【Welcome to hell④(ようこそ地獄へ)】
分隊長3人で作戦を話し合った。
先ず部隊を2つの作戦部隊に分ける。
第1分隊とトラックはここに留まり、残りの2分隊がそれぞれ違う方向から、包み込むようにジャングルに潜む敵の背後に回り込み強襲して、これを押し出す。
うまく敵が道路側に逃げれば手前の6軒の家に催涙弾を投げ込み、その敵も道路側に出し敵を正面に留まった分隊の方に追い込む。
正面の分隊は敵を誘うようにトラックに乗り込み、応戦しながら逃げ、敵部隊を小隊本部のある村に誘い込む。
あとは小隊本部と合流して、前と後ろから敵を挟み込み殲滅する。
「だけど、もし敵が回り込んだ2分隊の方に向かったらどうする?」
「その場合は、正面の部隊が背後から敵を襲い挟み撃ちにする」
「家の中に催涙弾を投げ込まないで、手りゅう弾を投げ込んでもいいんじゃないか?」
「それでは、万が一情報が間違っていた場合、ナイジェリア兵に損害が出る」
「うまく小隊本部に誘い出せたとしても、敵の数は俺たちの4倍近く居るが、挟み込んだとき勝算はあるのか?」
「情報通りナイジェリア兵が捕虜としていれば、それもこっちの戦力として取り込める」
「敵は今逃げ帰って来たばかりだから、士気の落ちている今がチャンスかも知れんな」
「でも、援軍を待った方が良くないか?」
「どこの援軍を待つ?」
第3分隊のト軍曹が少し弱腰なのが気になったが、一応ここでの作戦会議は終わったので、状況と作戦を小隊本部のソト少尉に連絡すると、そのソト少尉からも援軍を待つように言われたのでムポフィの部隊とは連絡が付いたのか聞くと、まだだと回答があった。
これは俺の個人的な推測だが、ムポフィの政府軍部隊は故意に無線封鎖をしているのではないかと思う。
つまり俺たちが戦線を突破されれば、ニョーラを抑えた部隊と俺たちを蹴散らしてきた部隊との挟み撃ちに会う。
だから無線封鎖をして、どちらにつくとも意思表示をしない。
結局、ソト少尉がムポフィに援軍の要請をしたが、回答はないままだった。
『明日まで待てないのか?』
「明日になれば事態が好転していると言う保証があれば待ちます。だが敵の増援が来れば俺たちはもう持ちこたえられないし、今は捕虜として捕らえられているナイジェリア兵も、命の保証はなくなるかも知れません」
おそらく、ナイジェリア兵たちは、つい最近この辺りで捕らえられたに違いない。
部隊が前進か後退するときは、邪魔になるので切り落とされるのは目に見えている。
『しかしナトー軍曹、それは司令部の許可なしでは判断できない』
「じゃあ司令部の指示を直ぐに受けて下さい」
『司令部は、いま敵に拘束されているじゃないか』
「では小隊本部で判断を」
『……』
「司令部と連絡が取れない非常事態のために、小隊本部が随行しているんですよね」
『それはそうだが、今はケビン中尉が死んで』
「では、副官に判断を仰ぎたい。副官は誰ですか?」
『副官は、それは俺だけど……明日まで待てないか?』
「それは、さっき言いましたよね。無駄話はやめて下さい」
『なんで俺に相談する? そんなこと現場で判断すればいいじゃないか……』
「了解、では作戦を実行しますので、そちらも準備を進めておいてください」
『……』
無線を切った。
まったく馬鹿馬鹿しい。
「なんだよコイツ、散々グダグダ言って、結局責任逃れじゃないか」
近くで聞いていたトーニが悪付いた。