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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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はぁ……どうにも参ったねぇ

あけおめ 投稿


 唐突だが俺は今不安を抱いている。それは今回の策。

 これが「あまりにも出たとこ勝負すぎて無理があんじゃね?」って事である。

 本当に今更ではあるのだが、俺はそんな風に感じ始めていた。

 そもそもが『所詮部族間紛争なんじゃろ?』てな具合にタカを括ってこの争いの規模感を聞き忘れていたことに原因があるのだが……。



 それは、捕らえた略奪集団の数が二十を超えた辺りで耳にした話だ。

 まず――この虎人族国の規模は、大小八つの部族を合わせて約四万の国民。

 内訳は首都たる<迷宮都市アビッツェン>の住民が約半数。その他は各々の部族の領地に点在して居る。人族で言えば騎士団に相当する戦闘集団である『戦士団』の構成員は筆頭部族が出す事となっており、現在一万千四百余名が籍を置いている。

 対して敵陣営、獅子人族の陣容はなんと約五万だという。国民がではない、戦闘集団の規模がである。これは捕虜の話からも間違いない事実。

 しかも、獅子人族は多くの傭兵を雇い、挙句には現在進行形で冒険者を唆したりもしているという。

 お宝をかっぱらわれた冒険者が解放を条件に、鞍替えするって話だ。

 実際に捕らえた捕虜のなかにそんな奴らが居た。


 この兵力差から考えてこの策はまるで、森林火災に消火器で応戦しているような状況に俺には思えた。

 敵……獅子人族からキマグレな大侵攻でもあれば大事。

 どう大事かと言えば、兵力差だけで考えても凡そ五倍、いくら虎人族が生まれながらの戦闘民族とは言え、相手もさるもの獅子人族。つまり同じ獣人族である。

 この差はデカイ。

 だいたい、強制動員すれば兵力はさらに増すに違いない。

 加えて云うと、俺たちがやってる事と言えば、場当たり的な討伐行動のみ。


 実に無意味に思えてならない。



「はぁ……なぁ~んかさあ、作戦間違えた臭くねえ?」

「まだ一週間で何言ってんの?」


 ポツリと溢したボヤキを耳聡くとらえたアンは俺にそう言った。

 そりゃどういう意味かと問うと、どうやらアンにとってこの状況は想定内なのだという。ふむ。

 大規模な捜索隊や、未知の強力な敵戦力の登場……つまり相手方の重要戦力である切り札の切り崩しを狙っている様な節だ。


 俺の意見を言わせてもらえば、それは愚の骨頂って奴と思われる。


 柿の木の下で熟れて実が落ちるのを待つが如し。


 相手がそう都合よく、今の様な兵力の小出しを続ける保障など何処にも無いのだ。

 一気呵成に大兵力を展開されたりすれば、あっという間に対応が間に合わなくなるのは火を見るより明らか。強盗の真似事のベールを脱ぎ棄てられたら終わり。

 何の故あって大兵力で蹂躙って策を用いず、こんな迂遠な方法を獅子人族が取っているのか。国家間の勢力図がどうなっているか。強硬策を獅子人族が取る事で情勢がどう動くのかとかとエトセトラ……んなこたあ俺如きにはチットもわからんのだが、これだけはハッキリ言える。


 五倍の兵力差ってのは奇跡無しでは覆らない。


「案外さ~、悪役の定番な感じですんごいお馬鹿さんかもだったりじゃん?」


 それを傍らで聞いていたジェシカがおどけた様子で、さも俺が心配性であるかの様にそんなことを言ってきた。

 んなアホなである。マジでそんなマンガじみた話がある訳があると思ってるのかよってハナシ。

 ご都合主義は物語の中だけ。

 んな事を言う等、現実の厳しさってヤツを長年味わったジェシカの台詞とは思えない。


「アンタ……何のためにここに色魔(ベリ)がいないか覚えてないワケ?」


 おや? もしかして何か裏で動いているのではと思案を始めていると、アンはこれ見よがしな溜息と共に「ヤレヤレ」と溢した。

 そりゃ覚えているに決まってるのだがね? 

 なにせ俺が言い渡した訳だし?


 現在ベリの動向としては、アンの策を基に俺が指示出して敵陣中にて索敵。潜伏しての隠密行動中である。更にはベリの眷属を利用して公爵陣営の動向調査も並行して行っており、俺たちの中で一番のフル回転状態だ。


 ……それ位の事は俺だって覚えているさ。


「覚えてるが……ってまさか何かあったのか?」


 こっちの動きがバレたとか。

 俺そういうとアンはマッハの反応で「はんっ!」と鼻で笑った。


「それこそマサカでしょ。現状……こちら側の損耗は皆無に等しい状態、対して相手は一網打尽に近い損失与をこうむっているんだよ。それこそ出てくる奴みんなって勢いでね。これが何を意味するかくらい、アンタもわかってるでしょ? すなわち! 相手がまだ被害を認識出来てない、これはその証拠。さすがあたし考案の電撃作戦!」


 自画自賛である……。


 それはさておき。

 事実……俺たちはお馬鹿さん達を二十組、トータル百名近い捕虜を得ている。

 もちろん大戦果である。それは確かだ。間違いない。


 だが、だがだ! それは敵の兵力からすればほんの一部に過ぎない。

 浮かれるのは楽観に過ぎる。


 情報ってのは往々にしていつの間にかどこかから漏れるもんだと俺は思う。

 大体、今後……敵に少々頭の回る奴がいるとするなら、こちらの動きを調べようとする。いや、既に居たっておかしくない。現段階では捕虜からの情報によるとそんな動きは無いとの事だが、それだって何時まで……って話だ。

 そんなキレ者が存在するとするなら、襲撃チーム内部に監視役の兵を潜ませていてもおかしくはない。

 少なくとも俺程度でも思い付く対応だ、無いとは言い切れないだろう。


「杞憂って奴なら助かるんだけどな」

「ケイくんってば気にしすぎ! ったく心配性なんだから」


 いうに事欠いて心配性と来ましたか、はぁ。なんだよもう……。


「俺が心配性ってのです良いがね。敵さんの方針が変わって大兵力を展開されちゃまずいってのは解かるよな、ジェシカさんよ?」

「むむっ! そんなのアンジェちゃんが一発『どか~ん』てやればいいじゃん?」


 ハイ、お馬鹿確定。

 

「それが出来りゃ苦労はねえの! そもそもアンがこの国に関わってるってなっちゃマズイって話があるの!」

「あったっけ?」

「アルンデスヨ、色々と――国際問題的なアレとかソレが……」

「ふ~ん。じゃあさ、アンジェちゃんだってバレないようにして、ドカーンてやればよくない? 手加減とかしてさ~」

「……アンタ真正のアホか……」

「ア、アホっていった~!? あえてバカじゃなくて「あほ」つったんじゃん?」

「まず! んなこたー出来ない。アンジェリーナ・ティクナート・ルシアナ・ゼルフってお方は俺の知り得る程度の情報によるとだ、『稀代の大魔導師』それに『あり得ざる存在』『爆炎の申し子』『サイト=デッド』エトセトラ×数十っって異名を持つ! そりゃつまり、見るモンが見ればそいつの使う魔術は、そりゃも~あっさりと「あの赤炎」つまりアンの魔術魔法であると特定できるくらいには超有名で、すんげー出鱈目なの! まさに異名のひとつの通り『天災ネイチャー・ディザスター』なのっ」

「ケイゴ酷い!」


 いや、酷いのはアンタの異名の数だ。

 今までどれだけの事をしでかしてきたんだか……。

 それはさておき。


「あい? 手加減は?」

「はぁ……しても無駄なのデスヨ、お嬢さん」

「……な、なんでよ」

「アンタにわかりやすく言うとだな。使用レベル1LVの術式、魔法の矢を打ちます」

「うん」

「それが一本の矢がぴろっとでるのが普通。多くて三本なのな。んで、国に仕えるすんげー術師である宮廷魔導士様でさえ五本が良い所だろう」

「ふむふむ、それで?」

「ところがだ。アンの場合、この魔法の矢の魔術を普通に使えば一回の行使で、恐らく二十本以上(・・・・・)打てちまうだろうよ」

「ちょっ、え? な!? えええ? なんでアンタそんなことまで知ってんのよ! で、でもでも、違うもんっ、出来るもん! 改造魔術で『五本』に絞って撃てるもん! 寧ろ、いつもそーやってるもん!!」

「五月蠅いマスター! 話をややこしくすんな」

「ううっ、あたし悪くないのにケイゴがマジ顔で怒るぅ……」

「あはは、えっと……つまりなに?」

「特別に抑え込んだ魔術でさえ、国家が誇る魔導師クラスの術になっちまうって位、アンはイカサマな存在って事だよ」


 それに、これは俺の想像に過ぎないが、恐らくアンの放つ魔術の威力は基本が高けぇ。ゲームで言う所のレベル補正的なもんで、発動した攻撃魔術の威力に補正とかが掛かってやがると思われる。

 つまり先の魔法の矢で説明すると、一本辺りのダメージが半端ないって事だ。

 故に、手加減をしたところで無意味。

 燃える様な赤い髪の森妖精族(エルフ)が魔術を使えばそれはアンと言う事になる。


 その力が絶大ゆえに偽ることすら能わず。


 そして……。


「百か所で百人が暴れています。はい、この場合全員で何人ですか?」

「なにさ唐突にそこまで馬鹿じゃないし……い、一万人でしょ」


 何故いま指を折った? ゼロの数でも数えたか人生の大先輩?


「正解。ではそいつら百人を一撃でぶっ殺せる魔術をアンが撃ったとしよう。じゃあ何発撃てばいい?」

「百回じゃん」

「それをどうやって打つ? 術ってのは無限に撃てるもんじゃないんだぜ?」

「侮辱してるの!? 百ならなんとかなるわよっ! 大魔術なんて要らないもん!」


 だから、ちょっと落ち着け。たとえ話だっつーに……。


「じゃあだ。二万を六個小隊三十名からなる部隊編成で一斉に攻めてくればどうなる」

「あっ……」

「そうだ。敵の最大兵力から考えても、今俺たちが居る迷宮都市周辺の地理条件からしても、双方がワザワザ平原に全兵あつまって持てる兵力のぶつけ合い――な~んて数の削り合いみたいなアホの極みの状態になってくれない限り、俺たちだけじゃ絶対に防ぎきれないってこと。数は力だっていういい例だな」


 この戦いは、敵を本気にさせてもいけないし、手を抜かれすぎてもダメ。

 この国を脅威と思わせて、今後一切手を引かせる事こそが狙い。着地点だ。

 それには情報の漏洩は非常にマズイ。

 帝国に知らせられてはアンはこの国の為に動けなくなる。帝国はこの国より獅子人族の国と交流が深い故に、必ず引けとの命令が下る。

 万一、彼の公爵が獅子人族と繋がってるとなりゃ……。

 

「はぁ……どうにも参ったねぇ」




ことよろ 撤退。


こんごもボチボチって感じです。はい。

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