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魔王と少女

 俺を取り巻くスケルトン達が、全て塵と化した。持っていた武器まで綺麗さっぱりに。

 ここでそのまま座りこみ、思い切り脱力したい気分だが、脅威が全て消えたわけではない。

 まだ、凶悪の根源な魔王が、膝に肘を立てて頬杖をしている。


 俺は思い身体を押し上げ立ち上がり、一歩前に出た。するとどうだろうか、吸血鬼ゼロスが一歩下がった。二歩、三歩進むと、ゼロスは二歩、三歩と遠ざかる。


 おかしい。確かに今は、不安定な協力関係にある。しかし、こんなに警戒するものだろうか。まだ。相手の方が俺を一瞬で亡きものにできる力があり、優位な立場であるはずだ。


 そう思っていると、ゼロスが身体を震わせ、歯を食いしばる様子が見てとれた。


「人間、いい加減、この魔法を解いてくれないか」


「はあ? 魔法?」


 魔法とは、先ほど魔王が使っていたものか。そんなもの使っていない。そもそも、少し前まで会社で働いていた人間が、魔法など使える訳がない。


「何のことだ?」


「惚けるな。王の号令(ドミネート)を使っていたではないか」


 なるほど……先のスケルトンが止まったことに、関係していそうだな。それにしても、またもチャンスがくるとはな。


 魔王を横目で見ると、なぜか、微動だにもしていない。


 俺は一歩一歩ゆっくり近づきながら、会話を続けた。


「すまんな。解き方がわからない。何しろ魔法というもの自体、人生で初めての経験だ」


「無意識でやってのけたということか……何てやつだ」


「したがって、俺にはどうすることもできない。諦めてくれ」


 会話中も一歩一歩近づく度に、ゼロスは一歩一歩遠ざかった。俺とゼロスの距離は一定に保られている。

 俺は黒い眼鏡を、いつもの定位置まで中指で押し上げた。

 どうやら、俺の「くるな」と言い放ったときに、魔法が発動し、ゼロスは命令「くるな = 近づくな」に従っている。王の号令(ドミネート)とは、対象者を発した命令に従わせる魔法に違いない。


「私が魔法の解き方を教えよう。だが、まず先に人間、貴様が止まれ」


「教えるのは止め方だけか?」


「何が言いたい!?」


「条件だ。俺に、魔法についての全てを教えろ」


 俺はあの時、「くるな」の他に「やめろ = 攻撃するな」とも言った。きっとゼロスは今、俺に魔法で攻撃することは不可能なはず。

 奴は、俺の条件を承諾するしかない。他の考えなど……。


「……わかった。魔法の全てを教える」


 なかったようだな。

 ゼロスは下を俯き、唸る声で答えた。


 ちょろいな。自分の口元が弛むのを感じる。自分の思い通りにことが運ぶのは、最高だな。魔法の力が手には入れば、奴らの優位が相当傾くだろう。


 このまま行けば…………もしかすると…………。



「はああぁぁ」



 不穏な息遣いが、すぐ近くで聞こえた。

 白い煙が大量に吐き出され、空中に薄く消える。たったこの動作だけで、俺は絶望の中に引きずり戻された。


 ゼロスとのやり取りに集中し過ぎてしまった。俺と魔王との距離は、最初あった距離の三分の一もなかった。


 この距離は危険だ。魔王は俺から遠ざかろうとしない、ということは、魔法が効いていないということ。

 魔王の魔力が先の戦闘で、ほとんど無くなっていたとしても、それを補って余りある、肉体的アドバンテージ。


 離れなくては殺られる。しかし、身体は動かない。



「我慢の限界だ……」



 この状況にしびれを切らしたということか? 茶番は終わりだっていうことか? 俺は死ぬのか?

 俺が、今度こそ本当に諦めかけたときだった。大きな亀裂音が部屋全体に響き渡った。



 魔王の顔を半分に分けるように、大きな亀裂が縦に入っていた。

 その亀裂は一瞬して、首、胸、腹、手足に広がる。そして、勢い良く、粉々に弾けとんだ。


「……嘘だろ……」


 あまりに驚愕な出来事に、思わず声に出してしまった。なんと、魔王の中にからは、魔王とは似ても似つかない可憐な少女が倒れるように出てきた。深い青い長髪が、後を追いかけるように波打つ。その回りを、弾けた破片がキラキラと輝く。


「魔王様!!」


 ゼロスの叫びに、見とれていた俺は我に反った。今まで恐怖していたとは思えない身のこなしで、少女を優しくキャッチした。どこから、どう見ても、それに触れてわかる。間違いなく少女だ。


 ゴツイ身体のデカイ魔王は、華奢な少女に姿を変えた。

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