【Rescue and defense③(救出と防御)】
ナトーとブラームの二人は見事に、捕らわれている司令部に潜入した。
ハバロフの無線に引っかかった敵の一部は、慌ててワリカレ付近の3号線と529号線の分岐点に検問所を作るために向かった。
次は俺たちの番。
顔にフェイスペイントを施し目立ちにくいようにしているが、服装や装備などはそのまま。
どのうち俺とトーニでは顔のつくりで白人であることは隠し切れない。ただ白い肌だけは目立ちすぎるから黒く塗ったに過ぎない。
武器弾薬庫に近付くのは思っていた以上に簡単だった。
それは万が一の事故に備えて部隊が展開している敷地の最も端にあったから。
ワザワザ敵中突破する事も無く、森を移動することで近付く事が出来た。
もっとも敵だって馬鹿じゃない。
森の中には侵入者に備えて、いくつかのトラップが仕掛けられていたが、それについては爆発物とトラップの専門家でもあるトーニが全て見つけて排除した。
特殊部隊と言うと格闘技など体力に秀でたものや狙撃の名手が定番だが、トーニのような専門的知識を持った隊員も必要だ。
しかし、この程度の部隊に武器庫が必要なのだろうか?
我々の司令部を拘束した部隊も、規模的には中隊規模に満たないが、予備の弾薬などは全てトレーラーの中だ。
俺たちより少し規模が大きいだけで、しかも重火器を持っていないこの国軍司令部ならワザワザ武器庫を置くよりも小隊ごとに管理させる方がリスクは少ない。
トラップのおかげで警備は手薄。
それでもドアの左右に2人居た。
格闘術の苦手なトーニは、役に立たない。
この見通しの良さで、殺さずに2人を1度に始末するのは至難の業。
少しでも手惑えば、声を上げられるか銃を撃たれるかして、俺たちの襲撃はバレてしまう。
俺は武器庫の横の壁に警備兵から見つからないように隠れ、トーニには武器庫の警備兵が良く見える位置に移動して2人の警備兵が近づいたタイミングを俺に知らせる様に言った。
しばらく待っても近付かない場合は、リスクは覚悟で次の手を打つ。
意外にも早くトーニから知らせが来た。
ライターの音と煙草の匂い。
煙草に火を付け合っているのなら、手もふさがっているはず。
勢いよく飛び出して、銃床で先ず手前の奴の後頭部を殴りつけ返す刀で奥の奴の側頭部を殴るはずだったが、それを止めた。
奥側の兵士は俺を見つけると、迷うことなく両手を上げた。
しかも、それを見て振り返った手前の兵士も同じように手を上げた。
直ぐ頭の傍まで上げていた銃床を止め、構えなおして、トーニを呼ぶ。
2人の兵士のこの素早い降参は有難いが、兵士としてはお粗末に違いない。
訓練を受けた兵士と言うより、普通の市民同然の反応。
おそらく、煙草に火をつけたところで、今までの緊張が一気に解けてしまったのだろう。
自分たちの本位に反して部隊が反政府側に寝返り、その応援も来ない状況。彼等もまた俺たちと同じ、いや常にだれかに襲われる恐怖を抱きながら任務に付いているに違いない。
2人を縛り上げ、一旦安全な場所に運んだ。
2人とも武器庫の鍵は持っていなかったので、トーニが鍵を開けた。
小屋の中には、銃弾と爆薬があったが、そう大そうな量でもなく、この様に厳重に保管するほどの事はない。
トーニに爆破の準備をさせている間に、警備兵に成り済ますためドアの外に立っていると、中から呼ばれた。
「隊長、これだけど……」
トーニが持つ袋の中を覗くと、何やら銀色の小さな石ころがたくさん詰まっていた。
「銀、なのか?」
「いや、これはタンタルだ」
「でも何故武器庫にタンタルがある?」
答えは明白。
住民たちから奪った物。
おそらく、この武器庫の訳も、そしてトラップを仕掛けていた訳も、このタンタルを盗まれないためだ。
「セットは済んだのか?」
「ああ、5分後に爆発する」
「じゃあ、そのタンタルを持って一旦退却するぞ」
「お宝、ゲットって言うわけだな」