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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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ロミィとジェシカ3

まだまだ忙しかんじで、マチガイ修正らできない、カナシミ。


不定期でごめんなさいです。





「む~確かに『豚肉』だけどさぁ~」

「ほえ? おいしいですよ」

「ほら、見た目がねぇ?」


 現在ロミィが嬉々として解体しているのは、ふらりと現れた魔物、オークさんである。

 その生態は女性の敵としか言いようのない、ファンタジー世界ではおなじみの存在。この世界においても、その肉は食用に適するとされており、薩摩の○豚や、三○豚もビックリの味わいを誇る。

 王侯貴族が競って争うほどではないが少々お高めであり、広く庶民に愛される美味なる食材さんだ。

 そんな肉をゲットしたにもかかわらず怪訝な表情を浮かべるジェシカに、ロミィが手を止める事無く言葉を続ける。

 なんとも愛くるしいばかりの容姿とは裏腹に、とてもしっかりさんである。


野蛮な牙猪(ワイルドタスクボア)とか咆哮熊(ハウリングベア)よりおいしいです」

「いや、ま、そうなんだけどね……」

「?」

「いやね……ケイクンが食べれるかなぁ~……って思ってさぁ」

「ふぁ!? 食べないですか。でも美味しいです。だめですか」

 

 ついに、手を止めてクリクリの目を見開いて驚愕するロミィ。

 彼女に取ってこの食材は里で重宝された一品にしか見えない。

 弱肉強食のレベルが非常に高い竜の里周辺では、この程度の魔物となると発見次第、強力な魔物の胎に収まってしまい、かなり貴重だったのである。

 魔物の強さが上がれば美味いなどと言う、都合の良いことは無かった。


「う~ん。どうかなぁ。見なきゃいけるかもだけどさぁ」

「見るとだめですか」


 その辺がロミィにはどうにも理解できない。

 彼女にとってこれは単なる食材。それ以上でもそれ以下でもない。

 希少かつ容易に狩れると言う複数の意味で美味しい獲物に過ぎないのである。


「うん、なんか人っぽいじゃんオークとかって」

「? ぜんぜん違います」

「あはは。わかんないよねぇ~」

 

 ジェシカとてこの世界に転生して長い。

 その中には旨いオークの肉を口にする機会がままあった。まして今生は竜の里で生まれ育ち、幾度かは振舞われる事があった。それ故、多少の忌避感などは遥か遠き彼方に捨て去っていた。

 だがケイゴは違う。あちらから、コチラへ来て長いとは言えない。一年もたってはいないのだ。今までの経験で……その正体を知らず肉を口にしたかもしれないが、態々好き好んで人型をなした魔物の肉を食したとは無い様にジェシカには思える。

 

「ま、他のみんなは喜ぶだろうし問題無じゃん」

「はい、次は絶対マスターが食べられるのが良いです」

「ん、そだね」


 そう、フンスッと意気を吐くロミィの髪を微笑ましくなでながら言った。

 その直後であった。


「ロミィ……」

「はい。来ます――いっぱい」


 気配から察するに魔物や獣がこぞってこちらに来ていることは分かる。

 しかし何か様子が変であると感じるジェシカとロミィ。

 獲物を追って徘徊している魔物や肉食獣と、その追われる側といった気配ではない。

 それ以前に追う側の気配がとんと感じられない。

 しかも魔物達がくる方向は風上。

 あり得ない。

 逃げる際に好き好んで風下の逃げる愚かな獣はいない。

 ではこの現象は一体なんだというのか。


「――逃げてくる?」

 

 確かに何かから逃げてる感じではある。 

 何が何から何から? 凶悪な魔獣に獣が追われて……って感じでもない。

 なら自然災害とか? 地震や火山噴火等、自然災害でも起きる前兆なのか。

 はたまた山火事? ――は無いと思えた。

 火事であるならば風下に居る今、なんの匂いもしないのはおかしい。


 原因は分からずとも刻一刻と状況は変化。

 次第に周囲には無数の獣の気配。そして気配だけでなく、物理的な振動……かすかな地響きへと変化しつつあり、猶予の時が無い事を示している。

 

(マズそう――いっぱいってレベルじゃないじゃん! 

 これじゃ逃げる獣たちに巻き込まれるかも。急いで撤収準備……って場合じゃないか、何もかも放り出して逃げるくらいでないと)


 こうなれば解体作業なんぞ全部 『うっちゃって』逃げるしかない。

 ジェシカはそう判断を下した。


「ロミィ! とにかく避けるよ。取り敢えず二時の方向っ」

「にじ?」

「あーじゃなくて、えっと、んっと、北東……あ~~~もぉ!! つっかコッチ!!」

「は、はいっ!」


 取る物も取り敢えず大急ぎ現場を離脱する二人。

 感知できる気配はどんどん大きくなる。

 それどころか、雪崩か崖崩れかと言うレベルで大地が鳴動し轟音が響いてくる。


「やっばぁっ、もうかなり近いっ。急いでロミィ!」 

「ジェシ姉ぇのが遅いですっ!!」


 先行するのは感知能力、身体能力ともに高いロミィ。彼女が先行し直近の危機を回避しつつ進み、続くジェシカは前方のロミィを後方警戒しつつ必死に追い冷静な判断を下す。


「みっ!」


 横合いから飛び出してきた猪に似た牛サイズの何かをトンファーで殴打しあっさりぶっ飛ばしたロミィ。

 巨大な猪さんは、事故にあった軽自動車の如く転がってゆく。


 何を血迷ったのか、逃げるのを止めてまで食えそうな獲物と彼女らに襲い掛かる獣。

 襲撃者は二メートル級の猿っぽい何か、しかも数体。


「あ~もぉ! メンドクサイっ!! コッチくんな!」


 それをジェシカは石弓を用いたアリエナイ連射でサクっと撃退する。

 その後も次々と襲い掛かる小さいとは言えないアクシデントの数々を、常人では考えられない勢いで踏破してゆく。

 そんな風にして、逃走開始から十五分が経過した頃、ようやく一息付けそうな雰囲気を感じ二人は休憩を取る事にした。

 近くに小さなせせらぎがあるらしく、水の流れる音が聞こえる位には落ち着いた。


「ぜはぁ、ぜはぁ……んっく。な、何が迫ってくるってのさぁ~もぉ~! ぜはぁ~」

「い、いま、はぁ、こ、こっちに来てるのは、はっ、居ないです。はふっ、はふっ」


 逃げつつ感じた、広範囲に渡った獣たちの逃げ惑う様。しかし確実に言える事は必ず一定方向から逆方向へと逃げているらしい気配の動き。

 息も絶え絶えなままに天を仰ぎつつジェシカは思考を廻らし出した結論。


(獣や魔物達に完全無差別で恐怖を振りまく存在が来てるって事だよね)


「ロミィ、今のうちに水を飲みなさい。あと出来れば何でもいいから、少しでも食べておいて」

「ジェシ姉ぇは?」

「地響きはまた少しするしね、ちょっち上に登って様子見」

 

 クイと親指を背後の巨木に向けて答えた。



「よっと、おわたたった……ふぅ……落ちるかと思った」


 空腹と逃走により体力が減っていたのであろう。思っていたほど楽には登れなかったジェシカは、巨木の大きく張り出した枝の上に移動する際にバランスを崩した。

 

「びびったぁ~」


(今生は恵まれてんのよ。こんな所で落ちて死ぬとか間抜けな死に方は御免じゃん)


 慣れた木登りでバランスを崩した原因は他にもあった。

 微妙に木が揺れたのだ。巨木を揺らすような強風も無いのにである。


「うげぇ……ナニアレ、ウソデショ?」


 かすかに響いている地響きの原因は目の前にあった。

 巨木の枝葉の向こうに見える巨大な顔、いや巨大な生物。

 

「カメ? 何アレ、デカ過ぎでしょ。ファンタジーつってもデカすぎじゃん!!」


 ジェシカの驚愕するそれは確かに巨大であった。

 そいつは全長約、四百メートル。全高は約八十メートル、首を長く上に延ばせば百メートルにならんとする巨代な生物であった。

 そんな生物が目の前にいるような錯覚を覚える圧倒的な存在感。

 ゴクリと嚥下する喉が鳴り、頬に伝うのは大量の発汗。冷や汗だ。


(やっばい。やっばいヤバイ、やばいっぃぃっぃ!)


 なんなのだアレは、なんだというのだ。

 現実に思考が追い付かない。逃げなければ、身を隠さなければ、見つかってはならない。そんな焦燥感が沸々と沸き上がり身を震わせる。


(どうする、どうしよう、どうすればいい!?)


 何をすれば良いのかがわからない動揺と困惑、現状に対応する策が全く思い付かない、不安と焦り。


(何をどうすれば勝てる? いや、勝つ負けるの問題じゃない。

 どうすれば生き残れる。

 というより、こんな至近まで何故気が付かなかった!?)


 あり得ない状況がジェシカを傍と現実に戻らせる。

 もう一度よく見てみれば、至近かと思われたアレはかなりの距離があるによう思えた。

 小さく呼気を吐き出し、周りを落ち着いて見る、見渡す、観察する。

 周囲の景色、周囲の木々、己と地面までの距離。

 それと目の前のソレを比べるジェシカ。

 徐々にではあるが思考がクリアになってゆく。


(思ったよりずっと離れてる……って事は、もっと大きいんじゃんアレってば!?)


 ようやく本来の冷静さを取り戻した彼女だが、もっと絶望的な彼我の戦力差を思い知る。 優に数百メートルは離れているのに、見えているソレは巨体と判断できるその生物の大きさを思い知ったのだ。


(じょじょじょ、冗談でしょ!?)


 その巨大亀が、のそりと首を動かし長大な舌を伸ばして何かを巨大な口へと運ぶ、そして草食動物がするようなゆっくりとした咀嚼するその様を見たジェシカは、更なる恐怖を全身へと走らせた。


(ダメ、だめ、ダメだめ駄目~~~~!

 ぜぇったい見つかっちゃ駄目、気が付かれちゃ駄目ぇ!)


 涙目になりつつ更に見ていると、数メートル級の魔物が何の抵抗も出来ないままに、舌に巻かれ口内へ幾度もと放り込まれている。

 しかもそれは蛙やカメレオンが獲物を捕食するような速さなのである。

 近距離に獲物が無くなれば、その巨体を一歩進めそれを繰り返しているようだった。


(ムリ~~~~~ィィィィィ! 

 目を付けられたら完璧にアウトじゃん。絶対に逃げれっこないヨっ)


「ジェシ姉ぇ~」


(ロミィ!? やば、あわっ、し~し~し~~~~ぃぃぃ!)


「ジェシ姉ぇ~。何してますかぁ~」


(いぃぃぃぃやゃあぁぁぁぁああああぁぁ、そんな大きな声出さないでぇえええぇぇぇ)

 

「みぃ? んと、ジェシ姉ぇはお肉少し焼きますかぁ~?」

「ばばば、バカいわないでぇっ!!!!!!」


 ジェスチャーでは何も伝わらない為、器用にも極力小さな叫びをあげるジェシカ。

 ロミィの聴覚なら聞こえる筈。そう願いつつ大きな思いを乗せた小さな叫び。


「んみゅ。 生、がお好きですか」

「そうじゃないってのっ! はぅっわぷっ」


 頓狂な返事に思わず大声で返してしまい、慌てて口を押える。


 ドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッ

 

 ドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッ


 チラッ


(ぶはぁ~~~~~っ、心臓痛いぃぃぃぃぃいいいぃぃ)


 変わらず少しずつ歩みながら口をモゴモゴさせている巨大な亀を見て一息つく。

 吐いた吐息から魂が抜け落ち、爆音を奏でる心臓が破裂しそうな気がした。

 オマケに目尻には浮かび上がってきた涙滴がキラリといった感じだ。


「ジェシ姉ぇ~?」


(あ~~~~~もぅ!)


 ジェシカは登る時の五倍の速さで巨木から降りてゆき、問答無用、且つ超涙目でポカリとロミィの頭に拳骨を落とす。

 ハテナマークを浮かべながら小首をかしげ「うぇえ?」と悲しそうな目でジェシカをみる可哀想なロミィに罪は全くない。


 超涙目のまま声を出さずに大げさなジェスチャーで怒っている。

 奇怪な踊りを披露しながらなにやら叫んでいるようだが、声が出ていない。

 どんな表現だろうが、何故叩かれたのか、叱られたのか、全く理解出来ない。

 今のジェシカの動きはまさにそんな印象をロミィに与えていた。


 ぷーっ!


 イミフダンスをひたすら形相で繰り返すジェシカに業を煮やし、ロミィは珍しく頬を膨らませた。

 そして


「みぃ!」


 お返しとばかりにポカリとやった。

 そして力いっぱい、空気を取り込みお腹を膨らませてからの~~~。


「ぅわっかんないですぅうぅぅぅぅ!」


 金色に輝きながら魔力すら籠った大声でそう言った。


 すぅぅうぅぅぅ。


 すぅぅぅぅ。


 ぅぅぅ。


 当然気持ちいい位の大音響を周囲に轟かせたのであった。




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