3-7:野営の後は?
短くてすいません。
朝露が草を濡らす独特の匂い。
後頭部には柔らかい感触。
ちぃ、小さく舌打ち。寝っちまった!
即座に起き上がり、立とうとするが力が入らない。膝が言う事を効かん。
仕方なく上体だけでも起こす。気が付けば、酷い冷え込みだ。
自分の周り以外の草には霜が降りている。かなりの早朝。
そうだ敵! ノール! 奴らはどうした?
ブルリと身震いすると、後ろから抱きすくめられた。
暖かい……。
「離れると――冷えるよ」
「アン?」
背中に押してけられる、柔らかな双丘の感触が俺の神経を刺激した。
後ろから俺の首元に回された手には黒のストール。
右の頬に柔らかな感触。
ほんの一瞬。
熱い様な、冷たい様な。
「お疲れさま。よく頑張ったね」
「え、あ」
感触に気をすべて持って行かれそうな感覚。
その感覚から逃れた瞬間にあたりを一瞥。そこには魔物の血痕と死体。
三匹とも胴を撃ち抜いたらしく、腸が飛び散ってぐちゃぐちゃだ。
良かった、仕留めれていたか。
自分の胸元にも黒い斑点があった、帰り血か。
マントに着いたシミが戦闘が本物だった実感をくれた。
そうだ。シミ。
アンを無駄に汚してしまう。
「済まない、少し寝た。もう大丈夫だ。自分でやる」
冷気の遮断を即座に発動する。
「そ、やっぱり――嫌。だよね」
「は?」
なにが嫌?
ストールが離れる。
咄嗟にストールをその掴んでいる手首を逃がさず捉えた。
「もう少し寝る。任せて……平気?」
「待って。もう少しだけ話せないか」
立ち上がろうとしていた体が背中に感触として戻ってきた。
顔は依然見えない。
回される腕を引っ込み目の前に引き寄せる。
ずっと下を向きっぱなしの耳。
「なに?」と伏せ目がちに問われる。回答はもちろん。
「もっかいキスしてもらっていい?」
幾ら童貞は天然の鈍感系リアクションの達人と言われようがよ?
今現在、悲しまれる理由が、他はまったく思いつかない。
アンは今、確実落ち込んでいる。
力なく垂れ下がる耳。頬も耳も赤くない。
絶対だ。間違いない。
理由は?
そんなもん無いだろう。
無いのだ。
多分。単なる誤解。
誤解『キスがイヤ』なのだと誤解している。
思い込みが激しいだって?
上等、みてろよ?
「どうして? おばあさんのご褒美はイヤでしょ」
ほらな。
「思い出すのも、嫌、なくせ……に」
な?
――ぷっちん――。
「ちっちゃいし? 胸もな……んむ!?」
口づけする。
唇を重ねる。
そっと? アホデスカ。そんな生易しい表現で済ますかい。
そらぁ。あんた。
問答無用で吸い付くじゃろ?
軽いし、膂力アップ発動だし?
逃がす訳ないやん?
んー暴れてるが無視。続行!
「んむぅ! えいおっ。ふなぁふぃっへん」
童貞脳は色んな事試しますよ。
舐りつくしますよ。味わい尽くす。
やわけ~。いろいろ堪能中、しばしお待ちをってぇ逃がさないです。
クチビル同士一瞬くっついた『アレ』程度の再現で済ませません!
隙を見せたアン、アンタが悪いです!
ポカポカと力なく胸を叩くアン。むはーかわえー。
ちょっと休憩。ちょっとだけな。
「んふーー。ぱぁ。はぁはぁ。な、なんぢゅむぅぅ!」
で、速攻奪う。ザ・強奪!
アイエエエ?
ナンデ? ニンジャナンデ?
そんな表情。
ふっ。逃がさん。なんでもクソも無い。
誤解って言う鉄は熱いうちに叩く!
冷えたら逃げる。逃がさん。これ俺んだもんね。
誰にもやらん。
「んむぐぅ! むぅぅぅ。ぱぁ。げっほっげっほ。ひいーはーひいーはー」
無呼吸が過ぎた。
失敗失敗。でも満足、んふー。
む、寝不足と抑制生活で、駄目な場所が『倍』ほど隆起している。
えぇい、構わん。バレても構わん。
気が付かれたところで、如何程の事か。
最悪、押し倒す! もう決めた。
痺れるの上等! 電撃なんぞ我慢して押し倒おぉぉすッ。
マリアンヌに耐えれて俺に出来ない訳がない。
不死人舐めんな。青少年のリビドー舐めんなっ!
落ち着けよ兄弟。ここは、いっちょ引くんだよ。
なんだと? なぜだ?
このままでは、単なる気の迷いとか、暴発で済んじまうぞ。それで良いのか兄弟?
後日を考えた戦略と言う訳だな。了解だ。
ふー危ない、危ない。野獣の心に取り込まれる所だったぜ。
心のブラザーに救われたぜ。危険だった。
「んふー。御馳走様でした」
「なななな! 何てことするの君わ。どうしちゃったの? あ、頭ぶつけた?」
「とても美味でした」
「うぐっ」
思わず言葉に詰まるアンを眺めてしまう。
ふぉふぉふぉふぉ耳ぃ~。真っ赤、まっか。
年上だろうが、大分上だろうが、ナンボものんじゃあ。
可愛いは正義じゃろがい、貴賎もクソもあらへんでぇ。
「気は確か? ほら、あたしだよ? おばさんですよー?」
上目使いでそんなことを言う。鏡で顔見てから言え。オバサンなもんか。
背中からアンを引っ張り込んだ後の体制は膝上抱っこ。
胡坐掻をいてるその真ん中で、横抱きお座り状態。
無論お尻には感触があるだろう。
あー気持ちえ~。ちいせぇ~。やらけ~。
「もう一回塞ぐ?」
「ち、ちんちくりんだよ? マリーみたくおっきくないよ?」
まだ言うのかこの口は。
ならば、塞ぐしかあるまいて?
わからんのか~、懲りひんのかぁ~。
しゃぁないなあ。
……でわイタダキマス。
「むぅー!」
今度は短いく塞いだだけ。
啄むような接触。
「わかった?」
「な、なにが! わかんないよ、ほ、本当にどうしちゃったのよ」
メキィ。
ぴきりってきちゃったよボク、ドタマに。
ちびっとだけ。ちびっとだけ説明くれちゃろかいのう。
「女性はいつも言葉を求める。
よろしい。
清水の舞台から飛び降りるのは、吝かではありません。
寧ろ『ちょろいん』『にぶちん』『鈍感系』には絶大な効果となりましょう。
さあ、受け取るが良い。
言を尽くした我が最大の秘儀を!」
「半分以上意味不明! なに、ま、まさか幻術! それとも憑依とか?!」
幻術とか言うし、嫌われてるのか不審がられてるのか、こんなにストレートな表現なのに! コメカミにしっかりと血管浮いちゃうよ? 来ちゃってるよ。もぉ怒ったよ。
ドストレートぶちこんだらぁ!
逃がさない程度に『ぎゅっと』痛くない位で、俺の胸に抱き寄せた。
俺の口元はあの愛らしい耳。そこで囁く。
「好きだよ、アン」
ぽしゅん。
あっ裏返った。揺すっても呼んでも返事が無い。力が全く入って無い。
顔も首も胸元も、全部真っ赤に染まってどこが肌やら髪やら。くふっ。
ヤっちゃったゼ。
次回:「さて、どうしよう」
下僕:いぃぃぃぃぃゃったぜぇ!
魔女:(……ばか。――はふん)




