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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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次元の鎧②

 となれば、である「なら、イセって単なる『端末』なのか」と更に突っ込んだ質問をぶつけてみたところ……。


「フム。従者殿は我の話に付いて来れるようだな。然り、概ねその通りだ」


 ついていけるのはある程度止まりだろうけどね。


「……ふ~む、するってーと『本体』って、その基点っていう亜空間にあるのか? なるほど道理で……それなら合点がいく」

「何がかな」

「普通のベルトバックル……つまり成人男性の拳ほどの大きさの装飾品にしか見えないイセに、高度な会話を実現できるような機能が搭載されているってのは、ちょいと俺の常識で考えられない。ならば、結果を使用者に伝える為の、出力(アウトプット)専用の『端末』なんだろうって思った訳さ。

 ならば、高度なAI(人工知能)を搭載可能な巨大であろう演算装置と共に、物質転送なんかを管制、制御する、基幹(メインフレーム)システムの全て……すなわち『本体』はそっちにあるんだろうってね。

 物理的にもそうだけど、通常の手段でのデータアクセスが不可能である異空間であれば、全てのセキュリティを鑑みた上で、その方が有益だろうからね」

「ティクナート殿は実に良い従者を得られたな、否は無い。大半が正解だ」

「大半?」

「第一に、異空間ではない。時空を隔てた別『時空間』でもなければ、異なる空間である異空間でも無く、空間と呼べるらしき未知の領域である亜空間であることが一つ」

「お、おう」

「こちらの方が重要であるが、従者殿……亜空間に自由にアクセスする事の出来ない研究者達が、そのような所に我を配置したがる理由があると思うかね? 

 もちろん、答えは否である。我が『本体』が亜空間にあるのは実のところ、単なる稼働実験における事故に過ぎないのだ」


 あぁ、そーゆーことか。

 それはそうだ。あの手の人種ってのは偏見だが『自分の研究対象は自分だけが自由にしたい』って欲求が付きものだ。


「ほほう、ってぇ事はだ。ふむ……その事故には感謝しなきゃ、だな」

「どして? そんな事になったらさあ、メンテナンスも何もできないんじゃん?」

「おお、いい所に気が付くな。流石ミサキサン」

「どうせならカナって呼んで! オホン……で、なんでよ?」

「イセ程のAIなら既に気が付いているとは思うが……そいつは事故じゃないって俺は思うね」

「フム、その思考展開理由を聞こう」

「恐らくだが、超能力の使い手……つまり非検体が居たんだろ、そいつが意図的に死んだ。つまり自殺したんじゃないかってな……その狙いは研究の頓挫。

 そんな超文明で、んな危なっかしいモンが出来ちまってみろ、コッチと違って世界が滅ぶぞ」

「んん? 転移系の術が軍事利用されるのが危険だって話は理解できるけどね、なんでケイゴはここだと大丈夫って思うの」

「簡単だ、こちらはどこまで行っても結局『個人』だからさ」

「はい? ちょっとワカンナイんですけど、どゆことじゃん?」

「あ~つまりな」


 こちらとあちらの違いは、個人における『戦闘力』の格差がデカイ事だ。


 最適化された超文明ってのは俺たちの世界の延長線上にある訳で、個人の力で街一つぶっ飛ばしたり、大量の敵兵を薙ぎ倒して無傷ってのは出来ない。

 無論、強力な武器や兵器を用いれば可能なんだけどね、それは相手も持ってるって話だ。


 で、こちら――ファンタジーな世界の場合――ロイって人やアンの様な『規格外』な『超絶者』が存在して、それに竜や神様や悪魔なんてのまで居て

 ――一個人が全てを薙ぎ倒し、全てぶち壊す――

 って、それを可能にすることが出来る。

 そして、そんな『超絶した存在』が普通の人々と同居している。

 多様な超絶者達は各々が絶対的な力を誇り、各々の暴走、暴挙を許さない。

 それぞれがけん制し合う形だ。


 そして得てして、超絶した力――強力な武器、ユニークなスキル、驚異的な破壊力の魔法――とは超絶した者からのみ生まれ、そうした超絶な力は最終的に超絶な個人に行きつくって事だ。

 それぞれの国の王達もこの場合、他から隔絶した超絶者と言えるだろう。


 但し、一個の最強が全てを打倒支配した場合、その個人が暴走すれば世界は簡単終わる。

 まだ終わっていないって事は、この世界の力関係が拮抗している、もしくは各々の理性が勝っている証拠。あるいはその両方が理由だろう。


 逆に、あちら――俺たちの世界の未来である超物資文明世界――ではそうはいかない……。

 その研究者達は『個人』であるハズが無く『組織』に属している筈だ、その組織とは国家かも知れないし巨大な企業かも知れない。

 たとえ万一、個人で得られた研究成果であったとしても、研究の成果である情報が漏洩した場合、個人のままでは居られない、居られる訳が無い。

 更に言えば、その研究結果や成果から利益を得るには、他者の存在は必須、寧ろ必要不可欠だ。


 俺たちのみたいな世界の新たな技術発明における利益やその成果ってのは、個人で独占することは恐らく不可能だ。

 最悪の場合『世界平和の為に』とかの理由で組織や国といった『強者』達に強奪される。


 そして利益を得る為には、どんな超技術だろうと最終的には一般化される。

 つまり『無力な個』である人達が、扱いきれない強大な力を有することが可能となる。


 何が言いたいかというと、一つの技術が完全に認知され確立した場合、それを何人でも扱える可能性が非常に高いと言う事。

 便利で有用な技術とは、最適化され、簡素化され、量産されるのは世の常だ。


 ……つまり、誰にでも扱えるっていうことは、高いリスクがついて回るってこと。


 その最もオーソドックスな例が『銃』だ。


 絶対強者が居ない世界で、他者を容易に打倒し得る力の存在は、大勢の理性が求められる。

 ゆえに規制があり、ルールーが存在し、法が正義となるのだ。


「ってなわけで結局、俺が何を言いたいかって事はだな、こっちならあぶねーもん振り回す馬鹿をたった一人ででも止めれる奴がいるかもしれないだろうけど、アチラ系の文明進化を遂げた場合、止めようとする奴に絶対的な力がねぇから、止める側も徒党を組む必要があるって事だな」

「えっと……ふまり(つまり)ぃ……ケイクンが言いたいのってさ~、全員が銃をもって撃ちあうどころか……あんむっ。ん~冷たい♪……全員が『核』を撃ちあうってくらい深刻かもって事ぉ?」

「せーかーい。正解の商品として俺からコメカミぐりぐりをプレゼントしてやろう」

「嫌だよ!? なんで正解したのに罰ゲーム!?」


 人の話を旨そうなミルクアイス片手に聞いててよく言う。


「ちょ、ちょっと! あたし、まだわかんないんだけど……」

「つまりだ、この世界の大半がアンやロイみたいな出鱈目な力を持つ奴だらけだとするだろ、んで酒場の揉め事程度でアッサリ剣を抜く様なメンタリティーだったらどうなるかってこと」

「酒場の喧嘩レベルで、極大術式を撃ちあうかもって話?」

「そそ」


 怒りに任せてアイスを強奪してスプーンを頬張る。


「そりゃぁ世界が滅ぶって、あ~~~~っ!」


 ぬぉお! う、うめぇ……。

 ミルク感、超パネェわこれ。


 って、むう?

 なにに怒っているのか、ジェシカが顔を真っ赤に染めてワタワタしている。

 しかたない……名残惜しいが返却しておくとするか。


 すると、何度も返却したスプーンとアイスの間を視線が往復したかと思うとニヘリと嗤った。

 そして何故かドヤった感じで満足気にアイスを頬張りなおし始めるジェシカ。

 その視線の先には我が主アン。

 彼女のコメカミさんはぴっぴくと大きく脈打ち、きつく引き結ばれた口元からは、歯が聞いたことも無い様な軋みを上げていた。

 アンはしばらくそうした後「ふっ」した。さらにニタァと嗤いながらこう言い放った。

 

「それが最後のミルクになろうとは彼女は思いもよらないのであった……」


 アンの詠唱した謎の呪文を聞いたジェシカは、目を大きく開きながら大袈裟に過ぎる咳き込みをゲフンゲフンとやりだした。

 全くもって意味不明である。


「あわわわ、そそれは困るって言うか、ズルいって言うか」


 何かに動揺するジェシカのもつアイスを俺は今のうちにと強奪。

 冷たそうなアイス乗った匙をもう一口パクリと頬張ってみた。

 うむ、やはり美味である!


 うおっ!?


 で、電光石火……。


 瞬時に俺からアイスとスプーンの一式を奪った凍て付く眼差しのアンはそのままそれをどこかへと消し去り。

 

「没収……」

 

 子供が見たら卒倒しそうな目力を発揮つつそう言った。

 魔法の鞄と同系統の術か何かでブツをどっかへ保管したっぽい。

 そんなに欲しければ、自分も持ってくればいいのに……。


 風呂上りのおやつを搾取されて猛然と抗議するジェシカと、それを一方的に封殺しようとするアンによる幼稚なキャットファイトじみた争いが、キャイキャイと始まったので放置する。



「あ~スマン。話を戻そう……で、イセが端末ってことはロミィにくれたのも端末なんだよな?」

「しかり」

「そいつはどんな権限をもってるんだ? 管理者(アドミン)なわけねえとおもってさ」

「副管理者である。とは言え、我には既に次元転送機構へのアクセス権を分体の一へ譲渡を完了。そのため、我は主管理者と言えども次元転送機構へのアクセス権を保持していない」

「つまり、その転送なんたらって機能は単一ユーザーしかアクセスできない様なプロテクトが掛かってるとかなのか?」

「是――その通りである。当初、我の所持者であるロイは、少女ロミィへ我を譲渡しようとしたのだが、我がそれを拒否した……」

「その理由を聞いても?」

「……フム。貴殿は我を一個の知生体として扱うのだな。師弟揃って……いや、主従揃って我を人の様に扱うとは。これを酔狂と呼ぶのか……失礼した。あの男を、我無しにすると言う事が、この世界にとって益にならないと判断した」

「えっと……そりゃあの人が危険人物だって意味でとらえて良いのか?」

「ある意味で是であると言える。貴殿、従者殿の提唱した『超絶者』であるロイだが、あの男の本質とは獣の様な存在である、と我は認識している。彼の者は、違える事無く知恵者たり得ない存在だ」

「……はぁ……ようするに、天然でお馬鹿さんてことか」

「しかり。故に、野獣を制御する枷として、我という獣の行動そ抑止する装置が不可欠であると認識する」


 ナルホド。アンが『あの馬鹿』と呼んだことだけある。

 よもや、所有物であるAIにまで馬鹿呼ばわりされているとはね。


「離れる事がこの世に不利益をもたらすと判断したが故に、我は分隊の一にメインアクセス権を譲渡し、我の人格(AI)プログラムを除く大半の機能を分与した」

「って事は、ロミィの持っているソレにはAIが搭載されていないのか」

「否、我のAIのベースをコピーし搭載済み、現在もプログラムは正常稼働中である」

「そいつって、実戦経験が無い……つまり、工場出荷時パソコンみたいに辞書がデフォルト状態……もっと言っちまえば、何も学習させていないボキャ貧なAIが詰まってるって事でいいか」

 パソコンって言葉はイセには無いらしく説明を求められた。

 俺が知りうる限りの概念や使用方法をアレコレ説明すると……。


「否、語彙録は大半パターンを複製し転送済みである。異なる点は、我の様にユーザーの状態に応じた返答を行えない。問われた問いに対し、通常応答のみが可能である」


 との事――ようは、この世界の常識やら言葉やらなんやら……イセがこれまでに蓄積し記録した様々な情報の大半は、ロミィへ与えられた端末にダウンロードされている。

 だがしかしイセの様に、人の要求に臨機応変な対応が取れる様な『微妙な機微』って奴がない。

 加えてイセが言うには、AIにおけるその『機微』にあたる部分ってのは、ユーザー登録情報と密接に絡み合っており、固有情報(ユニーク)として保存されている。

 データベース上ではプライマリー(唯一無二)な情報として扱われているそうだ。

 つまりパソコンにおけるライセンスの様なモンで、それはコピー不可だそうだ。 



「ふぅふぅ。このあたしに最終手段(この手)を取らせるなんて……恐ろしい娘だった……」


 あちらはケリがついたらしい。

 ジェシカが眼を回した様に涎を垂らしながらだらしくな床で寝ている所を見ると、無理矢理収めた様子から察するに……アンの奴、大人げなく魔術を使ったらしい。

 そして没収した匙を再度取り出しマジマジと眺めていた。

 ……俺はその主の何とも言えない特殊な表情を見なかったことにする。

 記憶の彼方に封印しよう。

 うん。


「あら、長ったらしくって嫌味っぽい、このあたしに意味不明な会話は終わったの」


 いつも通りなアンに戻ったな。

 このどうにも理不尽な感じがいかにもアンっぽいと感じる俺はやはりM的なナニカなのだろうかと、最近ちょくちょく考える。


「お陰様で、ロミィの貰ったものがすげぇーもんだって事はわかったよ」


 アンは俺の付与する術がロミィの為にならないと言った。

 あれ? 邪魔になるだっけ……まあいいや。

 ともかく、この世界の魔術とイセ達の世界の技術に親和性が無い場合、互いに悪影響があるかも知れないって事は理解できる。

 でもそれだと、ロイさんが背負っていた巨大な両手大剣が強力そうな魔剣であったことに説明が付かない。

 あっ。でも確かにロイさんは防具の類は身に付けて無かった。


「イセ。ロイさんが防具類を身に付けていないのは趣味か? それともイセと干渉するからなのか」

「人間的に言えば驚愕だ。そこに目を付けたか。では回答しよう。双方であると」

「ふん! あの馬鹿は『俺様の動きを阻害するもんなんざ必要ねぇ』ってバカだからね」


 馬鹿って二回言ったな。

 それより、双方と言ったか……。

 それは防具に限るのか? と問うと。


「否。

 保有者の魔力と異なる別種の魔力に干渉する。

 参考例を挙げるとするならば、下鎧として強力な魔的要素を帯びた帷子を身に付けた状態で、我が鎧を召喚し着装した場合、強力な魔力乱が発生し、装着者に悪影響を与える可能性が極めて大。

 但し、魔力が微弱であれば影響はないと推測」


 装備品に宿る魔力に緩衝するのかよ……。


「それって、召喚するためのエネルギーの流路を別の魔力が妨害するって話か?」

「是」


 電化製品で言えば、機器と挿し口の間に被膜で覆われていないむき出しのコンセントケーブルあるとして、そのむき出し部分に別のケーブルを乗っけるようなもんか。

 そりゃアブナイね。


「しかし、ロミィ嬢に譲渡された分体の一からは現在その様な事象は報告されていない」


 俺とアンから「「は?」」という疑問符付きの声が同時に上がった。


「ロミィ嬢の身に付ける魔力付与品は。我らの機能不全、誤作動、阻害を起こさないと検証の結果判明している。なお、ロミィ嬢が魔力付与品を保持していないのではなく、むしろ強力な付与品を所持しながらも、干渉現象が発生しない原因は不明」


「ア、アンタ、どこまで出鱈目なのぉ!?」

「お、俺がしるかぁ!」

「アンタが与えたシロモノしかあの娘持ってないじゃないの!」


 このあとイセが解析した結果、俺の魔力はロミィの魔力と非常に高い親和性がある事が判明した。どうにも魔紋(パターン)っていう指紋と同じく魔力をその当人と断定する要素が異常な程に通っているらしい。

 故に影響力は非常に微力な魔力が帯びたものを持っている時と同様なほどに小さく、動作不全を起こすことは無いそうだ。

 これにピンときた俺は同じ調査をジェシカやアンにも行ってもらった所、俺とアンが似ていて、俺とロミィそしてジェシカが通常以上に似ている。それはもう差異率0.2パーセントって話だ。だがところが、ロミィやジェシカとアンとなると若干だが差異率が上がった。それでも親類縁者とは比べ物にならない程に似ているのであった。

 これを聞いたアンは「血の繋がりよりなお濃い、主従の繋がりってことね」と量感の無い胸をそらして喜んだ。

 ああ、ウチのお馬鹿担当である駄乳魔とも関連性を調べたのだが普通に乖離が発生した。それはもう気持ちいい位に別モンであった。


「何故じゃ! ワシはこんなにも主に寄り添っておるというのにぃ!?」


 はいはい。

 わかったから離れて欲しい。

 こら、抱きつくな! そんなに引っ付かれるとホラっ。


「離れなさいこの色魔ぁっ」

「ぎゃんっ!」


 痺れて痛くて死んじゃいそうだからさ。



マジ、オヤスミクダサイ。

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