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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
147/273

【Peace is back③(戻って来た平和)】

 ブラームとトーニに明日帰国だと伝えて、着替えを渡す。

 部屋にエマが居ないと思ったら、受付で退院の手続きをしていた。

「エマ、ごめんなさい。私だけ遊んじゃって」

「いいのよ。可愛いボーイフレンドたちとは、ゆっくり楽しめた?」

 何だか、言葉に棘がある。

「どうしたの?」

「あ~ら、どうもしないわ。ナトちゃんお肌艶々ね」

「エマだって艶々だぞ」

「まあ、私の艶々は“この歳にしては”と、注釈が付けられるけどね」

“トーニだ”

 こう言う余計な一言を付け加えたのはトーニに違いない。

 それで怒ったエマにマットを掛けられたのだろう。

「いいのいいの。私ももう30過ぎだから」

 手続きを済ませたエマが、そそくさと車に戻るために病院の通路をスタスタと小走りに歩く。

 あとから追いかける俺を振り向こうともしない。

「もうっ」

 俺は走って追い付くとエマの手を取って、無理やり病院のトイレに連れて行く。

「なんなのよっ、もう!」

 まだ悪態をつこうとする、その口を俺の唇で塞ぐ。

 口を塞がれたエマが、まるで駄々っ子のように拳を振り俺の肩を打つ、けれども俺は構わずその豊かな体を強く抱きしめて舌を捻じ込んでゆく。

 いつの間にか拳を振るっていた手が、俺の首に巻き付けられ、自分でも下を絡めてきた。


「もうっ。あんなところでレイプするなんて酷いわ。おかげで服がトイレ臭くなったじゃない」

 車に戻ったエマが文句を言うが、その言葉とは裏腹に顔は穏やかに笑っている。

「すまない」

「大丈夫よ。だってトーニはアンタに一途なんだもの。あんなガキに少々何言われても気になんかしていないわよ。フェイクよフェイク」

 すっかり機嫌を取り戻してくれたエマだけど、俺は知っている。女性の愛情に対する感情は物凄く敏感だということを。

 それは幼い時から常に多くの愛情に囲まれ、可愛がられて育ち、他人に対する嫉妬も多く経験してきているから。

 女の子として育てられていない俺にはなかった感情。

 それでも、あの赤十字難民キャンプではサオリたちに大切にしてもらい、その感情について少しは分かるようになったと思う。


 次の日の早朝にハンスとエマの3人で駐屯地を出て、病院にブラームとトーニを迎えに行った。

 2人を車に乗せて帰るとき、マルガリータがトーニにキスをして別れを惜しんで泣いていて、隣に座っていたエマが俺の耳元で小さく「妬ける?」と呟いた。

「まさか」

 女の子から女性へと育ったエマにとっては、こういうシーンは“妬ける”対象になるのだろうけど、そうでない俺にとってはこの若干15歳のストレートで純粋な愛情表現をただ羨ましく感じるだけだった。


 病院を出ていよいよゴーマ空港へ向かうが、その前にまたニョーラの検問所を通らなければならない。

 一応、大統領直筆の通行所を持っているのでフリーパスなのだけど、嫌だ。

 今朝病院に向かう時、モトリは居なかったから今回は安心して通れると思ったら、窓の向こうに見えるのはモトリ。

 屹度何かに感付いているエマが、わざと車をゆっくり走らせる。

 モトリは物覚えが良いらしくサングラスを掛けているのにエマに気が付いて、行っていいと笑って道を誘導しようとするが、エマは何故か車を止め、窓を開けてモトリを呼んだ。

 呼ばれたモトリは、愛想よく車の傍に近付いて来る。

 トラウマになった、あのアナコンダの様な下半身を。また意識してしまいドキドキしてしまう。

「ハロー。ワット、ドゥユー、ワント」

 窓から覗き込んできたモトリにエマが「Unamkumbuka huyu mwanamke?(この女性を覚えていますか?)」と声を掛けた。

 モトリは不思議そうに、首を伸ばして顔を近づけて来る。

 俺にとっては、まるでそのアナコンダが車内に潜入してくるように感じてビクビクしているのに、モトリはいつまでも俺を見ている。

 いい加減やめて欲しくてエマに早く車を出すように言うと、俺の声に反応するようにモトリの顔が変わった。

「Kwaheri!(さようなら)」

 エマが、そう言って車を出す。

 後部座席に乗っているトーニが「Motri, nakupenda!(モトリ、愛してるぜ!)」と声を掛けた。

 砂塵を巻き上げて車は加速する。

 恐る恐るバックミラーを覗いて見ると、唖然とした顔のモトリがいつまでも動かずに立ち尽くしていた。

挿絵(By みてみん)

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