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第六話『ありがとう、マザー。それしか言葉が見当たらない』

 マザーが死んだ。つい数時間前まで子供達にせがまれて一緒に遊んでいたのに……


「疲れちゃったから晩御飯までお部屋で休憩するわね、今日はカタリナちゃんのお誕生日ですもの、みんなでお祝いしましょうね」


 それが、マザーの最後の言葉だった。


「……なんだよ……みんなでお祝いしようって言っといて……自分だけお祝いしてくれないなんて…………はは…………ひどいや……マザー……」


 一緒に過ごしたのはほんの十年ほどだが、アタシにとってはこっちに来てからのお母さんにも等しい人だった。久しぶりに泣いた。42歳にもなって、肉体は10歳だけども、ボロボロ泣いた。他の子供達も、シスター達も泣いていた。


 マザーは偉大な魔術師だったそうだ。MAGの値が200という、驚異的な魔法の才能を持ちながら決して驕ることはなく、魔族と人族の、はたまた人族同士の戦争地帯に赴いては兵士の手当てをしていたという。

 そんな最中に、偶然助けた戦災孤児を引き取って、教会で育て始めたのがうちの孤児院の始まりだという。

 今までの実績や、その実力によって、この孤児院を守り続けてきた聖女。


「神が私に力を与えたもうたのは、人を救えという思し召しです。ですから、私は人々のために魔法を使うのです。ですからカタリナ、魔法は誰かの為にお使いなさい。例え誰かを傷つけることがあったとしても、それは他の誰かの為でありなさい。良いですね?」


 マザーがアタシに遺してくれた言葉。程度こそ違えども、非凡な才能を持つもの同士、誤った道に進まない為の道しるべ。


 シスター達はしばらく話し合い、シスターの死を王宮や教会本部に伝える為に、シスター・エラを含めた三人が出発した。彼女の死や葬式について、この教会だけでは判断出来ないと、それほどまでに偉大な人物だったのである。


 泣き声に溢れた食堂を見回し、アタシは一人でマザーの眠る部屋に向かった。他の子供達も何人かついてこようとしたが、シスター・ローイに止められていた。「自分のお誕生日に亡くなられたカタリナちゃんが、きっと一番悲しいから」って。


 マザーはベッドの上で横たわっていた。ただ、もう呼吸はしていないし、心臓も動いていない。

 机の上に、小さな箱と手紙が置いてあった。『カタリナちゃんへ』どちらにも、そう書かれていた。


 カタリナちゃんへ、貴女がこの孤児院に来てからもう十年も経つのですね、私は、あなたを拾った時よりももっとおばあちゃんになってしまいました。

 今から十年前貴女を拾う三日前、急に神様からお告げがありました。馬車で東に三日ほど行った小さな村の岩陰に、名も無き赤ん坊が居ると。

 私は驚きました。ついにわたしにも神様のお声が聞こえたのだと。急いで支度をして、シスター・エラを伴って急いで馬車を用意しました。

 そこに居たのは、とても小さくて、それでいてとんでもない才能を抱えた女の子、貴女でした。

 貴女を立派に育てること。それが、神がこの老婆に最後に与えた大仕事なのだと、直感しました。

 十年の間、貴女が、貴女の力が決して間違った使い方をされないように懸命に守り、教え育てて来ました。下の子たちの面倒見も良く、立派なお姉さんになりましたね。

 私は、もうそろそろ限界でしょう。衰えたステータスは、MAGとINTを除いてもう全てが1や2になってしまいました。もうじき、全てのステータスが0になって死んでしまうでしょう。

 魔術を使って身体を強化しても、皆さんと四半日も遊べなくなってしまいました。

 貴女が十歳になる姿が見られて良かった。私は幸せです。

 この箱の中には、十字架がついた銀のネックレスが入っています。大事にしてくださいね?

 貴女は頭もいいし、子供とは思えない実力もあります。それに、もう十歳で立派に働ける年齢でもあります。

 旅に出て世界を見てきなさい。その途中で、素敵な男性に出会い、幸せを掴むのもいいでしょう。貴女はお料理も得意ですから、きっと素敵なお母さんになれるでしょうね、見られないのが残念です。

 お誕生日おめでとう。カタリナ。貴女の未来が希望に満ち溢れていますように。



 また、アタシは泣いた。

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