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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
134/273

【Rescue and defense②(救出と防御)】

 大使館の車の準備日が出来た。

 セベール公使と、駐在武官のダバディー大佐と共に、車に向かう。

 官邸には既に作戦司令部のペイランド少佐たちが待っていて、私の姿を見て鼻の下を伸ばしていた。

 結局私はナトーの話を受け入れて、最初に用意していたドレスを着て参加することにした。

 当然、館内ではその服装に対して激しく抵抗されたが、テロの可能性がある事を伝える事でセベール公使とダバディー大佐も承知してくれた。

 見かけはゴージャスでエロチックな貴婦人だけど、髪をまとめている髪飾りは投げ矢になっているしガーターベルトの内股にはセラミック製の投げナイフ、そして携帯電話のスタンガンや催涙ガスが出る口紅に、スプレー缶の裏を強くたたくと煙幕が出るヘアースプレーなど完全装備。

 ついでに拳銃も持って行きたいところだけど、それはボディチェックに引っかかった時に大変な事になってしまうので止めた。

 車が出て20分も走ると、白亜の豪邸が現れた。

 大統領の屋敷。

 招待客とはいえ、入り口では金属探知機のチェックを受けたけど、セラミック製の投げナイフは金属ではないので反応しない。

 髪飾りは反応したけれど、装飾品としてパス。

 そのあとのボディチェックは、腰を触られた時点でキャーっと黄色い声を上げただけで、笑って許してもらい、ほぼフリーパス状態。

 日頃、女であることを武器にしながら、常識にとらわれていたのがバカみたい。

 もしもナトちゃんにアドバイスされなくて、軍服を着ていたら、こうも簡単にはいかなかったはず。

 やはり女は見た目が肝心。

 そして男はいつも、その見た目に騙される。

 しかも1度や2度騙されただけでは懲りずに、何度も誰にでもこの手は通用するのが可笑しい。

 私と違って他の男性陣は入念なチェックを受けていたので、暇を持て余す振りをしながらキディアバを探し、そして見つけた。

 キディアバの隣には2人の警備兵が居て、何か話をしていた。

 内務省の高官付き秘書が警備兵とワザワザ話をする必要性はどこにも見当たらない。

 この2人も仲間なのかも知れない。

 遅れて入って来たペイランドたち司令部部員に、そのことを伝えてマークするように伝えたが、あからさまな行動は控えるようにと、私の指示なしで動き出すことが決して無いようにだけは釘を射しておいた。

 敵はこのチャンスを逃しても証拠さえなければ何とでも言い逃れは出来るし、また次のチャンスは巡って来るだろう。

 だけど私たちには次のチャンスは無い。

 失敗するとテロを阻止するチャンスを逃すだけではなく、ナトちゃんたち現場の部隊に危険が迫る事も充分に予想される。

 会場に入る。

 白亜の豪邸に相応しい真っ白な宮殿風の立派な部屋。

 こんな立派な会場は、フランスでもチョットお目に掛かれない。

 立食パーティー用のテーブルには既に豪華な料理が煌びやかなトレーに並べられ、準備を終えたウェイターたちがカクテルグラスをトレーに乗せて待っている。

 この会のセッティングに骨を折ってくれた国務省のヌング氏が、ザマンガ国務大臣を連れて挨拶に来てくれた。

 ヌング氏は背の低い少しポッチャリ系の男で、いかにも真面目な事務官という印象。

 国務大臣のザマンガ氏は、大柄な男で、その容姿だけでも政治家として風格を漂わせていた。

「今日はお越し頂き誠に有り難うございます。またペイランド少佐以下司令部の皆様方には長らくお待たせいたしまして、誠に失礼をいたしました」

 ヌング氏はセベール公使や駐在武官のダバディー大佐だけでなく、ペイランド少佐や部隊の一人一人に丁寧に挨拶をし、私の前まで来ると満面の笑みを見せたまま固まった。

 知らない人物にも不快な顔を見せずに、こうして自己紹介をする機会を待つ態度は好感が持てる。

「申し遅れましたが、こちらはフランス陸軍のエマ少佐です。折角のお招きなので華も必要かと思い、失礼の無いように我が国の陸軍上級将校の中で一番の美人を連れてまいりました」と、セベール公使が言う。

「まさに華ですね。しかもこの様な美女が軍の将校とは、フランスにはさぞや美女が多いのでしょう。ようこそいらっしゃいましたエマ少佐。今日は楽しんで行って下さい」

 他の仲間と同様に握手を求められたので、私も無礼が無いように腰を低くして握手を交わした。

 確かに陸軍からDGSEに配属されている今の階級は大尉で、それが陸軍に戻れば少佐ということにはなるが“陸軍上級将校の中で”と言う前置きは必要ないのではなかったかと思う。ここは普通に“フランス軍で一番の美人”で良かったはず。

 そこのところだけ引っかかった。

「いやぁ、それにしてもお美しい。軍隊に居るのが勿体ない」

 国務大臣のザマンガ氏が、セベール公使の言葉に引っかかった私の気持ちをフォローするように褒めてくれた。

 さすがに政治家だけあって、人の気持ちを読むのに長けている。

「すみませんなぁペイランド少佐、閣議開催中だったもので折角来ていただいていたのに、お待たせしまして。お詫びに今日は色々な大臣を紹介させて頂きますので許してやってください」

 さすがは大臣と言うだけあって、美女を前にしても他の物へ対する気遣いは忘れない。

 内乱が絶えないコンゴだから、政治体制もボロボロなのかと思っていたが、意外に確りした対応に驚いていた。

 他国では考えられないほど、この国の政治は難しい。

 私の担当する北アフリカや中東にイスラム教の宗派対立が根強くあるように、アフリカ諸国では部族間の問題が絶えない。

 そして部族間問題を無視して植民地支配の時代に緯度経度や地形をもとに区切られてしまった国境、そして豊富な鉱物資源を資金源とする幾つもの武装組織と、その陰に潜む商人や企業。

 スマートフォンやノートパソコンに必ず使用されているタンタルコンデンサ、女性のお洒落には欠かせない金や宝石……ひょっとしたら私たち先進国に住む人間の便利さを追求する欲が、この国の人々を苦しめているのではないだろうか。

挿絵(By みてみん)

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