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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~一章 守護者の召喚~
3/157

1-2:ドS実験スタート

  


「アンジェリーナ。ここはカザス大陸、ルシアナ帝国領にある通称:魔女の塔」

 

 彼女はぶっきら棒にそう言った。下水の汚物を見るような目で。

 眉根がこれでもかと唸りを上げてお互いに寄り合い、高度のある眉間の縦皺。

 目尻は、常にぴくぴくと小刻みにひく付いている。


 明らか不機嫌、超不機嫌。

 さっきの質問に答えてくれたらしいけど、ザ・不機嫌です。


 身に起こっているのは異世界召喚、もしくは転生で間違いないっぽい。

 現実感のなさが半端ないけどな。

 電撃と思われる攻撃を受けて、痺れの残る体。

 燃えてチリチリアフロヘアーでは無いのが不幸中の幸い。


 新しく増えた頬の痛みは、彼女が俺を踏んだ結果らしい。

 気絶してるのがムカついて、取った行動が『踏みつぶす』だったわけだ。

 実際には爪先での蹴りでも貰ったのかもしれない。


『アンタ誰』と『ここどこ』は、聞いたら答えてくれた。

 で、考えてみる。

 答えてくれた内容に聞き覚えなんてコレっぽちも無い、なので『異世界召喚』と断定しておく。

 でないと、心のほうが持たない。グラスハート。

 沢に落ちて死んだとは考えたくないので『召喚』として置く。

 イツカモドレルサー。ビバ楽観!


『解らん事は水の心で流すのも手だ』親父の直球教育。命名、ザ・スルー。

 傍らのお袋はこうも言った。

『理解できなきゃ、そんなモノかも知れない』と思いなさいと。

 偉大でも無い両親の迷言にちょっぴり救われておく。


 実際どれくらいの時間が気絶によって失われているかは解らない。なにせ陽の明かりも入って無い部屋である、光りの明暗で判別とかなんとかってのは無理。腹時計的には夕刻。皆と遊んでたのが昼過ぎ、体感時間でざっと二時間経過と言った所か。とまぁ、カッコつけたところで所詮は腹時計、当てにはならん。

 俺ってば腕時計どこへやったっけ?

 持って出た記憶はあるんだけどね。


 にしても、なんにしても。

 なんでこんなジットリ、ガッツリとガッカリな視線ビーム貰ってんの俺。

 なんだ、なんで? なんでよホワイ?

 てかありゃあ怪訝な目ってやつ? いやいや、胡乱げな目か。

 それとも汚物見る目とか見下す目? これは無いと思いたいなあ。

 

 初見妖精、今獄卒? 女王様ってのも似合いそうだ、ハッハッハ……はぁ。

 兎に角ひでぇ落差だ。メジャー級選手のフォークボールよりひでぇ落差。


「えー、なぜ私は叱られてるのかを聞いても宜しいですか」

 

 呼ばれて、飛び出て、白目全快。

 たぶん俺被害者、俺がキレたい。逆ギレ大暴走中。

 キレ相手に怒っても効果なし! つーのは人生経験にて会得済み。逆切れって奴は、彼我の戦力を把握してないと寧ろ被害が拡大する事のほうが多い。

 怒気に怒気ぶつけて、ドキドキパニックはイラン。

 超イラン! さり気に回避を選択したいところ。


 差し当たりの方針は、絶賛大激怒中らしい彼女に『質問を投げよう』だ。

 理由を聞かなきゃ展望も対策も再発防止も始まらない。


「ドカスが出たから」


 ぽつりと零したあと、震える拳を握り締めながら彼女が言った。

 ドカス頂きました。ドカス一丁入ります!

 はっはっは――短い人生しか歩んじゃねぇがよ? 

 ドカスとか言われたこたぁ無ぇぞクソがぁ! 

 失礼極まってやがる。


「大魔力と大量の術具をそろえて、膨大な時間をかけて事前準備に怠りなし。で、どんな神域の生物か、魔人級が召喚できたのかと思えば、自分が召喚()ばれた事すら認識出来ていない人族の子供が出てきたから? 魔力はそこそこあるから、高位かつ異界の魔術師でも呼べたかと思えば『んで君誰』とか言われたから?」


「スミマセンデシタ、無能でごめんなさい」


 盛大な愚痴。一呼吸で並べ立てられた、ガッカリ感。

 思わず謝った。その反応速度たるやノータイムですよ旦那方。

 反射謝罪って必殺技っぽいなとか、くだらない事を思いついた。


 てかぁさぁ!

 

 仕様がないじゃん。仕方ないやん。知らないものは知らないってのさ。

 つか、怖いよ。明らか八つ当たりなのが丸分かりだよ、パパン。

 召喚されたら『お呼びにより即参上』とか言うの? 言うかよ! 知らんやん!

 大惨状だよママン。

 

「無能じゃ困る、無能じゃ。カスでもドカスでもなく無能? それは、あたしが無能って事? 呼んだあたしが未熟? 無能? ドカスからのカス呼ばわり?」


 ぎゃぁぁ。謝罪のセリフ選択にNG発生。地雷だった。

 マズイ。

 死ぬ。

 あばばばばは嫌ぁーーー。

 

「無能違います! きっと違います。ほら! 魔力が高いんですよね? 頭痛くて、あんまり覚えてないけれど。あれ? でも、もうそんなに痛くない。ちがう、そーじゃない!

 きっと大魔法とかバンバン撃てちゃうよ俺。ちがった、私」


 赤髪が揺れ動いてなんかオーラっぽいものが出たらアウトだ、あれはダメだ。

 ちょいちょい髪ゆらさないで、ふわふわコワイ。

 あと、目。眼コワイ。

 

 電撃より恐ろしいものが来るとは思いたくないけど、他にもきっとある。

 つか、踏まれた頬もあんまし痛くなくなってきた。ザ・異世界マジック。

 そ・れ・と・も。恐怖による、痛覚麻痺?

 目覚めた? ドの次はアルファベットなアレ的な?

 いや違う、気持ち良くはない。うん、正常。


「へぇ……じゃあ使え。魔術」


「へ?」


「ほら、何か芸見せて……力を示せっての」


 態度としては何か? アレか? 

 営業先のエライさんがやるアレなのか。

『なんかプレゼンしてみろよ?

 え? 

 考えないことも無いぜ? 

 あぁ靴舐める?』

 的な?

 ドラマかなんかですらも最近ちょいとお目にかかれない、超絶上から系。


 どんだけお前偉いねん! くそう。


 芸を見せろって言われて、宴会芸的に踊ったり歌ったりしたら、多分死亡。

 地震、雷。火事、親父。

 次は『丸焼きじゃぁ』ってか? 

 やめてください、死んでしまいます。


 つかさ、これ間違いなく異世界テンプレ展開だよな。

 チート全快を見せる時。

 秘められている(ハズ)の俺の力、花開け! 的な展開。


 ならば、俺にもなにか出来るはず。でも何が出来んのよ?

 ステータスオープン! とかって――ダメか。なんも出ない、調べる方法もない。

 普通に常人より力が強いとか……無いな、強くなってる気配は無い。

 全くもって皆無。はっはっは。


 笑えねぇよ。どうする!?


 じゃあ彼女の言う魔力ってのはどうだ。

 魔力ってなんだよ、見えるのか? 俺には見えん。掌、足、異常なし。よし!

 だからチガウ。良くない。


 気か? 気功のバッタモノ的イメージ。ダメだ。ピンとこない。あばばばの刑に処されるのは御免だ。時間の問題臭いが……『蹴られる、踏まれるも待ってるぜ』とか俺の闇が語りかけて来る。

 美少女に踏まれる己の様をちょっとだけ考える……ご褒美展開。

 いやだよそんな展開、誰得だよ!


 床を見ると棒っ切れが一本転がっている。

 ひょいと拾い上げた。軽い。節くれだって持ちにくい。

 

「スタッフなんて持ってどうする。使えるのかドカス」


 無視。

 スタッフってこれか。これって魔法の杖か。スタッフってあれだろ? ロッド、スタッフ、ワンドの。洋画で聞きかじった、アレだろ?


 よおし、ダメ元だ。ダメなら振り回して、演武とか言ってみよう。

 親父が昔見せてくれた宴会芸的な棍棒演舞。最後にジャンプして地面ぶっ叩くヤツ。ハイヤーとかって掛け声付きで。

 とまぁ、冗談さんを置き去りにしといてっと。とにかくなんかやって見せないと、だな。


「んっ」


 握りしめたスタッフに力をこめる。ぐっと握る。魔法でろ!

 何にも起きない。当然だ、俺呪文とか知らない。無詠唱とか……ん、できない様子。

 焦るな。焦っても意味がない。

 時間も稼げない。ラ○ちゃんの電撃はだめだ。アレすげえ痛かった。

 火刑もダメです『今です』とか言いだす、羽扇を持った中華な脳内軍師をどっかに追いやる。


 イメージを大切にしてみよう。こう、波動○とか出そうなイメージ。

 貯める、溜まる、留める。気、丹田、正中線、螺旋。

 イメージ材料は漫画とアニメ。聞きかじりの解説動画。この際似非動画にもすがる。

 おっ。

 急に登ってきた変な感覚の発生源である下腹に意識を向けてみると、ぼんやりと熱い感覚。

 キタコレ!

 そいつが背中を通って、気持ちいいような……うへ、背中ゾクゾクする。

 意識を集中して、前に突きだした手へ流れ動くイメージをする。


 もっとだ、胎の熱を溜めろ。ためて流せ。

 弾けるように、湧き出すように、全身の血が沸き上がって手のひらに集まる感触。

 出ろ! なんか出ろ!

 更に押し出すようにスタッフを握りこむ。

 

「んぐむぅぅぅぅぅうっ」


 パキン。


 乾いた音。握っていたスタッフが砕けた。枯れ木とかが割散るように。


「折れてしまいました。これは申し訳無い」


 あわわわわわわわ。壊れた。謝っとけ、俺。


「キャ、キャパシティ……ブレイク……?」


 握って折れたわけじゃないっぽい?


『キャパシティブレイク』とか言った。

 容量が溢れました、的な感じか。魔力を扱えたってことなのか。あるっつってたし、在るんだろう俺の中にソレが。

『魔力』が。


 見た感じは、激おこ火刑執行な雰囲気はない。良かった。


「どうやら、魔力は相当……。疲れた様子も、ない。うん、倍は有るか」


 思案気な彼女。ご機嫌は損ねてない様子。

 おし! 生き残った。

 電撃。もしくは、その他を回避成功。


「如何でしょうか」


「魔力の通し方は解るんだ」


「はい。なんと無くですが」


「なぜ術を使わない。遠慮でもしてる?」


 遠慮なんてするか。遠慮できる雰囲気とか、アンタ与えてくれてないやん。ちびっこの癖に……。

 ん。意外に小さいのに今頃気が付く俺、超遅い。

 こう、何て言うか。高圧的な印象って大きく見えると思う。


「そもそも私は『術』と言う物を知りません。 

 我々の世界では、魔法とは幻想の中だけの存在です。

 実在、存在しませんでした。ここにいる今も知りません」


 ジト目ってのはあれだ、向けられると相当来るな。ダメージ。

 絶賛照射中な彼女。


「無駄魔力……。はぁ」


 溜息だけでもぐっさり刺さるのに、ジト目付き。


「使い道でも探すしかないかな。ついて来て」


 スタスタと部屋を出ようと歩く彼女。扉に手をかけながらあの蔑んだ目を向けてきた。

 やめろよ、そろそろ凹むぞ。


 召喚されてすぐ気絶させられるわ、罵倒されるわ、ゴミ扱い……あ、泣けてきた。

 流石にこれだけの蔑み系の目線とか投げかけられたことないわ人生で。うん。


 人は視線や態度で人の心を折れます。イジメ、イクナイ。

 受け流せていない、修行が足りない。っていうか流せるかっ! 凹むわ。

 

「あと、その気持ち悪い蔑み口調をヤめて。虫酸が走る」


「敬語はお気に召しませんか」


「尊敬も無い、恐怖に畏怖しているワケでも無い。ご機嫌取りの為だけの言葉なんて要いらない。あなたの普段の口調にして」

 

 ちょっと評価がマシになったのかな。普通に話す許可がでたぞ。

 と言うか、下手に出て怒られてたのか?

 いや違う――怒っているのは彼女自身に対してでは無いのか。

 彼女の努力って奴が報われなかった。失敗とか言ってたし。

 恐らくは、俺が召喚された事は彼女にとってイレギュラーな事であって予定ではない。偶発の事故。

 結果への不快感と不満。


 恐ろしくプライド高そうだもんな。そうか自己嫌悪してるのか。

 そう考えると、思い悩む美少女に見えてくる不思議。

 何らかの力を見せてあげられるといいな。少しは笑ってもらいたい。

 きっとすっげぇ可愛いに違いない。


 おぉ? 俺、意外にポジティブ。


 テンプレな召喚モノ展開なんだ、きっと帰れるさ。そうさ、帰れる見込みが出来るまでは状況を楽しむ位の、心の余裕を持つことにしよう。

 幸い、荒野に俺一人とか、モンスターわんさかワールド牧場イン無力な俺、って展開じゃない。生命を脅かすのは今のところ目の前の美少女のみ。扱いを間違えなきゃ死なない系。

 気は抜けないけど、楽しんでみよう。折角だしね。

 よし、当面の目標は『彼女の笑顔を見る』にしてみっか。


 さっさと出て行ってしまう彼女のあとを追い、扉から出る。

 螺旋状の階段を昇っていく。どうやら外壁に添っているようだ。しばらく上ると、別の扉が現れた。

 魔女の塔。ってマジ塔だ。記憶にあるそこらの灯台よりは広そう。少なくとも沖縄の海中展望よりは広い。歩いた感じの感覚だけで、具体的にはどうかってのはアレだけど。


 高めの扉を潜り部屋に入る。広さ自体はさっきの部屋と大した違いはない。あの部屋よりは、少々生活感がある。と言っても実験室って雰囲気ではあるが。

 さっきの部屋は召喚専用なのか? 儀式用? 

 気が付くと何ら床にぺらぺらの物体、まあ紙だろうを並べている彼女。

 背を向けて、なにやら準備中の彼女を観察してみる。

 ふむ。お尻は小さめ。胸も控えめぽい。っと、イカンイカン。

 

 でも実際マシな展開だよな俺。いきなり異世界とか死と直結っぽいのに。

 言語も普通に通じるし、召喚者が目の前なので迷子展開もない。しかも一応美少女だし?

 これが『森の中でゴブリンと遭遇、はいスタート』とかだったら、こんな調子じゃなかったんだろうし。うん、俺幸運。

 このあとはハーレム展開とかだったらなぁ。いかん。俺今幸運。

 欲を出すと碌な事ないぞ。


 床には複数の紙片というか正方形の紙。幾何学な模様の描かれた所謂、魔法陣。

 全て似たような紋様だが中央の印章が異なる。それが何枚か置かれていた。


「なんだこれ?」


「見た目通りの物。マジックスクロール」


「いや、なんと無くそうなんだろうとは思うけど。一体これで今から何をするのさ」


 眉を顰める俺に、彼女は面倒くさそうに言った。

 

「実験。使い方は解る……訳がないか。紙をもって。そう。それじゃ、魔力を通して」


 魔力を通すってのはアレだな。さっきやった。棒切れをぶっ壊した時のイメージだ。

 腕を全力で振り回した時ような、血液が指先に集まる感触を思い出しながら何となく集中する。

 紙だし「壊れんなよ」と思いつつ、少しずつ流し込む感じ。


「んっ」


 効果は思ったより早く表れた。紙面の印章がぼんやりと輝いた後、紙が消失。代わりに水が溢れ出した。紙は使い捨てか。

 用意されてたのであろう木桶に、慌てて水を流し込む。


 ほっほぅ。紙に付与(エンチャント)された水系魔術ってやつか。

 見た目はきれいな水だ。飲めそうだなこれ。

 水筒を持ち歩くより、軽くて便利良さそうだ。

 もっとも魔力ってやつは大方、最大MPとか一日の使用可能回数とかがあるに違いないから、一概に水筒より良いかは別の話だな。


「流石に全く魔法が使えない訳でもないのか。まあ、魔力が通せるのにスクロールの起動ができないって事はないよね」


 実験の結果を見つつ白紙の紙に、何やら文字をすらすらと書きつらねている。

 相変わらず、ムスっとした表情だ。何が不満だってんだまったく。


 出来たじゃん。褒めてよプリーズ。


「次はこれ。読んでみて――もちろん魔力は込めて」


「了解」


 何故と聞いたところで、返答がないのはわかっている。ちょっとの時間だけど会話した感じでは、彼女が無駄と断じた事象に対する説明とかを嫌がるタイプと見た。つまり『論より証拠だ、やってみろ』系統人。なので、言われるがままに読もうとして紙に目をやる。

 するとアルファベットの筆記体のような羅列に見える。挙句、意味がちゃんと解る。

 すげぇぞ異世界。


「我求めるは、清浄なる水」


 詠唱させるのが目的なんだろうと考えて、右手を前突き出しながら左手に持ったの紙の呪文を読み上げる。同時に魔力を通すのは右手だ。

 出ない。呪文の文面の内容から推測すれば、さっきのスクロールに描かれていた呪文の詠唱だろう。しかし、込める魔力を高めても一向に出ない。水が。


「っ? なんで」


「やっぱり使えない……はぁ」

 

 っ……クッソ。あからさまに溜息つきやがった。

 垂れ下がった耳を、更にこれでもかと言うほど垂れ下げて。あ、耳かわええ。


 でもなんでだよクソ。

 試しに無詠唱ならできるかも、と水が出るイメージを持ちつつ魔力を込めたり、頭の中で詠唱をしたりしたが、結果は同じだった。

 

「無駄よ、無駄。じゃあ次はこれ」


「どわぁ!」

 

 彼女がおもむろに投げて寄越したのは短剣だった。

 サバイバルナイフよりは長いか。歯渡り五十センチくらいかな。掌を広げて親指から小指まで大体二回分くらい。刃引きされているのか、ナマクラなのか受け取った手のひらに怪我はない。

 ぴっと差し出された紙を手に取る。


「それは、シャープネスのスクロール」


「ははぁ。こいつの切れ味良くするって事か」


「いいから、さっさとやってみて」


「へいへい。ご主人様」


 手順は同じ。魔力を込めて「切れ味バッツグーン」とかイメージしつつスクロールを起動させた。

 順調にいったのか、手元の短剣は心なしか輝き、鋭さを増したような気がする。

 

 彼女が無言で木の棒きれを放り投げてくる。ブン! とか音のなる勢いでだ。

 うへ。『へいへい』は不味かったか。

 思わず短剣で受けると、驚いたことに棒はあっさりと真っ二つになった。


「すげ。受けただけで斬れちまった」


 つまらぬものを斬ってしまった。と言いたくなるすごい切れ味。魔法の効果絶大だなオイ。

 何かを納得できなかったのか、彼女の様子がおかしい。

 まるで想像すらしてしていなかったとでも言いたげな表情だ。


「う……そ」


 彼女を見ると、垂れ下がっていた耳がピンと少しだけ上を向いた。目を大きく見開き、驚愕の表情で硬直している。まさに驚き、驚愕、アンビリーバボー。って顔

 俺だってびっくりだよ。急にぶん投げてきやがって。受け止めれたのは奇跡だよ。

 でも……うへへ。ちっとは違う表情が出てきたよ。


 彼女を放置して、隣にあった別のスクロールを拾った俺は短剣にもう一度エンチャントを試みる。

 うしうし、この調子だ。絶対喜ばせちゃる。

 うん?

 ちと紋様と印章が違う気がするが、まあ気にするこた無いだろ。


「行くぞ、もう一丁」


「むーり、重ね掛けなんて出来ないよ」


 調子に乗った俺に少し機嫌を持ち直した彼女が言う。出来ないそうだ、むう。

 だあがしかしぃ! ここは異世界、俺召喚された現代人。出来ないことができるのがテンプレだろうがよ! 今こそ生まれろチートな俺っ!


 何かを探していた彼女が振り向いて、ぎょっとする。


「あっ。馬鹿やめなさい! それは火炎球よっ!」


「へ?」


 やべ。攻撃魔術だったのかと思ったが時すでに遅し。豪と唸りを上げたる爆炎。

 天井まで上がりやがった。ちっ、たぶん髪の毛焦げたぞクソ。

 害のないスクロールしか置いてないと思ってたのに。


 次第に形を変え、球体に収束し、中空に浮く。

 指定していない攻撃魔法が、滞留、停滞するのか。

 無差別に飛ぶのか。向けた方に飛ぶのか。


 マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ! 


 一瞬の思考、思い描くは以下。


 塔の壁に向ける → ない。

 彼女に向ける  → ない。たぶん俺が死ぬ。

 敵にぶっぱする → そんなヤツはいない。

 外に放つ    → 閉鎖空間。窓もないわ! 壁と同じやんけ。

 飲み込んでみる → できるかクソが!

 

 全ての選択肢にダメ出しして俺がとった行動は。

 斬った。


 短剣で。


 火球を。


「そ、そんな……嘘でしょ。信じられない。何それ。あり得ない。どう言う事?」


 斬った火球は真っ二つになった後、消えた。

 代わりに、短剣の剣先が灼熱化し真っ赤に染まっていた。



サブタイトルとか色々変わるかも知れません。

見切り発車全快。

あ、週一投稿目指して頑張ります。

次回:『実験結果』 

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