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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
112/273

【Political confusion(政治による混乱)】

 午前4時、まだ暗い中、再び部隊は泉の野営地を後にした。

 目的地は、昨日密猟者たちが襲われた場所付近での、拠点の確保。

 赤外線スコープを付けて用心深く進んだが、敵と遭遇することはなく、午前9時に昨日密猟者たちの死体を置いた場所に到着した。

 置き去りにした遺体収納袋はそのままだが、トラップを仕掛けられている可能性もあり、爆弾に詳しいトーニに調べさせたが大丈夫だった。

 作戦本部から遺体収納袋を道に並べて、この少し先にある小さな集落が見える地域に陣地を構えるように指示されたので、1時間歩いて集落の見える小高い丘に陣地を築く。

 家は5軒。

 石を積み上げた上に、葦を積み上げただけの小さくて粗末な家が並んでいた。

 人の姿は無い。

「こんな所にも人が住んで居るんですね、一体何をして暮らしているんでしょうか?」

「日がな一日、昼寝でもして呑気に暮らしているんじゃねぇか? まさか、ここからどこかの工場に勤めに行くわけもねぇし、茶屋を開いたって誰も来やしねぇ」

 ミヤンの言葉に毒舌で返すトーニ。

 どうやら、いつものトーニに戻ったらしい。

「近くに川でもあるのだろう」

「じゃあ、川で洗濯か?」

「いや、鉱物の採取だろう」

「鉱物?」

「そう。タンタルやタングステンなどをザルで採る作業。一日に採れる量はほんの少量だろうが、この辺りの住民の多くは、それで生計を立てている」

「まあ気の長い仕事だな」

 確かに気の長い仕事だ。

 だが、彼等にとってそれは生活のかかった大切な仕事、少しの鉱物を採るために家族総出で日が暮れるまで休みなく仕事をしても決して裕福な暮らしは出来ない。

「ハンス中尉、作戦本部のニール中尉から無線です」

 ハバロフがハンスを呼ぶ。

 無線の相手が副官のニール中尉と言うことは、まだペイランド少佐は首都のキンシャサから戻っていないのか……。

「なに?!――――冗談じゃない。――――ふざけるな!――――放っておけ!」

 何の話か分からないが、珍しくハンスが無線の相手に怒っている。

「直ぐに行くから返事は後にしろ! それから俺の代わりに小隊本部と重火器分隊をここまで押し上げろ、直にここは戦場になる!」

 無線を切ったハンスが俺を呼ぶ。

「どうした?」

「ペイランド少佐は昨日やっと国務大臣と面会が叶ったそうだ」

「それは、良かったな……で、何か問題が?」

「さっき連絡が入ったそうだが、大統領が合いたいと言っているらしい」

「また、こっちへの到着が遅れるな」

「遅れる? そんな生易しいものじゃない!大統領は、明日の晩餐会に司令部を招待した」

「じゃあ、少佐の到着は明後日……」

「馬鹿、大統領は司令部を招待したと言っただろ!」

「まさか……」

「そう、そのまさかだ。この非常時に、司令部ごと晩餐会に出席するように言ってきたそうだ。俺は一旦司令部のあるニョーラに戻る。俺の代わりに小隊本部が来るから、あとはケビン中尉の指示に従え」

「でも、どうやって戻るつもりだ?」

「死体と一緒にムポフィまで行けば、政府軍がニョーラまで送ってくれるだろう」

 そう言うと、ハンスは急いで戻って行った。

 ハンスは要らないと言ったが、子ゴリラを保護してもらう必要もあるのでモンタナとジェイソンの2人を護衛に付けた。

 それにしても、この非常時にナイジェリア軍の救出に来た俺たちの司令部を晩餐会に呼ぶなんて事態の重要性を理解していないとしか言いようがない。

 ハンスが出て行ったあと、少し思い当たることがあってハバロフに無線を依頼した。

「どうにかしてフランス本国に無線を飛ばせるか?」

「司令部に頼んで大使館を経由させてもらえれば、連絡は着くと思いますが……」

「よし、依頼してくれ」


「――じゃあ、悪いが頼む。この埋め合わせは帰ってから……」

 これで何とかなるだろう。

 要は、大統領の面子がたてばいいと言うより、大統領を喜ばせれば良いということだ。

 無線を切った途端、今度は普通科の分隊から無線が入った。

 第1分隊と第2分隊がもう直ぐここに到着する事と、ハンスが小隊本部の車でニョーラの司令部に出発した事。

「ハンス中尉がニョーラに行くのに、小隊本部の車を使ったと言う事は、どういうことです?」

『なんか知らんが、ムポフィの政府軍部隊は現地から動けんらしい』

「では、遺体の収容も我々の車で?」

『そうだ、小隊本部の車を出した。だから現地入りは予定より遅れるが、その間指揮を頼む!』

「了解しました」

 ケビン中尉からの無線を切った後、ハバロフが不思議そうに聞いて来た「遺体の収容は、政府軍がするはずではなかったのですか」と。

 政府軍と協力し合ってナイジェリア軍を救出するという作戦に、何か怪しい影が差している予感がした。

 つまり、いつまでも首都キンシャサから帰って来られないペイランド少佐と同様に、政府軍もムポフィから動かないという訳か。

 動かない2つの駒が並ぶボードに、嫌な予感しかしない……。

挿絵(By みてみん)

ボッシュ1等兵

ドイツ出身

身長182㎝体重90㎏、いつもフランソワとジェイソンの3人で、つるんでいる。

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