更によって、そっちの作戦が旨く行った事で一切お咎めはなかったし、逆にそれで褒められたし」
それを聞いて、少しホッとした。
「気の利く隊長で良かったな」と言うと「気の利く隊長に、育て上げたからね」と、またユリアは悪戯っ子のように笑った。
「ねえ、お腹空いた?寝台列車で出された朝食セットは食べたの?」
「いや、紅茶を頼んで飲んだだけ。どのみちクイズの賞品に美味しいパンケーキをおごる事が決定していたからね」
クイズを出した覚えはないけれど、正解したのは確かだったので、一方的だったけど約束は守るつもりでいた。
「じゃあ、朝食に行きましょう!」
そう言うと、ユリアは俺の手を引いて走り出した。