やり過ぎだ、この変態っ!
ちょろっと投下
「アン様、マスター。こーそー(?) が終わりました。次、行けます」
ロミィが愛くるしいキリ顔でそんな事を云った。
使い慣れない言葉を発する時の不安そうな仕草も全て愛らしい。
我が子の成長を見守る父親の心境とは、このようなモノなのだろうか。
「あれ? ロミィがリーダーだっけ私達のウチで」
「一番の先輩っスからねえ。いいんじゃないっスか」
ふつ~に考えればオバ……こほん、年長なミサキさんがリーダー。
もしくは冒険者としての経験上ならケーナがリーダーとなるべきなのだろうが、どういう訳かロミィが仕切りをやっているらしい。
「ケーナ……アンタさあ、年長者だとか先輩冒険者だとかのプライドとかない訳ェ?」
「プライドじゃ強くなれないっスしぃ、その上勝てる気もしないっス」
「たはは、まあね……」
成長著しい……。そうなんだよな。
最近のロミィはちょっとすごい。
違うぞ?
身長がとか、体型がとか、ボディーラインがとか、そんなんじゃないからな?
その成長著しいロミィ……彼女の持つその戦闘力はハッキリ言って三人のうちじゃ断トツだ。
今のあの子を相手するにはケーナやジェシカではかなり荷が重いだろう。そうだな、リナといい勝負をするようになってきていると云えば解りやすいだろうか。
それに、元々頭のいい子だ、帝国語や共通語にも慣れてきて、会話にもう殆ど支障がないとこまで来ているので、報告にさわりは無い。
俺たちに出会う以前からサバイバル技術やその知識に長けており、戦闘面の不安要素無し。
賊と対峙した時の即応反応だって先輩冒険者のケーナが舌を巻くほど。
すーぐ調子に乗るミサキさんの悪ノリを止めたりと、まぁ~頼りになるシーンが多々。
この様に、心身共に成長しているのが今のロミィなのである。
とは云えよ?
……強さが正義だとか、リーダーの象徴みたいな感覚が俺には少々……いや、全く理解できない。
そんな俺だから、幼いロミィに従う事に異論が無いって脳筋思考が分らない。
だが、反面「こんな世界じゃそれが当たり前だろう?」って話も今の俺ならなんとなく解る。
素質にしたって、ケーナに比べりゃ竜の血族であるロミィやジェシカは反則級だもんね。
俺らの感覚でいう【お金持ちの家に生まれ】とかと比べ、比較にならん程のアドバンテージ。
なんつたって、どんな努力をしようが覆らねー差なんだもんなー、これは辛い。
そんな『理不尽』が『当たり前』なのがこちらの常なのだ。
ここの連中が神様を恨まネェのが不思議ってなもんだ。
もっとも、彼等が信仰しているのは「みんな平等」て神様じゃないんだけどね。
そんな環境下で『努力して上を目指そう』っていう、こちらの人族が持つ『たくましさ』や『向上心』にはホント頭が下がる思いだ。
特にケーナなんて出会いがアレだったし、本当に尊敬する。
偶に泣き言くらいは吐くけど、ケーナのその努力する姿は実際大したものだと思う。
つか、コッチの世界って十五歳で成人と言うだけあって皆が皆『大人』になるのが早い。
それは小さな頃から、いろいろな仕事を任されるからなんだろうね。
中学生くらいの子達の持つ『責任感』がもうハンパないっつーか?
学校とかって社会の仕組みで、ヌクヌクと優しい子供時代を満喫出できるのが「アタリマエ」だって思う俺の方がココでは異端なんだと痛感する昨今だ。
俺なんて、ガキの頃から親父にちょいともまれた程度で、苦労らしい苦労なんて殆どしてないもんな。某戦斧王サマは、俺の幼少の頃からの訓練が異常な程にカコクだった、的な事言ってくれちゃってたけどさ、俺的には、そんな頑張った記憶なんてコレっぽちも無いんだよね。
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「ロミィ頑張ります」
俺にいつもの「えは~」って笑みをくれつつも、アンから次の指示を受けたロミィが気炎を上げている。
これはちょっと、競走馬で謂う所の『入れ込み過ぎ』な様子に思えたので少々窘めてみる。
「ああロミィは偉いな。でもちょっとだけお手柔らかに頼むよ?」
「いいえ、ダメです。メスを見る。すると、スグサマ(?)発情するオスに慈悲はない。です」
おやまあ……頑張るのは作戦遂行では無く『オス猿狩り』の方でしたか。
ならこれは、入れ込みでは無く、憤り?
それにしても、唐突におっかない表現を使いだしたな。
チラリと視線を送ると、鳴らない口笛を吹いてそっぽ向いて目を返してくれない昭和な反応を確認。
よろしい。今回はアンの仕込みじゃ無くて、アンタが犯人と認識した。
「ちと、そこなジェシカ嬢? ちょいとアッチで俺とオハナシしましょうか」
「いひゃい、ほっへのびう~」
何事かと俺に胡乱な視線を向ける現地人たちから数メートルは離れ距離を取る。
虎人族は総じて耳が良いので注意が必要。故にひそひそと問い正す。
「謂え、一体ロミィに何を吹き込んだオバサン!」
「オ、オバサン言うなぁ!」
怒りに合わせてぴこんと蜥蜴尻尾が立ち上がる。
先っちょにキュッと結ばれたピンクのリボンが妙に微笑ましい。
戦闘ばっかなこんな状態じゃおしゃれは難しいし、そこは許容しよう。
美人局にももってこいだしね。
メイドアーマー的にカスタムされた衣装だけどね!
「わ、私は今回なんもしてない……じゃん? い、言いがかりは良くないぞ少年」
「ほう……言いがかりねえ……」
ぴこんとオシオキを閃く俺。
俺の胸ほどしかない背丈のジェシカだ、なでると弱点な角が実に良い高さにある。
それを軽ぅ~くピチンと爪弾く。
「うっきゃぁ~! いったぁい。マジで超痛いんですけどぉ!?」
予想以上の痛がり方に若干後悔しちゃう俺。
「お、お願いシマス。つ、角だけはホントやめて。マジヤメテ。お願いデス何でも言うからクスン」
おおう。すんげぇ涙目。こりゃ相当痛いらしい。
それにアチラの方から「主が相手とは言えなんと不憫な……」とか「くっ、見てはおれぬっ」とか「竜族に連なる者の角を痛めつけるだとう、年端も行かぬ少女に何と恐ろしい」だとか超絶酷いご主人様扱いな発言を、近頃暴走気味な『雑踏の会話検知』さんが拾ってくるので方針転換を行う。
目線を合わせる様に屈んで、ちょっと優し目の声で話しかける事にする。
「悪かった。謝る」
「はぁう……う、うん」
「で――『今回』――ロミィには何を?」
「飴と鞭」とかいう外野の声は聞こえない!
「あの、えっと。も、もうやんない?」
「やんねぇよ?」
「あ、あのね、えっとね? ケイクンが喜びそうなアニメの台詞を一通り披露してみました。あの娘ったら、あまりにも真剣で、それでいて楽しそうに聞いてくれて嬉しかったからさあ、つい調子に乗っちゃって、なんだかんだ色々……みたいな? ううっ、ゴメンナサイ」
なるほどね。
子供心にワクテカなアニメなエピソードをこれでもかって脚色を施して、寝物語にでも聞かせていたのだろう。最近は特に一緒の部屋で寝起きしてたしなあ。
「おっけ。じゃあこうしよう――あんまり変なセリフを教えるのは禁止。俺たちの世界の知識や情報、考え方のレクチャーとして多少なら……ってことでいいか?」
「う、うん。い、以後気を付ける……じゃん」
やっぱコレ、ぴこぴこ可愛いな。
頭撫でるのは角に当たるから禁止だし、よし。
「うし。次も頑張ろうな」
締めくくりとして俺はリボンの辺りをキュキュッと撫でると
「うあひぃん!?」
みたいな声をあげて顔を真っ赤にしたジェシカはその場にへたり込んでしまった。
そして拾ってくるざわめき。
「尾を!? 何と破廉恥な!」
「あれが人前で、しかも少女にする事か!?」
「なんと! 公衆の面前で女人の××を撫でるが如き所業ぞ」
「いやいやお主ら、彼女は竜族に連なる者……我等とは違うに違いない」
「しかしあの様子だぞ? 何があったかは知らぬが、些末な事で在ったろうに。惨い……」
「むう、人族の教育とは恐ろしいモノよ」
「ウム、我等も粗相の無いよう、怒気に触れぬよう、仕事に励まねばなるまいっ」
余計に外道値がうなぎ上りになりました。しくしく。
つーかなんでそんな所にリボンを結んで飾るのさ!
酷いトラップである。
虎人族さん達はその目に畏怖と蔑みを帯び始めている。
そもそもこっちが驚きである。まさか尻尾とか角ってのがそんなビンカン器官だったとは。
そしてもう一方からは灼熱の視線が突き刺さってくる。
「ケ、イ、ゴ♪ 下へのキビシ~教育、大変結構。でもね?」
「は、はひぃ!」
「『刺穿つ電撃!』」
「目がぁ! ぃぃぃったいメがぁ!!!」
「やり過ぎだ、この変態っ!」
眼球の水分を電撃でぶっ飛ばすとか! 今までに無い痛さ、未体験ゾーンGET。
ああもう、マジクソ超イテェ!
そんな普通なら悶死ものの激痛にも、耐えれちゃう不死の再生怪人な肉体に嫌気がさすが「いやアンタも十分鬼だよ」って兵士の声が俺の心にほんの少しだけ癒しをくれた。
こそっと撤退。




