1-1:召喚
超絶拙いです。我慢出来たら幸いです。
あ、落ちた、死んだわこれ。
流れる走馬燈もなく。落下の恐怖もなく。ああ、死んだわ。
と思いきや、強烈な痛みを覚える部分を発見。
ズキズキと痛い。痛む箇所である頭を押さえると、どうやらしこたま後頭部を強打したらしい。
コブくらいで済んでくれたのか。
「あたたたたたたたた、ほあたぁ」
適当なセリフで痛みをこらえ、薄ぼんやりする頭を強引に振り回す。
すると当然の様に激痛が走る。
首。後頭部。肘。膝。あらゆる箇所に違和感と痛み。
それと酷い頭痛。視界が揺れているようにも感じる。
「クソ痛えっーーー!!」
脳震盪気味で靄のかかった視界が開けてくると、落ちた筈の沢ではなかった。
雨天の山でもない、もっとほの暗い……空気が流れてない?
あっ、あとケツが痛い。
上体を腹筋で無理やり起こしてみると、尻の下は石の床。
ゆかぁ!?
濡れていたハズの着衣は別段濡れているように思えない、しっとりともしていないのだから。
濡れてはいないけど微妙に肌寒い、あと尻ツベタイ。
「なんだここ?」
ひんやりとした空気と、酷く靄のかかった視界。有効視界ゼロメートル。ってあったけ?
靄……霞む視界は決して頭痛のせいではないと感じた、舞台演出用のスモークみたいな感じ。
目を凝らすと、部屋の中の様だ。靄の向こうには、うっすらと動く影。人影……か?
「何これ、まさか失敗!? あたしが? あれだけの時間と労力と魔力を注いで?」
聞こえてくる声。女だ。
年若い、しゃがれもカスレもない声、寧ろ心地よい音。音色って表現でも良い位だ。
「待てよ……うん、強い魔力は感じる」
聞き間違いではないらしい、頭を打ったせいで聞える幻聴かと思ったが。いやー良かった。
デ、ナ・ク・テ・ダ・ナ。
いや、こちらは『聞き間違い』であってほしいのだが。
……今、なんか『魔力』って言ったか?
靄がどこからか吹きこんだ風に巻き上げられ、薄明りの中で人影が人の姿として視界に入ってきた。
――赤い髪――。
第一に飛び込んできたのは、赤。赤い髪。赤毛と言うのもなんか違う、まさに赤!
現実的な朱や茶の亜種って感じの所謂、赤毛ではない。正真正銘の赤。
艶やかなストレートの髪は背中まで伸びたロング。
次に目についたのは肌、薄暗い部屋灯りの癖に妙に目に入る色。その肌は、化粧品メーカーの言う透明感なんて言葉がしっぽ巻いて逃げ出すような白。うっすらピンクかな。
柳眉は眉根が寄ってしまってハの字になってはいるが整っており、うつむく目元には長い睫毛。
「でも守護者を呼び出して、ただの人族の子供ってどうなの」
小柄ながら衣服から覗くスラリとした肢体、ぶつぶつ呟く口元も含めて一言。
美少女。
表現が至極チープだが、それ以外に表現がない。これもまたあり揺れた表現だが、街で見かければ、十中八九振り向くね。北欧の妖精と言われたら俺、信じちゃう。ドキドキしちゃう。
ただ一点の違和感を除けば。
「えるふ?」
そうだよ、エルフだよ、あれ! 耳! とがった耳っ!
古いタイプの長い笹の葉状じゃないけど、確かに人とは異なる耳、ザッツ・エルフ耳。
俺は一体どうした? パニック全開!? 何故か絶世の美少女コスプレイヤー登場の巻き?
「つかよぉ、マジどこだよココ」
「言葉は通じるようね」
思わず疑問を音として発すると、謎の美少女はその綺麗な口からキレイな音を奏でた。
そして俺に訝し気な視線を向けると同時に、ピルピルと耳をひく付かせた。
ってぇ!? つけミミじゃねぇ! 動いた、こいつ動くぞ?
イッツ・ファンタジーーーーーーーー。
じゃねぇ。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
俺、人、高校生。沢に落ちた。
頭、痛い。ついでにケツも痛い、あ~んど冷たいデス。
床。
変に暗い部屋。
オンナ。
つか美少女、あっ超絶が抜けた。
エルフ耳。
思ってたより短め。
魔力、守護者。
謎だらけのキーワード達をまとめ上げ一瞬の思考。
あれか、所謂あれか? 来たか? 異世界転生ってやつなのか。
ちがう、そんなわけあるか。夢に決まってんじゃねーか。
あと転生ってなんだ、死んでない、イキテルヨ? なら転移って奴か! うはははは。
そうだ、夢だって。テンプレ、テンプレ。
HAHAHA! 大体、あれはニートじゃなきゃ発生しないイベントだろ?
自慢じゃないが、普通に学校には通ってる。つかアタリマエだ、自慢にもならん。
ダンプに牽かれても無い、交通事故でもないし、中年男性でもない、俺高校生。IT企業なんかにも努めてない、俺高校生っ!
ドッキリにしては手が込んでる。遊んでた連中が仕込んだにしても、校外学習中にやるイベントじゃないよな。しかし、ずっくんずっくん痛む後頭部の痛みはなんだ。
痛いの本物、痛いのリアル。
痛ければ夢じゃなくて現実。とかって言うけどさ、そんなことあるか? あり得んのか?
異世界……。
「あのー」
よし、声をかけよう。外人さんコスプレーヤーに違いない。
ピルピルの耳は無視だ。幻覚だ。質のいいギミックだ。
きっとここは山小屋かなんかに違いない。介抱されたんだ、そうだ。それが正常。
美少女な外人コスプレーヤーと山小屋の関係性なんて考えるな。
正しく忘却、ん、それが幸せ。
「ん?」
長く美しい赤い髪を、あの特徴的な耳にかき上げる繊細な指。見たことないくらい綺麗で細いのに、骨ばしった印象は皆無。左手を腰に当て、こっちを覗き揉む美少女。
瞳はちょっと見たことない色、直感的に表現すれば赤い瞳。
つか、ほっそ! ウェスト細お!
胸ちら、無し。ちぃ、じゃねえっ!
コミュニケーションだ。幸い俺はコミュ障とか言うもんじゃない。
こちとら、転勤から転校のコンボをもらい続けて、都合7回。高校二年のこの春からは、アコガレの一人暮らし。自炊の修行も終え、ご近所への挨拶もばっちり。
コミュ障さんとは小学校でオワカレした。イッツ・パーフェクト俺!
そう、アイサツ! 友達作るには、まずアイサツ! 声かけ、笑顔。
キモイと言われても我慢で笑顔。空気読めなくても前向きに特攻、前のめりでキョドって大爆死。
うるさい、それがコミュ障とか言うな。
人間、思い立ったが吉日、直進前進、大行進!
後悔はするな、でも顧みることはしようね。
親父に教わった数少ない『まともな』教訓だ。
『いきなりなんですか』とか怖がられても泣かない精神を持て。
異文化交流するんだ。行けっ俺!
「コン・ニチワ」
だぁしくじった、ちくしょう!
カタカナ口調になった。似非英会話教室のコマーシャルかよ。
「挨拶? 共通語かな」
ぴく。
耳がはねた。
聞こえてる。よし、笑顔全快!
にこやかに、爽やかに、スマーーーーァイル。
「俺、ココがどこだかわからないんだけど。どこ? んで君誰。どういう人なんだい」
メキッって音が適当かどうかは不明。けど鳴った気がする。
ビキリッでも良いけど、確かに浮かんだコメカミの血管、バーイ美少女。
青筋だと!? 馬鹿な、怒らせたってのか。ナゼダ。
先に名乗るべきだったか。口調の問題か? 失礼過ぎたのか、失礼極まった?
って、極まってねえよ、普通だってんだ。
ええい、口調だ。爽やか系でいく?
いやまてまて、うん。よし、丁寧にいこう。
「こちらはどちらで、お宅様はどなた様でしょうか?」
言い終えた途端に、ゆらりと燃えるような赤の髪が広がった。
直後、その音が聞こえた。
ぶっちん。
「大失敗じゃないかーーーーーーー!」
『あべらぶべばばばばばばばばばばばばばばば!?』
盛大に鳴り響くように聞こえた血管の切れる音。
あげる心算なんて、欠片も無いのに聞こえる己の叫び声。
全身に行き渡るのは未体験の衝撃と、血液が沸騰するような感覚。
灼熱色の瞳を目にした直後、感じたのは昭和鬼娘の放つ電撃の様だった。
と思う。
本編開幕からして、不安要素しか無い駄文ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
無理やり展開上等! 頑張ります。




