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篭の酉  作者: らいのべーる
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8

 晴れやかな風に見舞われた暖かな日。寛の結婚式が執り行われた。盛大な結婚式とは言えなくも、知人友人を集めた心穏やかな式となった。


 ウェディング衣装に身を包んだ女性は、アジア系の堀の深い綺麗な顔だちで、誰が見ても羨むぐらいの美しさだった。寛は幸せそうに女性と腕を組み唐津や圭人らの近くまで寄り、馴れた手つきに挨拶をしていった。


 矢田前と蒔はおちょくるように寛を指差し、根間と小木曽はその女性の側に寄っていった。


「寛さん どこで知り合ったのよ?」

「すごい綺麗な人ね 寛さんには勿体ない」


 嫁となる女性を取り囲むように二人は見入り、寛を冷やかすように言葉を列べた。その女性は少し躊躇っていた。


「おいおい その辺にしといてくれよ 4回目はしたくない」


 寛は自虐するように笑い飛ばしつつ庇うようにその間に入り、根間と小木曽はその姿に冷やかしを入れた。二人にあまり言わないでくれよとたじたじになっていると蒔や矢田前らと一緒に圭人らも集まってきた。


 そして式も終わりを迎えた頃、寛は改めて圭人に近づいた。


「よう 圭人 ありがとな」


 それは保証人として名前を入れてもらったことによるものだった。圭人は良かったんですか?と躊躇いながらも伝えると、寛はありがとなと幸せそうな顔をした。


 新婚の雰囲気そのままに、その場から結婚旅行へと向かう寛は三回目と思えない程初々しく見えた。


 後に写真が送られてきたが、相手の希望でサイパンに行っていたらしい。 


 蒔と矢田前は良いよなと羨むように口を開き、今日は行くぞとモヤモヤする思いに夜の店のことを話しだした。圭人はその話を聞かないように俊と話をしていた。


 そして式場から会社に移動し、それぞれ花を咲かせながら帰っていった。


「あ 圭人これ事務所に頼む」


 唐津は皆が帰り始めた頃、車から引き出物を取り出し圭人に頼んだ。圭人は何人ものなる引き出物を箱ごと抱え持ち、事務所へと階段を昇りドアの前で四苦八苦していると、中からドアが開いた。


「今帰りか?」


 黒縁眼鏡の国崎が出てきた。圭人は国崎に礼を言うと事務所の中へと入っていた。


 国崎は式に出るはずだったが、外せない商談があると事務所に残っていた。圭人は行けなかった国崎に式での寛の振る舞いを話聞かせた。


「まったく 寛らしいな」


 国崎は鼻で笑い祝福というよりも、安堵するように微笑んだ。圭人はそんな国崎に嬉しくないんですかと聞いた。


「嬉しくないわけじゃないが 3回目だろ?それに今回はどうなるか」


 国崎は事務所に置かれるソファーに腰をかけた。


「寛は お前らが知るよりも厄介な男なんだよ」


 国崎は何かを睨むように語り始めた。


「あいつはな 人一倍馬鹿なんだよ それも俺らの斜め上に行く馬鹿なんだ 蒔のそれとはまったく別だけどな」


 圭人はそんなにですか?と不思議に笑った。


 寛は3度目の式を挙げたが、その前2回はことごとく騙された。それは初めから解っていたことなだけに、寛を責める事ができなかった。


 ー好きになっちまったら とことん貫くー


 それが寛の恋愛方式だった。今まで別れた嫁達にも慰謝料という名目で金を振り込んでいる。それは額が多い少ないというものではなく、愛した人に対する感謝の気持ちだと胸を張っている。


 国崎はそんな寛を馬鹿だと笑いのけていた。


「そこまで 人を好きになるってすごいことですよね」


 圭人は寛の大きすぎる愛に少し見直した。それは無理だとすぐ投げやりになってしまう人達を知っている分、それがどんなに出来ないものなのかと教えてもらった気がした。


「でも国崎さん 寛さんは馬鹿ですね」

「おーあいつは馬鹿だ 見習いたくないほどの馬鹿だ」


 圭人は愛情を隠す国崎の言い方を真似て言葉にした。国崎は心の奥から馬鹿にしていた。それは寛の幸せを願うあまり強く出る言葉だった。


 国崎はもうそろそろだと二件目の商談に向かおうとソファーから腰をあげ、鞄を持つと一枚の封筒が溢れた落ちた。圭人はその封筒を指差し国崎に伝えると国崎は「サンキューな」と封筒を拾った。



 翌朝事務所で蒔と唐津が話し合いをしていた。それは国崎が取ってきた仕事に誰を向かわせるかという話に蒔が行くことになった。


 工事現場のコンクリート斡旋事業。手堅く事業を広めるためのプレゼンのようなものなので、それは営業種には出来ない仕事だった。コンクリートの製造法や使用法。それらの流れの説明と多種に行われる。そしてそれらに重要なのがコミュニケーション。どれだけ打ち解けられるかということだ。技術知識だけなら俊や圭人でも補うことは出来るが、初見での扱いは蒔に敵う人はいなかった。よく言えば馴れた人ということだ。


 工事現場の一画にプレゼン用に設置された機具に、蒔はいつも通りの手つきで製造していく。国崎は蒔の手つきにその場にいる人達に説明していった。


「回転させ中の固まり いわば砂利と砂による、、」


 国崎の巧みな話術と蒔の愛想の良さでプレゼンは上々の出来となった。その後そこで得た仕事を蒔が受け持ち、殆どの日を現場へと駆り出されていった。そして蒔の抜けた役割場を埋めるように手早く作業をこなしていった。


 蒔が現場へと駆り出されてから一ヶ月がたったある日、一人場内で片付けをする圭人に電話がかかってきた。


「おー今場内か?」


 蒔は現場から事務所にある書類を見て欲しいと頼んできた。その日は圭人を残し会社には誰もいなく、片付けを中断し蒔の電話をそのままに事務所へと入っていった。


「社長の机の後ろに棚あんだろ?そこの左奥にあるやつな」


 圭人は蒔の言う通り棚から書類を抜き出すと、その隣にあった紙袋も落としてしまった。電話口に声がもれ、蒔はどうした?と聞いてきた。


「何でもないです それでどうしたら」


 蒔は書類の中にある数字と名目、個数を教えてくれと言ってきた。圭人はその紙を探し一つ一つ確認しながら伝えた。


「おーサンキューな 今度奢るわ」


 圭人は安堵するように息をはき、書類と落ちた紙袋を元に戻すと、棚から一枚の紙がこぼれ落ちてきた。圭人はため息をつきその紙を拾い見た。


 ー受取人 唐津稔彦ー


 圭人は見てはいけないものと知りながらその書類に目を通すと保険に関するものだった。


 契約内容 乙 唐津稔彦 は、乙1 矢田前 国広 その者の受取人とする。事故や病による死亡と乙1が診断された場合、甲は乙に支払うこととする 


 その書類は従業員全員分のがあり、吉葉且生の名前の書類もまだ残っていた。

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