【Welcome to hell①(ようこそ地獄へ)】
撤退する敵に追い打ちをかけるのは、敵の消耗を狙うには効果的だ。
なにしろ逃げる敵は背中を向けているから攻撃は出来ないし振り向いて防戦したとしても、ずっと正面に敵を目で捕らえながら追い続けている者と比べれば、振り向きざまに得られる情報量は少なく命中精度も上がらない。
つまり逃げ続けている限り、有効な反撃は出来ないということ。
この辺りが組織として訓練を受けている軍隊と、寄せ集めの民兵との違い。
例えば俺たちが撤退する場合は、逃げる列に居る班が交代で追ってくる敵の対応に当たり味方の援護をする。
民兵の場合は集団で基地に逃げ込むか、追われて散り散りになるかのどちらか。
敵が撤退したのを受けて第1分隊が追い打ちに出た。
俺たちの方は、まだ正面の奴らが片付いていなくて、出られない。
「結局、だれも降伏してこなかったです。まったくなんて奴らだ」
降伏してこない敵は、昔、太平洋戦争でアメリカ軍を悩ませた日本軍のように屈強な精神力を持ち死ぬまで戦うという崇高な意思などはない。
ただ、薬でラリっているだけ。
少々撃たれても痛さを感じないで、死ぬまで自分は世界最強の戦士だと思って、銃を撃つことを楽しんでいるだけだ。
こうなれば、もう人間の意志は通じない。
情けは無用。
ヘルメットに微光暗視と熱線映像の両方が使えるAN/PSQ-20を装着し、肩に掛けていたHK-416を構え、まだ生きている奴を狙って撃つ。
下でもまだやっているらしく、AK-47の音とM-16の音と甲高い悲鳴も聞こえた。
全ての赤外線反応が消えるまで、そう時間は掛からなかった。
そして、敵の銃声もここから消える。
「戦闘終了時間は?」
「21時12分です」
たった1時間ほどの戦闘。
今夜は長い夜になりそうだ。
「負傷者は居ないか?」
メントスに聞くと、ないと答えた。
闇夜の中、目標がどこかも分からないままの部隊と、暗視装備をした部隊との銃撃戦だからそんなものかも知れない。
いや、むしろそんな状況下で弾が当たったら不幸としか言いようがないのかも知れない。
「各自、弾薬の確認と補充を急げ!」
「軍曹、小隊から至急下りてくるようにとのことです」
「小隊から? 小隊長のケビン中尉からではないのか?」
「それが……」
「負傷したのか?!」
「……いえ、亡くなられたそうです」
俺は急いで丘を下りた。
俺たちの陣地と違い、ハッキリとした目標物に布陣して戦った普通科小隊の方には数人の負傷者が出ていた。
「あっ、ナトー軍曹。こちらに」
小隊本部付の伍長に言われ建物の中に入ると、ソト少尉、ツボレク軍曹をはじめ各分隊長が集まっていた。
皆一様に俯いていて、まるで負け戦。
「一体、なにがあった」
ソト少尉の話では21時7分、第1分隊を敵の追撃に送り出した後、直ぐに状況確認に出たケビン中尉は道路上に血を流して既に死んだと思われていた敵兵に撃たれて亡くなった。
結局さっきの戦闘で、普通科小隊は死者1名、負傷者7名の損害があった。
それにしても、この戦闘での唯一の死者が指揮官だったとは……。
「実は皆に集まってもらったのは、ケビン中尉が亡くなったことではない」
だろうと、思った。
小隊長が戦闘中に亡くなっても、副官が残っていれば、それを伝えればいいだけの事。
何も各分隊長が持ち場を離れてまで、集まる必要はない。
「実は、司令部が拘束された」
「司令部が拘束された?! 意味が分からないんだが」
敵の追撃から戻って来たばかりのエラン軍曹が声を荒げた。
ほかの軍曹たちも騒めいた。
「司令部を置いたニョーラの守備隊長が、敵側に寝返った」
「ムポフィの方はどうなんだ?」
もしもムポフィの守備隊迄敵側に付いたとなると、もう俺たちは袋の鼠。逃げ場はない。
「ムポフィの方は、今連絡が取れない」
「それは、いつ知った?」
「ついさっき、ケビン中尉が戦死した知らせを送った時」
「敵の無線手が教えたのか?」
「いや、司令部の無線手だ」
「と言うことは、みんな無事なのか?」
「ああ、拘束されているらしいがニール中尉以下、全員無事らしい」
「何故、司令部の無線手が、それを伝える事が出来た?」
「奴らの無線手が死んだらしい」
おそらく裏切り者と、そうでない者の間で戦闘があったに違いない。
そして裏切った側がニョーラを制圧した。
司令部の隊員が捕虜として生かされているのは、おそらく自分たちの身の安全を確保するための人質としてだろう。
「ハンス中尉は無事なのか?」
「さあ、これ以上の情報な何もない」
M16A1
口径5.56mm
銃身長508mm
ライフリング6条右回り
使用弾薬5.56x45mm NATO弾
装弾数20発/30発
作動方式ガス圧作動・ガス圧作動方式#ガス直噴式
ロータリーボルト/マイクロ・ロッキング・ラグ閉鎖
全長999mm
重量3,500g
発射速度900発/分
銃口初速975m/秒
有効射程500m
近代を描いた戦争映画は勿論の事、スパイアクションから刑事もの、ヤクザものの映画まで国内外を問わず数えきれないほど多くの作品に登場します。そして敵はAK-47(笑)
アニメでは『ゴルゴ13』の主人公の持つ銃として有名です。