【Poacher②(密猟者)】
ハンスはジャングルの丘伝いに、そして俺たちは直ぐに下に降りて道の向こう側に回り、銃声のした方向に急いだ。
銃声はさっきの物だけ。
少し走ると道の真ん中に白いバンが見えた。
「あれは、さっきの密猟者たちの車だ!」
トーニとミヤンが驚いた。
「反政府軍が居るから、ムポフィに向かえと言ったんじゃなかったのか」
「言いました。車をUターンさせて、行くのも見届けました」
屹度、罪に問われるのが嫌だったのだろう。
そして反政府軍と言っても民間人相手には金で解決できると思ったに違いないし、逆にこのジャングルに俺たちが潜んでいる情報を教える事で歓迎されると勘違いしたのだろう。
だが彼らは重大な読み違いをしていた。
俺の予想が当たっていなければいいのだが……。
ブラームとミヤンに援護させて、俺とトーニで車に近付く。
運転席に一人、窓は開いている。
トーニに周囲の警戒をさせて、ゆっくりと運転席に近付くと、そこには地元のガイドらしい人物がハンドルを握ったまま死んでいた。
弾は後頭部から右の眼球に掛けて抜けて、飛ばされた眼球らしきものがフロントガラスに張り付いていた。
当然、もう脈は無い。
ブラームとミヤンを車まで呼び寄せて、警戒に当たらせ、俺はトーニと草むらの中を捜索した。
俺が探している間、トーニに警戒させた。
直ぐに死体は見つかった。
額を正面から打ち抜かれた男2人の死体。
所持品はパスポートだけ。
財布も持っていなければ、腕時計もしていない。
片方の男は耳たぶが千切れていた。
おそらくピアスでもしていたのだろう。
「女がいない」
トーニが言った。
俺の嫌な予感は当たった。
やはり奴らは罪から逃れるためにムポフィに向かうと見せかけて、途中でUターンしたのだ。
コンゴに少し詳しい人間なら直ぐ分かる。
それは政府軍も反政府軍も警察でさえ、賄賂を掴ませるとどうにかなるということ。
仮にルワンダ兵だとしても、それは変わらない。
男だけなら、もしかしたら金で解決できたかもしれない。
だが、女が居たとなると話は別だ。
奴らは性的に飢えている。
この国は毎日1000人以上、年間で40万人以上の女性がレイプされる、レイプ大国だと言う事を侮っていた。
ジャングルの丘の方で激しい銃声が鳴った。
ハンス達だ!
俺たちは直ぐに銃声の鳴った方に向かい森を駆け上ると、向こうにある丘に3つの影が動いているのを見つけて直ぐに単発で3発撃った。
ブラームとミヤンをハンスの方に向かわせて、俺とトーニで俺が撃った3人の方に向かった。
3人共頭を狙った。
だが、最後の1人は転びかけたので少しズレたかも知れない。
銃弾が正確にコメカミを抜けた2人は既に死んでいた。
だが先頭の奴は弾が頭頂部に当たって、まだ息がある。
3人に共通していた特徴は、上着は来ているがズボンを履いていないこと。
汚らわしいものが剥き出しで、何をしていたかは誰にでも分かる。
「ナトー、こいつどうする? まだ生きているが、頭に穴が開いていて助かるのか?」
致命傷ではない。
激しい後遺症に悩まされることにはなるだろうが、直ぐにチャンとした手術のできる病院に運ぶことが出来れば命は助かるだろう。
だが輸送にはヘリが必要だ。
この不整地をトラックで揺られたのでは、脳のダメージが進んでしまい、良くて脳死。
現実的には助けようがないと言える。
「どうする? こいつ何か指を動かしていやがるぜ。生きたいのか?お前は糞野郎だがラッキーな奴だ、うちの軍曹は優しいから――」
“パーーン”
「ナトー……」
トーニの言葉を遮るように、拳銃で心臓を撃ち止めを刺した。
いや、遮るために止めを刺したと言った方が合っている。
「どうして撃った!?そりゃあコイツは糞野郎だろうし、頭に穴が開いてちゃあ助からないかも知れねぇ。でもまだ生きていた。助かりっこねぇ母ゴリラを助けようとした優しいナトーが、なんで……」
トーニに睨まれて、返す言葉が無い。
もしも返す言葉があったとしたら、それは“俺がグリムリーパー(死神)”だからだと言うしかないだろう。
だけど、それは言えない。
「さあ、ここは終わりだ。ハンスの所に行くぞ」
トーニの言葉から逃げるように、上官としての言葉を投げつけて、背中を向けた。
悪いのは俺自身。
トーニは、何も間違っていない。