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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
102/273

【Just below the equator②(赤道直下)】

 汗が額から滴り落ちる。

 中東や北アフリカの乾いた暑さと違い、湿度が高くて思った以上に体力を奪われる。

 ここは赤道直下。

 気を引き締めていないと、いつのまにか思考力が落ちそうだ。

 ペイランド少佐はマーカス准尉の他に2名の隊員を連れて、首都キンシャサに赴きコンゴ民主共和国政府の要人に赴任の挨拶をするために赴く。

 “こんな非常時に、そんなこと”と言われるかも知れないし、当然フランスが軍隊を派遣する訳だからどちらが依頼したにせよ閣僚同士の話し合いはすでにできているはず。

 だからいちいち実行部隊が挨拶になんて行く必要が無いと言われるかも知れない。

 しかしどこの国へ行ってもこの様な大掛かりな軍事活動を行うためには、実際に指揮官が挨拶に行っておかないと作戦遂行上色々と厄介な問題が起こるから、これはこれで仕方がないこと。

 おそらく作戦当初は、首都キンシャサに降りる予定だったのだから、予め決められていたことなのかも知れない。

 実際に頼れる人間が誰なのか把握して、その人間に取り入る事によりいざという時にその人脈が役に立つし、政府高官の名前を覚えておくだけでもハッタリとして使える。

 実際こういう機会がない限り、佐官級やそれ以下の軍人が政府高官に会うことはなくて、もちろんそれは政府軍側も同じこと。

 実際に会って名前を知っていると言うだけで、物事が円滑に進むことは多い。

 ペイランド少佐の不在中は副官のニール中尉が指揮を執り、我々LéMATのハンス中尉が一時的に副官代理として作戦本部に入る。前線には普通科小隊が配置され、俺たちは必要に応じて最前線やピンポイントでの単独行動となるだろう。

 空港を出て国道3号線を東に、北ギヴ州を目指す。

 2台のバイクが先導して、その後を俺たちLéMATが続く。

「いいなあバイクって言うのは」

「なんで?」

 運転しているトーニが、羨ましそうに言うので、聞いた。

「だってよぉ、全身に風を受けて涼しそうじゃないか」

「代わってもらうか?」

「いや、いい。全身がむき出しって言うのは、敵に出会った時に守ってくれる盾がねえからな」

「それを言えば俺たちのトラックだって、同じだよ。このTRM2000は防弾ガラスも付いていない普通の輸送トラックだから」

「まあな。でも薄いながらも鉄板に囲われているだけで、安心感はある。それにしても何でリビアの時に買ってもらった令式じゃあないんだ? あれなら武装勢力のチンケな武器なんてひとつも通さねえのに」

「輸送の問題だ。令式だと車両重量5tに対して乗れる人数は最大で5人。TRM2000なら車両重量4tで15人乗れるからな」

「しみったれてんな。米軍なら軽装甲だけど、何処に行ってもハンヴィーだぜ。ありゃあ何トンある?」

「ハンヴィーは約2,5tで最大6人乗れる。しかしフランス軍はハンヴィーを持っていないから使えない」

「ちきしょう。空軍はもっと大きい輸送機持ってねぇのかよ」

「愚痴ばかり言うな、男として格好悪いぞ」

「じゃあ、もう言わねえ」

 トーニは、本当にそれっきり愚痴を言わなくなった。

 空軍にはC-130よりも大型のA400Mと言う輸送機もある。

 A400Mの最大積載量はC-130の2倍近い37t。これなら令式や、リビア駐留軍が使っていたVAB装甲車でも使えたはず。

 高性能だけど、その分価格も高い。

 離陸距離は、どちらも1000m程だが、着陸距離はC-130の518mに対してA400Mは770mを要する。

 しかしC-130の使用に至ったのは、その機体価格の差なのだろう。

 他国の戦場に外人部隊。

 しかも危険度は高い。

 そこに高価な最新式の輸送機に万が一の事が有れば……。

 トーニに愚痴を言うなと言っておきながら、俺は今、その愚痴ばかり考えていた。

 どうにもならない事を考えても、意味がない。

 思い直して反省すると、急に可笑しくなる。

「どうした? ナニナニ?」

「なにが?」

「珍しく、口角が上がっていて、まるで笑っている見てぇじゃないか」

「何でもない」

 “こいつ、俺の表情をミラーで観察していやがった”


 夕方前にキサンガニを出発して4時間。

 マニエマ州ルブントゥの街に入ると部隊はここで給油と小休止を取り、ドライバーとコマンダーもフランソワとモンタナのペアーに交代して、俺たちは後ろの荷室に入った。

「荷室の乗り心地はどうだ?」

 ブラームに聞くと、ただ「暑い」とだけ答えてニヤッと笑う。

 他の者たちの顔を見ても、予想以上に長旅とこの暑さに体力を奪われているようだ。

 無理もない。

 急に出発日が今日に変更になり、早朝から大急ぎで装備の準備をしてジェット機での移動、こっちに着いたらまた直ぐに装備を付けてまた移動。

 コンゴ政府軍のキャンプ地に合流する頃には日も替わっているはず。

 ブントゥを出てワリカレで国道3号線に別れを告げて、529号線を10㎞ほど走り、ようやく今日のキャンプ地、ロワ川の東岸にある集落ニョーラに到着した。

 529号線はこの先を15キロほど行ったムポフィで、治安悪化のため通行止めになっている。

 時間は午前2時半。

 ここにはコンゴ政府軍の仮司令部が置かれているので、我々の部隊もここに司令部を置くが、実際に救出に向かうのはこの東側に広がるジャングルを進んだ先になる。

 とにかく無事ここまでは到着することが出来た。

 あとは明日のため……いや、今日のために直ぐ寝ることだ。

挿絵(By みてみん)

TRM 2000(全輪駆動式戦術トラック2t積載型)

全長5.50 m

全幅2.14 m

全高2.71 m

重量3.36 t(空貨)

乗員数15 名

乗員配置前2名 後部荷台13名

装甲・武装

装甲非装甲

備考積載量2t

速度89 km/h

エンジンディーゼルエンジン 直列6気筒液冷ディーゼル 133 ps

懸架・駆動4輪駆動

行動距離600 km 

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