プロローグ『アタシはね、植物の心のような平穏な生活がしたいんだ』
初投稿です。
まるでありきたりな三流小説のような話ですが。私は仕事中に事故死しました。
目が覚めると真っ白な部屋で、書類仕事をしているおじいさんが居て、私を剣と魔法の異世界に『天才魔術師』として転生させると伝えてきました。
インターネットに溢れた『俺TUEEEE!系異世界転生小説』のような、中学生が好きそうな展開で、私は転生することになりました。
丁寧に回想するのも疲れたわ……
アタシはそんな夢見るようなトシでも無いし!アタシが死んだら実家の跡継ぎはどうなるんじゃボケェ!!
「名前は『清野真澄』、日本人、女性、年齢32歳……独身」
「うっせぇよ!独身強調すんな!」
「実家は地元では有名な味噌蔵で、そこの一人娘っと……」
「それじゃあ、さっき通告したとおり、魔族と人間が小競り合い中の異世界で天才魔術師として転生してもらうから……」
「だーかーらー!嫌だって言ってるでしょうが!」
自分でこんなことを言うのもアレだが、アタシは平和を愛する小市民だ。そう自負している。いや、まぁ、見た目もキツイ印象を与えるし、言葉遣いもあまり優しくはないが……自分はそう思っている。小さな頃にハマった漫画の悪党に感銘を受け、『植物の心のような、穏やかで平穏な生活』を目指して今まで生きてきた。
そんなアタシがゴタゴタ中の世界で天才魔術師だぁ?
「そんなこと言ったって、決まったものはしたないじゃろう」
「いーやーだ!そんもん、絶対戦いに駆り出されたり国家の陰謀に巻き込まれたりするじゃねぇか!!」
「そういうの好きじゃろ?最近の若い日本人。そういう小説がバンバン売れてるではないか」
「アタシは嫌だ!もっと静かで平穏な安定した暮らしがしたいんだ!そのために大学で経営を学んで実家の味噌蔵を立て直そうって努力してたのに……」
「まぁ、頑張りすぎじゃな。殺されるほど頑張らなくても良かろうて」
…………はい?殺された?アタシが?なんで?
「犯人は『佐々原博子』……まぁ、おぬしが帰ってきてから経営を盛り返し、ついに追い抜いたライバル味噌蔵が怖くなったんじゃろうて」
佐々原みそ。たしか隣の市にある味噌蔵だっただろうか……経営状況はここ数年でうちが追い越して以降下がり傾向。追い越すまでも時代の流れか、苦しい経営を強いられていた。
アタシが親父を説得して経営を任されて、ネット販売だとか町おこしだとかで経営を盛り返すまでは、その佐々原みそがここいらの味噌蔵……といってもそんなに数があるわけではないが……そのトップだった。
そして、殺した本人の博子はアタシと高校で同級生だった筈だ。
「罪な女よのぉ……おぬしも」
「は?」
「主な動機は味噌蔵の経営についてじゃが、その他にも随分憎しみが溜まっておったらしいぞ」
「なんでよ?!」
アタシは平和を愛して生きてきた筈だ!恨まれる理由なんて無いほどに!
「えーっと、どれどれ……」
ペラペラと書類をめくる老人。何が書かれているのだろう。
「中学生時代、偶然ゲーセンのゲームでハイスコアを抜かす、対戦する度にボコボコにする……高校生時代、その件もあってか勝手にライバル視していたが、『はじめまして』と言われて、あっちが私のことを歯牙にもかけていなかったと知る」
「そんなことあったっけ……」
「ことある事につっかかるも、全敗。当時片思いしていた先輩がおぬしに告白する所を目撃する。」
「あー、あったわねそんなこと」
「が、おぬしはその告白を一蹴、片思いを知っていたおぬしは、完全に良かれと思って『アタシみたいな女よりも佐々原みたいな子の方がお似合いだよ』とフォローするも、先輩の『あの子無理』の言葉を聞いて撃沈」
「いや、それはアタシは悪くないし!」
「他にも、大学受験で同じ志望校で落ちただの、味噌蔵組合の会合でおじさん達に人気だっただの……些細なものを含めればもっとたくさん恨まれておる」
理不尽だ!勝手にライバル視して勝手に負けて勝手に恨まれてる!
「まぁ、そういったわけで、棚が倒れやすいように細工してたわけじゃな。本人は『空の棚が倒れて、ちょっとした怪我でもすればいい』程度のつもりだったそうじゃが……味噌樽の重石を片付けておく為の棚じゃとは知らなんだらしい」
そう、アタシは味噌樽の重石が頭に当たって死んだ。重石を片付けて、棚から離れる時、棚が倒れてきたのだ。
「何よ、その、事故のような事件のような……」
「仮に一命を取り留めたとしても、後遺症は残るじゃろうし、そんなことになった責任を彼女は一生負うことになるじゃろうし、平穏な生活は2度とできんじゃろう」
「…………」
「それなら、平穏な生活を送れるだけの実力を持って異世界に行った方がマシじゃと思わんか?」
「う……」
「どうじゃ?」
「………………わかったわよ……行けばいいんでしょ?」
こうして、眩い光に包まれて、私の意識は1度途絶えた。