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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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邂逅

~~~


「だったらよぉイセェ……雨宿りだ……。隠れれるとこを探してくれ~」

「了解、範囲、半径五百メートルにて探査開始……完了。西方、五十三メートル直進上に天然窟と思しき洞穴を確認」

「うっしゃぁ、さすが俺様の相棒だぜぇ。なら急ぐとするぜぇ!!」


 いつも通り、人(?)の話を最後まで聞こうとする精神を欠片も持ち合わせていなさそうな様子で速攻駆けだそうとする変態男。

 その彼に冷徹な謎の声さんが、とても悲しいお知らせを告げた。


「王亀の骸の状況、及び周辺空間も確認済み、当現象は約三十七秒で収束する模様」

「は?」


 もうすぐこの赤い雨は止む。

 と言う事は、つまり移動しても意味が無いと言い放ったのであった。

 謎の声はさらに続けて解析結果を男に続ける。


「更にその天然窟に生体反応アリ、数は二を検知」

「ああん? 何かの巣なのかぁ?」


 大量にかぶっってしまった事により、頭から頬を伝い口に入ってしまった赤い液体を悪態をつきながらに吐き出す。

 毒性高いのか、酸性度が高いのか、とにかく異常に舌がビリビリする。

 マヒ状態にならないことから、男は気にするのをやめた。

 この調子なら自分の経験上、すぐに回復することを悟ったからだ。

 そんな事より、伝えられた意外な報告内容は変態男としても聞き逃せない内容である様だ。


「生態パターンはお前に似ているのだが……ロイ、お前の種族は岩でできた洞穴に生息するのか」

「住むっちゃ棲むかなァ。いや、ねえな。

 なら余程の貧乏人か迷子の冒険者とかかぁ? 

 んーイセよぅ……そいつぁ~人族って事かぁ?」

「我を馬鹿にしているのか? 人族との区別ならば容易につく。もっとお前に似た近隣種だ。

 むっ、まて……一体は若干遠い種だ。しかし、確実に人族とは異なると推定」

「ふうん?」

 

 変態男が腕を組み首をかしげる、容姿は整っている方で在り、見る者によれば『イケメン』と称される事も有るであろうが、如何せん変態男である。

 首を傾げる様は妙に子供っぽく、さも実は『何も考えてません』的に見えてしまうのが残念だ。

 それを象徴する様に、考える事に飽きてきたのか、はたまた普段は使わない機能が動作不全を起こしたのか、脳天から湯気が立ち上る。

 比喩では無く、本当に煙の如く立ち昇る湯気。

 相当に頭を捻り、どうやら知恵熱が出たようだ。


「むぎぎっ! ――全身ネバベタするわ、このクセェ雨はもうすぐ止むつーわ、おまけに俺様の近隣種だと? 同族がこんな所に居るかよ。とうとう壊れてトチ狂っちまったか相棒?」


 イラついた結果、相棒である謎の声さんが壊れたと結論付けたようだ。誠に残念脳である。

 更にその残念な脳筋な脳みそが回転した結果、三十秒ちょいあればグダグダ会話している間に、赤い雨を凌げる場所へ辿り着けたのではないか。

 彼はそう思いながら相棒と呼ぶ謎の声に問うた。

 ちなみにではあるが、変態男はどこからどう見ても人族にしか見えない。そしてイケメン風。

 だが今現在は、全身が真っ赤に血濡れた『ただの変態男』だ。


「ふん、ちょっと気になるな……ぺっ! まじぃなクソっ!!」

「魔力を豊富に含んだ魔獣の血液だから当然だ。

 出所は勿論、ロイ、お前の放った攻撃で死んだ王亀からだぞ。

 我の言う事を聞かず動いた、それは人の言う所の『自業自得』と言う物だ」

「うるせぇっムツカシー言葉使うな。意味が解らん」


 この変態男……余程の馬鹿でもあるようだ。

 いや、愚か者であったり知恵が無いと言った意味ではなく、単に学が無いとだけいった方が正しいか。それを示すように、変態男は相棒の謎の声にある懸念を問うた。


「チガウんだって相棒ぅっ。おい、だからよう、マジ~ぃんだろ、これってよう。高位魔物の骸ってのはよぅ、なんだアレだろアレ! ホレッえっとなんつったか、トッペンシンカーだっけよぅ?」


 ……よ、要点は抑えている……。

 アレだ、ホレだと言っているが、要はこの変態男が言いたいのは、過去の経験で見知っていたとある現象が懸念として脳裏に浮かび、それを相棒である謎の声に伝えたかったらしい。

 その『あんまりな言いよう』対しに、苦笑するでもなく完結に謎の声がフォローを行う。


「トッパツシンカ……突発進化サッドネスレボリューションだな。

 うむ、すでにあの王亀種と判明した個体の血を浴びながら生き残ったこの森の生物達が、次々と各々の種に応じた進化を遂げ始めている様子だ。

 とは言うもののだ、ロイ。

 お前の脅威になる個体は絶対に生まれん。だのに一体何が問題だというのか」

「バぁ~ろいっ。俺様のご同郷が近くに居んだつったのオメェだろぉがよ」

「同郷の出身か否かは現時点では不明。そして判別不能。

 我は単に『近似の種族の生命体が居る』と言っただけである筈だが?」


 謎の声は非常に冷たい。あっさりと変態男の言葉を否定してゆく。

 確かに同じ出身地であるとは言っていないのだから当然である。

 

「だ~から、ムツカシーんだっつーの! 

 んでよう、俺様が聞きたいのはだな、その、なんだ! そいつらの側にはそのアブナそーな魔物は居るのか、つーんが聞きてえんだが、実際のとこどうよ……マズそうなのか?」

「魔物の存在であれば『是』だ。複数存在する事を検知。それに間も無く突発進化サッドネスレボリューションも終了する種も生まれる頃合いだろうか……。

 ふむ、そうなれば進化直後によく見られる、飢えを満たそうとする行動に移るか、ナルホド理解したぞロイ……行くのか」

「ちょいと挨拶するくれぇ~は良いだろ」


 そう言いながらグイと顔を手で擦り上げ、血濡れて汚れた顔を無造作に拭う。

 無論その程度で拭い取れるものではないが、変態たる所以か気にしていないようだ。

 乾き始めネバついた血液が、整髪料代わりに変態男の髪をオールバックに押し上げ固定する。


「予定より遅れている。これ以上の寄り道(迷子)行動は奨められんのだが……」

「カテー事言うな、アイツだってこーゆー事なら見逃してくれんだろうよっ」

「で、あれば良いのだがな……ロイ」

「あんだ~?」

「予想と異なっても、人類であれば殺すなよ? それ故のとばっちりは我は御免こうむりたい」

「へっ。たりめぇーだ!! 俺様をなんだと思ってやがるっ」


 変態男は自己をアピールするかのように赤金色に輝きながら、洞窟があるという方角の反対を目指し勢いよく飛び出した。


「――西だと言った――愚か者」

「……あ」





「んもぉ~、次から次へとっ」


 ビュッ!

 グシュッッ!


 ジェシカの魔力付与された石弓から鋭く射出された石弾が獣を穿つ。

 馬鹿げた威力の石弾は一体を貫通し、その後方に居た同種の獣をも同時に葬った。


 場面は変わって幼い娘二人。

 赤い雨が収束した後、二人は移動する事を決断したのだが……。


 突如として現れた強力な魔物や野獣達に出鼻を挫かれ、洞窟の入り口を背に防戦の態勢であった。

 最初の襲撃より、既に時は五分以上経過しており、その際に出たのがあの愚痴だ。


「ふ~……みっ!」


 ガギュッ!

 ボグッ。

 

 小さく気合いの入った吐息を吐き出し、己の魔力を乗せた強烈な一撃を放つ金色の髪の少女ロミィ。

 ロミィが自慢のトンファーで森狼の変異種の顎を粉砕したかと思えば、ジェシカがその後続である小鬼(ゴブリン)の上位種とみられる魔物の額を石弓で撃ち抜く。


 討ち獲れど止まぬ、魔物達の襲撃。

 連鎖の様に繋がる襲撃者たちは何れも強力な個体揃いである。 


 しかしそれは、強力と言っても『この森にしては』といった具合で、この二人を脅かすほどの脅威では無かった。幼少期より鍛えられたその身体能力を遺憾なく発揮し、容易に脅威を排除してゆく二人。

 次から次へと新たな魔物や獣が現れるため、いつ終わるのかというプレッシャーの方が高い。

 それ故、体力(フィジカル)より精神(メンタル)が折れるほうが早い。

 倒せないからでは無く、ただ『面倒だから』という点が常識とは懸け離れた思考ではあるが……。


 そんな幼いながらも勇ましい小さな冒険者の戦う姿を、木立の上から覗き込む怪しさ溢れる男。

 その姿は全身を真っ赤に染め上げた一匹の変態。

 ロイと謎の正体不明の声に呼ばれる男は、木の上で首をかしげる仕草のまま、幼い少女たちの戦う姿を舐める様に観察したのだった。



 


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