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グリムリーパー  作者: 湖灯
*****Hell Battlefield(地獄の戦場)*****
100/273

【Busy departure(慌ただしい出発)】

 コンゴの地理や気象、注意点や日程などの講習会を2日続けて受けていた。

「あー、もう俺駄目。何にも頭に入らない」

 まだ1時間目の講習が終わったばかりだと言うのに、そう言ってきたのは衛生兵のメントスとハバロフ、ミヤンの3人。

 頭に入らないのは、まだいい。

 それよりも全く頭に入れる気のない奴等もいる。

「最近寝つきが悪くてなあ、環境が変わったせいかなあ」

「ああ、俺もそうだ。枕が変わるとナカナカ寝られねえって言うぜ」

「床が固いんだ。なんでも枕のせいにするのはイタリア野郎の悪い癖だ」

 話しているのはモンタナ、トーニ、フランソワの3人。

 でも、俺は知っている。

 お前たちの寝つきが悪いのは、講義中ずっと居眠りをしているからだ。

 穏やかな雰囲気を破るようにバタバタという走る音が武道館に響く。

 それに続いて、将校に集合の合図が掛かる。

 ただ事ではない。

 しばらくしてマイクを持った作戦本部のニール中尉が説明を始めた。

 ついさっき届いた情報によると、今回の派遣先である北キヴ州でナイジェリアのPKO部隊が襲撃に会い15人が死亡し40人以上が重軽傷を負う事件が起きた。

 それによりナイジェリア軍はジャングルの奥に撤退してしまったので、当該地区が無法地帯になる恐れが出たため急遽前倒しで現地に向かうことになった。

「出発は明朝ですか?」

 誰かが声を上げたので、ニール中尉が答えた「輸送機の準備ができ次第」だと。

 穏やかな空気は一転し、みんな慌てて支度に取り掛かる。

 慌てているのは俺たちだけじゃない。

 補給部隊も、車両の整備部隊も、医療班なども総出で、武道館の中と外はごった返し。

 先ず俺たちは補給部隊が持って来た弾薬を自分のカートリッジに詰め込む作業から始め、それから各種スコープや暗視装置、一日分のレーションと寝袋に簡易テントと雨具などをバックパックに詰め込む。普通は移動の日は制服を着て銃を持つ程度。リビアの時もそうだった。

 だが今回は、何があるか分からない。

 普通科の方は空挺の訓練を受けていないものが多数を占めるので、いきなり現地に落下傘降下と言う事にはならないが、空港に到着次第直ぐに戦闘態勢を整えたまま現地入りするために出発の時からこの様な装備をする。

 今回の任務で使用する車両はC-130輸送機の積載能力の関係で、装甲のないTRM2000トラック6台とトレーラー、連絡用の250㏄オフロードバイクが2台は積めないジープの代わりの連絡用。

 兵員の方は民間の旅客機A310Mで運ぶ。

 エアバスA300の改造型であるA310Mは速度、航続距離共に問題はないが、C-130の方は速度が遅い上に1機あたりトラック2台とトレーラーに積まれた武器弾薬や食料と予備燃料だけでほぼ最大搭載量となり、フランス~コンゴ間を飛ぶためには燃料不足になるため地中海の公海上で空中給油を受けた上で首都のキシャンサ国際空港へ向かう。その関係上俺たちより早く出発しないといけない。

 空軍を急がせる手前、待たせる訳にはいかないので、俺たちの方も競い合うように準備を急いだ。

 自分の準備を済ませると、分隊員の装備をチェックした。

 さすがに特殊部隊に所属する隊員たちだけあって、装備完了は断トツの速さで、他の部隊はまだ半分くらいしか終わっていなかった。

 今回任務を外れてマーベリック少尉と共に残り組になるニルス少尉が、貴重品や家族あての手紙などを受け取りに来たので、エマに旅立つ事だけ伝えて欲しいと願い出た。

 仕事柄俺たちが旅立つことは、伝えなくても分るはず。

 だけど、伝言でもいいから伝えて欲しかった。

 そして出来るなら最後に声も聞きたかったし、お別れも言いたかったが、こればかりは仕方がない。

 ニルスに伝言を頼むと、彼はハンスの所へ行き何か話したあと俺を連れ出す許可を取り、付いて来るように言った。

 たった二日半だったが久し振りに武道館を出ると、外の空気が清々しい。

 連れて行かれたのは小会議室。

「どうぞ」と言ってニルスが笑う。

 何だろうと思ってドアを開けると、そこに居たのはエマ。

 エマの他にもリズにミューレ、そしてベルとレイラもいた。

「どうして!?」

 DGSE(フランス対外治安総局)のエマとレイラだけなら分かるけれど、DGSI(国内治安総局)のリズやフランス警察のミューレやRAID(フランス国家警察特殊部隊)のベルまで来ているのは不思議だったので聞くと、ハンスから連絡があって面会に来たと言う事だった。

 あれほど俺を邪魔者扱いしていたハンスが……と思うと、急に目頭が熱くなる。

「面会時間は10分だからね」と言ってニルスは扉を閉めた。

 つい1ヶ月前にパリでの事件が終わり、そのあとの射撃大会で別れたのが昨日のことのように、そして随分懐かしい事のように思える。

 皆と、しばしのお別れの挨拶をしていると直ぐに10分の面会時間は過ぎて、再び武道館に戻る。

「すまない、僕は急用ができたから悪いけどエマ、ナトーを武道館迄送り届けてくれる?」

 そう言うとニルスは、どこかに消えた。

「ごめんね、大変な任務を押し付けちゃって」

「いいよ。俺はこのために外人部隊に入ったのだから。コンゴにはエマは?」

「私は北アフリカ担当だから行けないし、いくらDGSEと言ってもコンゴは危険すぎて現地採用のエージェント以外は首都のキンシャサから出ることは殆どないの。その殆どない外出も決して女性エージェントが出ること無く……と、言うか禁止されているの」

「危険な所だからな」

「行って欲しかった?」

「いや、いい。エマには酷いところを見せたくないし、レイプの国だから女性を隠せないエマには危険すぎる」

「あら、ありがとう。でも、大丈夫よ。北アフリカだって結構残虐なところ何度も見て来たから」

「ありがとう。反政府勢力を蹴散らして直ぐに帰って来るから、オリンピックを用意して待っていて」

 オリンピックとはカクテルの事。

 カクテル言葉は“待ち焦がれた再開”

 武道館の影でキスしてエマと別れた。

 俺はエマに酷いところを見せたくないと言い、エマは酷い戦場は何度も見て来たから大丈夫だと言った。

 しかし、俺がエマにみせたくなかったのは自分自身の酷い姿のこと。

 外見が汚れて酷いのではない。

 恐らく、そうなるかも知れない最悪の姿。

 何のためらいも無く敵を殺す俺自身の、そうまるでグリムリーパー(死神)と呼ばれていた頃の俺の姿。

挿絵(By みてみん)

トーニ上等兵。

イタリア出身で小柄なトーニの専門は、爆発物。

お調子者で、お喋りで、いつもふざけていますが、ナトーに熱い思いを寄せています。

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