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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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偶然な訳が無いだろってんだ


 出会ってからの五日を、共に飯を食い共に時を過ごしたロイさんが屋敷を去ってから、はやくも一週間が過ぎた。

『強くなり隊』のメンバーであるロミィ、リナ、ケーナ、それと養子であり伯爵付き護衛侍従となったロミィやジェシカの長さ馴染みであり、竜の里の生き残りである垂れ耳の竜族のエルリルは、生きた伝説の冒険者に暇を見つけては稽古をつけてもらっていた。

 だが、今から丁度一週間前、朝食の席に豪快に少量を頬張り込んでいた彼の姿はなかった。

 親身に稽古を見てもらっていた彼との突如として訪れた別れに、皆が寂しそうにしていた。

 そんな日の昼食後だ……。


「戦争?」


 唐突にアンがその言葉を吐いた。


 戦争になる。


 アグーデ伯から貸与されているこの館に設けられた己の執務室に、俺とリナを呼び出したアンはそう言った。

 いつものことながら、アンの言葉はいつだって唐突で驚く。

 そんな様子のまま、俺がリナの方をみると彼女はこくりと静かに頷いた。

 どうやらリナは先に何事かを聞いている様子だ。


「えっと獅子人族の嫌がらせの話は覚えてる?」

「ん? アレだろ。リナの故郷である虎人族たちのテリトリーに、ダンジョンのお宝を目当てに、こっそりごっそりがっさり、まるっと横取りしようとする『謎』の略奪者が数多く横行しているっていう」

「そうそれ。それがね……」


 いつのも教師口調で長ったらしいので要約して言うと、この城塞都市に虎人族の使者を名乗るものがやって来て、獅子人族の横暴を許さず力で武力を以て淘汰する。故にルシアナ帝国には不干渉を求める。

 との事だそうだ。しかも一方的に宣言だけして去ってったと言う。

 ぶっちゃけ堪忍袋の緒が切れたって奴だろうな。


 南部域における主たる三つの街道、北の険しい森街道ステープフォレストウェイ、中央の草原の街道(グラスライン)、南の湿った街道(ウェットパス)この内、中央ルートの通る広大な草原地帯に覇を唱え、安全保障税の名目で通行料を徴収する国がある。獅子人族が治める小国だ。

 この獅子人族とリナ達虎人族は……まあ犬猿の仲と言っていい。


 ……忘れているかもしれないがリナの本名は『パウリーネ・メル・ガボン』と言い、虎人族を現在治めているガボン一族の長女で、つまり立派にお姫様なのだ……。


 んで、その幾代もいがみ合いが続いていた両者だがここ最近、特に仲が悪いらしい。

 そしてそれが悪化に悪化重ねて、ついには戦争をおっぱじめるのだと云う。

 

「ここ最近ね、南大陸(ナウル)系の多数の商人が、頻繁に国境の港町レイドンから出立して草原の街道(グラスライン)に入り、彼の国に入国しててね。なのに大半の商人がルシアナ南部の最大の街であるここクアベルトまで来る様子が無い。これってどういう事かわかる」


 おやおや、どうやら久方ぶりに馬鹿にされているらしい。

 いや、アンジェリーナ先生の授業モードのお時間といった方が良いかな。


「来る必要が無いんだろうよ。理由(ワケ)は獅子人族と取引しているから……だろ?」

「そのくらいは解かるか。ならその交易品(シナモノ)はなんだと思う」


 やっぱ馬鹿にされてる……。

 開幕一発目であんなセリフを吐いておいて、俺がそれに気が付かないでいると思うのだろうか……。


「出しているものはダンジョン産のお宝。で、仕入れているのは武器。それに大量の食糧ってとこだろう。下手すると『戦力』もかも知れないけど、さすがにそれは帝国側だって誰かが気が付くだろうし、普通に考えればそれだけは何としても阻止する。違うか?」

「なんかムカつく。勝手に全部察してんじゃないわよ、可愛くない」


 うわ~ぁい、な~んて理不尽なことでしょ~。

 でもなんか久しぶりな感覚だなぁ。


「それに……」

「それに?」

「最近ここいらで起きた事件のアレとかソレとかとは全く別で、偶然起こってしまった別件(・・)でした……だなんて思うほどお花畑してねえのよ、俺」


 俺みたいなチートで『事件引き寄せるマン』が居るとしてもだ、下級竜やら翼竜の親玉がホイホイでてくるかっつーの。それも決まって主要な街道付近にだ。

 これを単なる偶然って言葉でカタを付けていい訳が無い。

 俺みたいなド素人だろうと、今回の件で気が付く。

 二度あることは三度ある? 

 だからあれ等全ては偶然で、今回の突如とした虎人族と獅子人族の衝突も偶然?

 馬鹿は休み休み、戯言と寝言は寝てから言えっ、てんだ。


「……ホンッと可愛くない!」

「今頃アチラさんは相当お冠なんだろうけど……参った、更に面倒な事になりそうだ」


 一連の事件の厄介さが見えてきてしまった。

 厄介さとは、この策の本質に繋がる。


 アチラさんが取ってきた策……いや、今現在も遂行されている策。その本質。

 それは十中八、九、南部域の戦力を削る事。


 ――っと、こんな風に『本命だとコチラに誤認させる』ことだ。


 事件を整理するとしよう。

 南部域一帯に甚大な被害をもたらし得る、強力無比な存在を送り込む。

 これを相手のやった策と仮定する。

 策が成功すれば最低でもクアベルト周辺の武力の低下、物流の混乱これが見込める。

 

 そして条件を悪化させてみる、そう『俺たちが何一つ関与できなかった』と仮定するとどうなるか、答えは『更に被害は甚大になる』だ。それこそ南部全域の壊滅だ。

 

 強力無比な存在を送り込む。

 これが『策』であったとして、この策を成功させるために、相手は少なくない人員と金と手間を要した事だろう。

 現地の魔物ではない『王亀の召喚』はその最たる例だ、相当な無理をしたに違いない。

 

 完全に潰しに掛かってきている。

 南部域の戦力どころか何もかもを根こそぎ奪いたいのだとしか思えない。


 俺たちはそんな壮大な策を阻止できた。

 しかも迅速に被害が及ぶ前に止めることが出来た。

 それこそ自覚も無い程に、早くだ。

 敵はムカついてんだろうなぁ~、ヤッタネ!

 あ~メデタシめでたし……とはいかない。


 恐らくこいつは全てが(ハッタリ)偽装ダミー虚構の物語(カバーストーリー)だ。


 本気で南部域一帯を無差別テロによって壊滅させることが目的なのであれば、もっと同時多発的に事件が発生しているはず。

 こちらに対応させるような時間的に余裕が有るのが気にイラナイ。

 

 それに策が杜撰(ずさん)に過ぎると感じるのだ。


 本来、もっと大きな効果を求めるとするのなら、俺ならどうするか?

 細かい事件をアチコチで同時に起こして、兵力の分散させるだろう。

 そして、魔物は一気に集める策を取る。各個撃破されては意味がないからな。


 なのに、周辺のや村はおろか、クアベルトの街中での破壊工作一つさえない。

 民心の動揺、混乱、不安を誘う動きも、一連の事件以外にはない。

 こんなのは下策中の下策だ。

 中途半端すぎる。


 ならば何故それを行わなかったのか。

 手が足りないからってのは楽観だ。違う目的があったと推測するほうが妥当。

 

 ではその目的ってなんだ?


 圧倒的強者で無ければ、対応できない事件を起こす、そんな理由。

 特定の人物をその事件におびき寄せる為……。

 つまりアンをクアベルトから外へ出したい。これだろう。


 自意識過剰で良いのなら俺も含めて、アンの一行だな。

 

 ではなぜアンを? その理由はなんだ……。

 考えるまでもない、か。


 こいつは、出されて始めてわかる難問だ。

 対策の打ちようが殆どないのが一番厄介な点だ。


「ちっ陽動……なんだろうけど、放置はできないな」

「陽動?」

「つまりだな……」


 陽動……アンをクアベルトの街の外に出したい。ってコトだろう。

 ついでに、コッチの目をここいら一帯に釘付けに出来ればなお良し。

 

 俺がアチラの頭領なら、アンが居ると仮定すると、並大抵の戦力では手が出せないと考える。まして、正面からとか馬鹿な真似は絶対にない。


 ならばどうする?

 他人に当たらせるってのが王道だ。


 この場合、強力な魔獣や難解な事件、そしてスザキの暗躍がそれに相当する。

 アン本人もしくはその重要な協力者の手をそちらに取らせたいのだ。


「つまり、公爵が次の作戦を行うに当たって、絶対にあたしに介入して欲しくないってことなの?」

「少なくとも、俺はそう思うってこと、それと諜報戦の負けが痛いな」

「チッ……ったく」


 アンの舌打ちは俺へ向けたものなのか、敵へ向けたものなのか……。


 諜報戦。

 ここんとこ、これが一番後手に回っている。

 こちらは相手の動向に対する情報は無いに等しい。


 次々と起こる事件は、次に何が起こるのだろうかと疑心暗鬼を呼ぶ。

 迂闊に動けないという心理を突いてきてるわけだ。

 そして事実、事件発生を機に動く、いや……こちらとしては見過ごすなんて選択取れない以上、無理にでも動かざるを得ない。


 そこから推測すると、相手はこちらの所在を正しく把握し、並の腕利き程度では打破し得ない手を打ってきていると考えられる。

 ほらな、後手後手だろう?


 但し今までの事件からは、こちらの保有している戦力、武具、技術、人員に関しては完全に理解されてないとも取れる迂遠さを感じる。それだけが幸いだ。

 なんでそんな音がわかるかって?

 言ったろう? 

 コイツは迂遠に過ぎるし、策その物が杜撰に過ぎると。

 結果がそれを物語っているのだと。


 これらの諜報結果が完璧であるならば、もっと的確で効果的なタイミングで、サクっと壊滅させられるだけの戦力を送り込めばよかったんだ。

 

 もっとも、コイツは俺の状況分析が甘いだけなのかも知れないか……。

 一旦それは置いておこう。


 結果として……に過ぎないが、俺達は相手の想定を遙かに上回る速度で事件を解決している。これにより偶然(・・)ではあるものの、相手の策は、当初奴等が思うような効果を成させていないと考えられる。

 これはこの幸運を喜ぶべきだろう。


 しかしまあ、やはり上手い手だよ、この手を出さざるを得ない状況を作ると言いう策は。下手な奇策や大兵力をより対策が打ち難く、余程質が悪い。

 こっちは思うように振り回されっぱなしだ。


 対して、俺たちはアチラの戦力や策どころか、手札の一枚も見えちゃいない。

 こりゃ後手どころか、今後も手玉にされ続ける恐れすらある。


「何としても出し抜く方法を見つけるか、せめて相手の『目』だけでも潰したい所だな」

「あぁもう! そこまでお見通しなら、なんかサッサと手を打ちなさいよ!」

「そんな理不尽な……ベリ?」

「承知したのじゃ。アンジェよ、主の了承が得られた故、少々近辺が手薄になるぞ」

「りょ・う・か・い!!」


 我がご主人様が、何故か超絶不機嫌な件に付いて……。

 誰か相談に乗ってくれませんかね?

 問答無用で黒く焦がされそうな目をしてらっしゃるんですけど……。


「あとベリ、くれぐれも全滅はさせるなよ?」

「敵の『目』を欺けというのじゃろ? あとは情報伝達経路の特定と操作じゃな」

「さすが魔神様だよ。任せた」

「心得ておるのじゃ」

「以心伝心ですコト、ふんっだ!!」


 我がご主人様が、益々、機嫌が悪くなる件に付いて……。

 思い付いた策を言えって言ったのアンタじゃん?

 マジ、勘弁してつかーさいな。


「アン。いつも通り俺のせいで話が逸れたな。今回の本題に戻ろう」

「はいはい。もう面倒だから先にアンタの意見を聞くことにするわ」

「あえて相手の策に乗る。そんでリナとの約束を果たす」

「その心は?」

「敵の本当の思惑、その先が知りたい……」


 もし、もしもだ。アン本人をクアベルトから出す事が、敵の一番重要な目的であったとするのであれば、この一計に乗ってクアベルトから出れば、敵の次の動きを誘うことが出来る。相手の思惑に乗ったリアクション待ちって消極策ではあるが、その時間でリナを助けると思えばモノのついでだ。

 それに……。


「だからみんなで、虎人族のところ……リナの国へ行こうと思う」


 仲間の助けになりたい。

 リナとの最初の出会いや経緯はアレだったとしても、俺はリナの国を救いたい。

 これは悪い事じゃ無い筈だ。

 

「アンジェ殿やケイゴが来てくれるというならば、この上なく心強い。だがいいのか? 獅子人族と帝国は通商条約が結ばれているのだろう?」

「ああ、だから――」

「――だから、公にはコッソリ……でしょ。はいはい、わかりました!」


 公になれば戦争になる。

 帝国と獅子人族、もしくは帝国と虎人族が。

 だが放置しても、虎人族と獅子人族とは戦争になるだろう

 そうなれば帝国は獅子人族に協力をするに違いない。

 通商条約の規制緩和というエサ……帝国は国益を考えれば必ずこれを食らうだろう。

 そして獅子人族はその条件を飲む、大義名分も付くし背後に憂いが無くなる。

 一石二鳥だし、不利益は全くない。ダンジョンって名の潤沢な資金源も手に入るしな。

 そうなったらお終いだ、一方的な戦になる。

 虎人族の滅亡と言う形で。

 だから、そうならないように行動する。

 

「案内してくれるかリナ、アンタの国へ、こっそりと」

「ああ、勿論だとも。心から感謝する、婿殿」

「「婿殿はヤメろ」」

「……ちぇ」

「ふふ。さあ、行きましょうか、盗賊家業が割に合わないって、教えてあげに」

「ええ! 徹底的に骨身に染み込ませてやりましょう、アンジェ殿」


 おーい、ちゃんと末代まで語らせるんですよー。 

 間違ってもイキオイで皆殺しとは勘弁ですよ、お二人さん?


もうすぐ丸っと二年。

文章力自体、な~んも進歩して無くて凹むけど、気長にここで遊んでいきます。

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