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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
127/273

【First Lieutenant Yulia Malychica②(ユリア・マリーチカ中尉)】

「中尉、降ろしていいですか?」

 MI-24の横の扉が開けられて、そこから兵士が顔を出して話し掛ける。

「ああ、降ろせ。ナトー、土産を持って来た。受け取ってくれ」

「なんだ?」

「食料と水、それに銃弾もあるぞ7.62mm弾だが使えるだろう?」

 俺たちの銃は5.56mm NATO弾で、ウクライナ軍標準装備のAKSの銃弾との互換性は無い。しかし激しい戦闘で銃弾の消費が激しかったので、敵の使っていたAK-47を回収していたが銃弾は少なかったので有難い。

「モンタナ、補給物資を有難く受け取っておいてくれ」

「了解!」

 モンタナはフランソワたちを呼んで、ヘリから降ろされた荷物を取りに行った。

「会いたかったぞ!ナトー軍曹」

「なんで?」

「だから、さっき言っただろう、無線を傍受していたと。君の作戦計画に我々はワクワクして聞き入っていた」

「じゃあ何故、あの時に……」

 応援に来てくれなかったのかと言いたかったが、それは政治的な問題が大きいので止めた。救出に成功したものの、南キヴ州ブカヴに駐屯している中国軍が事態発生後に直ぐ行動できれば、この様な大きな犠牲は出なかったかも知れない。

 おなじPKOと言っても、活動する州も違えば救援要請を出しても、派遣国側がそれを了承するかどうかは直接攻撃を受けていない部隊では判断できない。

 作戦司令のペイランド少佐が首都キンシャサで虜になっているのと同様に、すべては政治的背景無しでは成り立たないのがPKO部隊の弱点なのだ。

「すまない」

「いや、いい。事情はよく分かっている。もし我々が逆の立場になったとしても、抱える問題は同じだから」

「ところで、あの役に立ちそうにもない少尉の他に、戦いが終わって直ぐに戦いの勝利宣言とナイジェリア兵の解放、それに敵味方の損害状況や死傷者の搬送依頼を無線で飛ばしていたハンスって言う中尉はどこだ? 戦いに関与していなかった様だが、彼は政治将校なのか?」

「ああ、ハンスは政治将校なんかじゃない。このずっと先にあるニョーラにある我々の作戦司令部が、政府軍の裏切りに会い虜になってしまった時に脱出してきて、戦いの最後の指揮を執った俺たちLéMATの隊長だ」

「LéMAT!!」

 急にマリーチカ中尉が歓声を上げた。

「ナトー。貴女LéMATの隊員なの!?」

「ああ、そうだけど……なにか?」

「何かじゃないよ、じゃあリビアでのザリバン無血降伏や、パリでのテロ未遂事件も関わったの?」

「まあ……」

「ひょっとして、リビアの女性エージェントって、もしかして貴女?」

「誰だか知っていたとしても、言えない事になっている。わかるだろマリーチカ中尉」

「分かる、分かる。だってエージェントなんてトップシークレットだもの!」

 マリーチカ中尉は、それまでの軍人として僅かに残していた態度を崩し、まるで普通の女子大生のようになる。

 挙句に「私の事ユリアって呼んで。私は貴女の事、ナトちゃんって呼んでいい?」などと言い出す始末。

 もちろん友好的な話なので断る理由もないけれど、正直ユリアのギャップの激しさに困惑してしまう。


 ようやくハンスが降りてきた。

 片手に地図を持ち、何だか難しい顔をしている。

 偵察を頼めると聞いていたが、それにしては表情がいつもと違う。

「さあ、仕事の話ね」

 ユリア中尉はウィンクして、ハンスの広げた地図を覗き込んだ。

「偵察してもらいたい場所はここと、この周辺。ここに敵部隊が居るかどうか確認したい」

「もっと先まで飛べるけどいいですか?」

「ああ、今の時期ならリュウル川に掛かる橋を潰せば、ここから先の敵の進行は止められるから大丈だ」

 広げられた地図をのぞき込んでいて、ふと思うことがあってハンスに聞いてみた。

「ちょっといい?」

「なんだ?」

「俺からユリア中尉に、頼んでみたいことがあるのだけれど」

「敵部隊をせん滅しろとか、攻撃的なこと以外なら良いが、言ってみろ」

「ナトちゃんなに?なんでも協力するわよ」

「じゃあ、5人ほど乗せてもらえないか?」

「自分の目で敵の状況を確認したいのね。OKよ。じゃあ終わったらまたここに降ろせばいいかしら?」

「いや、敵の状況も見たいが、降ろすのはここじゃなく別の場所でも良いか?」

「いいけど……?」

「ば、ばか、お前!」

「ブラーム、フランソワ、ハバロフ、敵の偵察に行く。直ぐ準備して直ぐヘリに乗れ。モンタナ半日空けるが、あとを頼む」

「了解でさぁ」

「あれ。ナトちゃん5人って言わなかった? それだと4人じゃない?」

 ユリアの問いかけに、俺は黙ったまま首を少しだけ横に向けて、まだ地図を持ったままの男を見る。

「もう1人は俺だ」

 ハンスが苦虫を潰した顔をして装備を取りに行った。

「あんた、軍曹にしておくのはもったいないよ。将軍におなりなさい」

 ユリアが、大声で笑い出した。

挿絵(By みてみん)

ユリア・マリーチカ中尉

ウクライナ軍第14独立ヘリコプター部隊202号機パイロット。

ウクライナのオデッサ出身。

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