【Welcome to hell③(ようこそ地獄へ)】
既に地獄への扉は開かれた。
あとは前に行こうが、後ろに行こうが、どちらに行っても行先は地獄。
一切の綺麗事が通用しない地獄から抜け出すには、地獄を制圧する以外ない。
尾根に築いた陣地をビバルディーたちの重火器分隊に託し、俺たちは丘を下り敵主力の討伐隊に加わる。
「折角、作ったのに良いのか?」
「ああ、君たちなら安心して任せられる」
「頼むぜ、サッカー野郎!」
「任せとけ、アメフト野郎!」
モンタナとビバルディーは、そう言ってお互いの腹を殴り合って別れた。
村には小隊本部と負傷者の多かった第2分隊を残し、先頭が俺たちLéMAT。
続いて第1分隊が続き、その後方に弾薬を積んだトラックを同行させる。
第3分隊は二手に分かれて、道の両側の奥を進ませた。
トラックはメントスが運転し、モンタナとハバロフが同乗して警戒に当たる。
先頭の俺たちと、一番後ろのトラックとは200メートルほど離れているので、エンジン音は聞こえない。
隣村の入り口付近まで来ると、ブラームが敵の見張りを見つけた。
見張りは3人。
フランソワを呼びよせて、俺とブラームに加えた3人で見つからないようにゆっくりと近付き、殺さずに静かに寝てもらった。
見張りが居なくなったのを怪しまれると困るので、直ぐにブラームが男の服を羽織って、成り済ました。
見張り員は大したことがなかったが、彼等が選んだこの場所はこの村にいる敵を攻撃するには好都合の場所だった。
早速フランソワがM249ミニミ軽機関銃を据えた。
この村の家屋は7つ。
1軒を除く6軒が道の向こう側にある。
村の周囲にも銃を持った敵兵が5人居て周囲の警戒に当たっている。
「さあ、一丁やったるか!」
気を持ち直したトーニがわざと明るく言ったが、攻撃は少し先延ばしにして、さっき捕まえた3人を起こして尋問することにした。
3人に、村の中にナイジェリア軍がいるか?とフランス語で聞いた。
コンゴも、隣国ルワンダも一応公用語にはフランス語が入っている。
だが、この3人はフランス語を理解しない。
英語も駄目。
「Kuna askari wa Nigeria katika kijiji hicho?」
(村にナイジェリア兵はいるか?)
「Kaa」
(いる)
「Jengo gani?」
(どの建物だ?)
「Barabara.Zaidi ya hapo.Nje Mbili na mbili」
(道を越えた、外側の二軒ずつ)
「Washirika wako.Wapi Unajificha?」
(お前たちの仲間は、どこに隠れて居る?)
「Sio rafiki.Kutishiwa kuua」
(仲間ではない。殺すと脅された)
「Wako wapi watu ambao walitishia」
(脅した奴らはどこに居る)
「Huko, kule, zaidi ya hapo」
(あそこと、あそこと、あの向こうにも居る)
「Baadhi Ulikwenda sehemu nyingine?」
(誰か、出て行った者たちはいるか?)
「Hapana」
(いない)
「Kuna wangapi katika yote?」
(全部で何人居る?)
「Karibu 200」
(200人くらい)
「Asante.Unapomaliza unaweza kwenda nyumbani」
(ありがとう。終わったら国へ帰してやる)
「Asante.Mungu wa kike」
(ありがとう。女神様)
「……Kwanini mwanamke?」
(何故、俺が女性だと?)
「Unaweza kusema na harufu」
「Ndio ndio」
(匂いで分かるよなぁ)
(うんうん)
そう言って彼らは笑った。
「Imejaa mpaka imalizike, lakini uwe na subira」
(終わるまで、窮屈だけど我慢しろ)
「Sawa,Sawa」
(大丈夫、大丈夫)
再び彼らに猿轡をした。
「こいつら最後の方で笑っていたけど、何だったんだ?」
「いや、何でもない」
まさか、こいつらに俺が女であると言い当てられたなんて、余計な事だ。
こいつらの話は信用できる。
おそらく彼らをここに立たせた奴らから、捕まっても何も喋るなと言われた事だろう。
だが彼らは元々部隊の人間ではないから、捕まって尋問されれば命惜しさに直ぐ喋る。
ちょうど第3分隊も到着したところで、状況を説明した。
敵がいる建物は、道のこっち側にある1軒と6軒並ぶ真ん中の2軒。両サイドの2軒ずつに捕まったナイジェリア兵が閉じ込められている。
そして村の奥にあるジャングルにも敵は潜んでいる。
「数は?」
「約120」
「信用できるのか? 偽情報だったらどうする」
「さっき俺たちを攻撃しに来た部隊がこれだと考えると、まだ正確な敵の被害状況は把握できていないものの、大凡の人数は合う。そして彼らが生粋の兵士ではなく、どこかの村から強制的に連れてこられたのではないかということも、履いている中国製のサンダルや押収した彼らの武器からある程度想像できる」
「と、言うのは?」
「彼等の持っていたAK-47の弾倉内に入っていた弾は10発程度。しかも予備のマガジンを持っていなかった。つまり、敵の襲来を知らせるためだけの役目に使われたのではないかと思う」