【Trouble and counterattack⑤(トラブルと反撃)】
「俺が行く」
「そりゃあ無茶だ。敵は100人以上いますし、警戒も厳しい。死にに行くようなものです。やめて下さい」
「死にはしない」
「俺も一緒に行きます」
「そうか、ではお前にも危険な任務を与えるが受けてくれるか?」
「喜んで」
武器庫があった場所と反対側、南東の角に発電機が2基ある。
ブラームには雑木林伝いに発電機のある方に向かってもらい、そこへ取り付いて戦ってもらう。
ただ戦うだけじゃない。
俺の銃を持たせて自動小銃2丁と拳銃を使い、なるべく人数を多く見せるようにする。
そして発電機を盾にして戦う。
「何故、発電機を盾に?」
「発電機が壊れれば、新月の今夜なら辺りは真っ暗だ」
「じゃあ発電機を先に壊せばいいのでは?」
「俺たちが発電機を壊したのでは、敵にその意図がバレる。だからあくまでも発電機は銃撃戦のうちに敵が自らの手で壊す必要がある」
「発電機が壊れた後は?」
「発電機が壊れた後、俺は中に潜入する。お前は安全な場所に逃げながら銃を撃ち続けろ」
「逃げながら?」
「ああ、銃はどこを撃っても構わないから、全力で逃げろ。銃を撃ち続けるだけで、追手との距離は開くはずだ。とにかく敵に発電機を壊させるのが最大の目的。そして運が良ければ銃声を聞きつけたハンスたちが加勢に来るはずだ」
確証はない。
しかしハンスは、決して俺たちを見捨てない。
そして我々のトラックを追っていた敵の部隊が戻って来た時間を考えれば、既にもう近くまで来ているはず。
「発電機が壊れなくても、自分の身が危ないと思ったら即座に逃げろ。怪我をしたり捕まってしまうと元も子もない」
「では、行きます」
「くれぐれも言うが、自分の身を第一に考えろ。俺は、お前を失いたくはない」
「はい」
ブラームはニッコリ微笑んで、自動小銃を2丁持って行った。
暗闇の中で、その白い歯が印象的な笑顔だった。
ブラームが行くと、俺も直ぐに行動に移る。
潜入はブラームの銃声がして、混乱が起きてからだが、時間を短縮したいので出来るだけ接近しておきたい。
とは言え、敵に見つかってしまってはいけないから、行動は極めて控えめなもの。
なんとか隙を見て止めてあるトラックの下に潜り込むことに成功した。
ここから先は、兵士たちが多いので様子見になる。
“タタタタタ”と自動小銃の発射音が響く。
いよいよ始まった。
トラックの下から見える、兵士たちの靴が一斉に発砲音の聞こえる方へ向いて走り出した。
大型のエンジン式発動機の陰から、両脇にHK-416を構え30メートル程離れたトラック2台の燃料タンクに向けてフルオートで発射すると、直ぐに2台に火が付いた。
片手で適当に拳銃を撃ちながら、もう片方の手で2丁の弾倉交換をする。
交換が済むと、今度はセミオートと単発の違う設定に変えて、また2丁を抱えて撃つ。
直ぐに敵の反撃が始まったが、俺は軍曹のように射撃の天才的じゃないから、イチイチ的を外しては撃てない。
悪いが俺に当たった事を恨まないで欲しい。
俺の激しい銃撃に、敵も負けじと激しく撃って来た。
敵との距離が近いので、かなりヤバい。
大きな発電機が身を守ってくれていたが、敵の激しい攻撃に直ぐに2台とも壊れ、奴らのキャンプ地に吊るしてあった灯が消えた。
長居は禁物。
敵に回り込まれれば退路は断たれる。
灯が切れたのを合図に、直ぐに撤退を始めた。
軍曹には用が済んだら全力で逃げろと言われたが、簡単に復旧されてはマズイと思い発電機目掛けて撃ちながら後ずさると、こっちも燃料に火が付いたようで燃えだした。
よし。
我ながら上出来。
あとは、全力で逃げるだけ。
敵に背中を向けて、うまく発電機を盾に出来る方角に走り出した途端、膝がガクンと落ちた。
“何?!”
辺りを見渡すと、1人の兵士が回り込んで来ていたので倒れざまに射殺した。
“しまった。やはり直ぐ逃げるべきだった!”
太ももの裏側に違和感があり手で触ると、その手が濡れていた。
“やられた”
それでも、急所ではないし、今は痛さを感じない。
“走らなければ……”
もう銃を持つ元気はないから、銃を捨てて足を引きずりながら走った。
もう後ろを振り返る余裕もない。
願わくば、敵が追い付いてこない事を祈るのみ。
「また敵襲か!今度は一体何人だ?」
「まだ詳細は掴めていません」
「おい、そこの。直ぐ見てきて俺に知らせろ!」
「はい」
「お前とお前は分隊長を捕まえて、1つは敵の襲撃場所と反対の方向、もう1つには出入り口の警備に着くように伝えろ!」
「はい」
「全くどいつもこいつも、同じ方向に走って行きやがって。子供の戦争ごっこじゃないんだぞ!……なんだ!?電気が切れたじゃないか」
「ンガビ少佐、どうやら敵は3人で発電機の方から近付いてきた模様です」
「だからと言って、発電機を撃つ奴があるか!チクショウめ!」
ンガビ少佐の慌てる様子を見て、床に寝かされていたトーニが話し掛ける。
「ざまあねえな。直ぐに降伏して俺様を返さねえと、直ぐに全滅しちまうぞ」
「うるせえ!捕虜の分際で生意気な口をきくんじゃねぇ!殺すぞ!」
「おっと、俺様を殺すと、俺を助けに来た俺の仲間に貴様殺されるぞ」
「うるせぇ!おい、お前直ぐに小型の発電機を持って来い!」
「パニくって、全員出してしまって構わないのか?」
「足を骨折している貴様に何ができると言うんだ!」
「俺は、死神を呼ぶ力を持っている」
「馬鹿かお前は」
発電機を取りに行った兵士と入れ替わりで、1人テントに戻って来た。
「分隊を配置したか……」
暗いテントの入り口は確かに開いた。
だが、そこに目を向けても人の影は無い。
ンガビ少佐は、その入り口を懐中電灯で照らした。
映し出されるのは緑色の布地だけ。
「何者だ……」
拳銃を抜いて辺りを照らすと、黒い顔に左右色違いの瞳が見ていた。
直ぐに銃を発砲しようとしたが、その時には既に持っていたはずの銃は無く、その手には痛みだけがあった。
「お前、本当に死神なのか……」
その言葉を発するのが精一杯だった。
ンガビ少佐は後頭部に回し蹴りを喰らい、そのまま俯せに倒れた。
「いよう、俺の愛しのフェアリーちゃん。待ってたぜ」
「呑気な事を言うな、さあ行くぞ!」
「行くぞって、ナトーお前ひとりか?」
「そうだ」
「俺は足を骨折しているから、運び出すには担架が居るぞ」
「そんな暇はない。我慢しろ!」
「イテテテテ」
トーニを担ぎ上げ、テントを出ようとした途端、小型発電機を持って戻って来た兵士と鉢合わせしてしまった。




