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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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ロミィとジェシカ2

UPバラバラで申し訳ないです。

定期で上げれるように頑張ります。


 古竜『ヘルムート』の住まう霊峰の麓、秘境の隠れ里であった村で生まれ育ったロミィにとって、狩とは生きる為に必要な行為である。

 日々の糧を得る為、厳しい弱肉強食な自然環境で生き残る術として屈強な大人達にまじり、毎日当たり前の様にこなしてきた、日常的な仕事。

 言わばとても『ふつ~』な事であった。

 弱冠十歳に過ぎない……年端もゆかない少女ではあるが、ロミィは狩人としてのキャリアは既に三年目に突入する。

 故郷である竜の里――そこでは、七歳を超えた子供は皆、狩猟団の末席に加えられる。

 過酷な生活環境において『強さ』は必須であり、生き残るには『戦える』ことが条件として求められる……そんな境遇であった。

 そんな里で育ったロミィは、大人達の中にあっても、持ち前の嗅覚を頼りにされ獲物を探す係として、傍らのジェシカと共に狩猟時における戦力の一端を担っていた。

 里では荷運びだけのを出来れば良いとされる期間、つまり研究期間や訓練期間と呼ばれるものは無く、最初から――つまり初陣から『狩人』として仕事を与えられる。

 生き残れば一人前。死ねば半人前。そんな環境だったのだ。

 故に、かつてそのような状況にあった彼女らは、子供二人で森に入っても恐れや不安で体が動かない等と言う事とは縁が無く、即座に各々が持つ本来の力を存分に発揮した。

 いや、嬉々として獲物を探し出すのであった、そしてその能力は非常に敏感であった。


「ジェシ姉ぇ、まえ」

「うん、いるね。右前方だいたい十五メートルくらい先かな……ウサギっぽいじゃん?」

「はい。ロミィが回って追いかけます。ジェシ姉ぇは上からいいですか」

「おっけ~。私レミタン(・・・・)試すから、射線にだけは気を付けててよ」

「はい」


 鬱蒼とした草むらに視界が塞がれた向こう側に居るであろ、野兎の元へスルスルと進んでゆくロミィ。身の丈に迫る雑草をかき分け進む、藪漕ぎもなんのそのである。


(お・に・く♪ お・に・く♪)


 一方、狩りの相方ジェシカも身近な木にこれまたスルスルと器用に登ってゆく。

 その様は元が現代日本人、しかもOLである事など、微塵も感じさせない巧みさだ。


(うは~♪ アンジェちゃんから借りたバッグがあると、木登りも超簡単じゃん。荷物が嵩張らないってだけで素敵すぎ~ぃ)


 何とも呑気なものである。

 それもそのはず、二人の装備は単なる狩猟にしてはオーバースペックもいい所だったりするのだ。


 魔術師の大賢王、アンジェリーナ謹製の魔法の鞄バッグ・オブ・ホールディングを筆頭に、衣類には全て、異世界からの来訪者であり彼女達の主、そして非常識な付与術の使い手であるケイゴの防御魔術が多重に付与されており、防御力は万全。全身を金属製のフルプレートメイルで包んだほどに重装甲。

 更に加えて、一般的な飛び道具――例えば弓による攻撃すら主の反則的な術の効果により彼女達を傷つけることは出来ない。

 今回の狩り用に新たに用意したグローブを除いて全てがマジックアイテムと言う装備類は、一般人では三度の生を繰り返しても手に入れる事の叶わない夢の高級セット。

 正に天下一品の過保護装備と言って良いだろう。

 まだある。護身用の装具(アクセサリー)においても、錬金術の大賢王ゲルトお墨付き、高級な素材ミスリルに希少な魔力付与石モルダバイトをあしらった緑柱の守護符(ベリル・タリスマン)がある。

 この毒への耐性を装者に与えるこのアクセサリーは、狩猟中に注意を払うべき対象である、毒蛇や毒蜘蛛といった危険な生物に遭遇したとしても一向に問題無し。速攻で毒を中和する効果を持つ、毒殺を恐れる貴族が喉から手が出るほどに欲する逸品であり、狩猟を生業にする者にとっても垂涎の品なのだ。


 攻撃力の面にしても、武器は一通り主の付与術により強化されており、食人鬼(オーガ)程度の硬さなら楽々ダメージを通せる優れモノ達ばかリ。

 護身、兼解体用の短刀を筆頭に『付与術 弓』の施されたジェシカの石弓。

 ロミィが持つ『付与術 魔力』を施された、大型魔物由来の素材からの削出しである特殊トンファー。

 更にもう一点。弾数には制限があるものの、あの翼竜王にすらダメージを負わせることが可能な、非常識に強化されたたモデルガンの狙撃銃、レミントンM700。

 最早、刈られる獲物たちが気の毒になるくらいの超絶装備である。

 そして用意周到な二人は、万一敵わない相手に遭遇したとき用に、撤退必要な煙玉や魔物寄せの香まで持ち込んでおり、完全武装、遺漏無し、準備万端であった。

 

 まして、ここを訪れる一般的な狩人とはレベルで言えば『1~2』程度であり、最高でも『4』と言った所かそこら……そんな彼等と比べ、彼女達は天地の開きがある高レベル冒険者であるのだ。


==============================

 名前  ロイリエル・アシュリー・ロリエ

 種族  ドラゴン(ワン・エイス)  

 年齢  10歳

 クラス モンク     8Lv     

 備考  誓約従者(主 ケイゴ・ヨネハラ)

     覚醒者(竜)

 フラグメント

     竜気(ドラゴニック・オーラ)

==============================


==============================

 名前  ジェシカ

 種族  ドゴラゴニュート(雑種)   

 年齢  12歳

 クラス アーチャー   7Lv    

     レンジャー   3Lv    

 備考  誓約従者(主 ケイゴ・ヨネハラ)

 フラグメント

     伝わる言の葉メッセージ・トランスミテッド

     紡ぐ記憶(メモリー・スピン)

     移り行く人生フローティング・ライフ

==============================


 心配性な保護者であるアンジェリーナが思うような危険など、ほとんど存在しない。

 万に一つしかありはしないのである。

 


「獲った」


 確信をもって引かれたトリガー。

 消音(サイレンサー)術の効果を発揮したレミントンからくぐもった発射音をたてて魔力の付与された6ミリプラスチック弾が放たれた。

 それは的を寸分たがう事無く対象を撃ち抜き、獲物を一撃食材へと変化させた。

 ……かに思えた。


「あちゃ~――威力高すぎぃ」

 

 食材どころか、見るも無残な骸へと変貌を遂げていた。


 当然の事ながら、ジェシカは銃に込める魔力に対し、何の調整も行っていない。

 むしろ獲物に対し気合いが入ってしまい、魔力を余計に回してしまったくらいだ。

 故に、狙撃銃の超絶威力の前に小さな獲物ちゃんは胸部から上を爆散させていた。


 ケイゴが行うような通わせる魔力の調整をしない限り、この狙撃銃は馬鹿々々しい威力を発揮する。

 例えるなら、対戦車ライフルで体長五十センチ弱の野兎を射る様なモノだ。

 獲物がはじけ飛ぶといった先程の様な状況は、当然のように起こる事象と言える。


「あー! 食べれないですジェシ姉ぇ」


 兎を追い出したロミィ戻ってきて、想定外の獲物の爆発四散にロミィが声を荒げる。


「だはは、失敗しちった」


 正確には後ろ脚など食材として使えるところはまだ残っているのだが……。


「モッタイナイ、だめ、ですっ。お肉、大事、ですっ」


 食材と魔術加工品作成の為の素材確保。

 そんな特命を受けたロミィの使命感がジェシカに非難をぶつける。


「ごめんごめんロミィ」

「はぁう……次、探します。です」

「おっけ~、今度はうまく調整してみるよ」


(そう言えば魔力はアンマシ込めちゃ駄目ってケイクンが言ってたっけ。でも難しいんだよねー)


 ジェシカは今更ながらにケイゴからの注意事項を思い出していた。

 当のケイゴも経験して初めて気が付いた事だったが、この狙撃銃に付与した術式は魔巻物(スクロール)の効果が非常に高く、少しでも魔力を過剰に掛けると高威力化する傾向があった。


(えっと、たしかぁ……全く込めないでいると、オートで銃が必要な分の魔力を吸い上げてくれて、フツーの威力になるんだっけ……)


 その記憶は正しいのだが、少々思い違いをしている。

 それは、狙撃銃その物が持つ『基本の威力』の事である。

 彼女の思う『フツーの威力』とやらが拳銃(ハンドガン)程度と考えている事が既に間違いで、例えオートでの魔力供給を行って撃ったとしても、野兎程度の獲物ならば爆散確実。

 圧倒的な威力過多なのだ。


 そんな事とは思いもしないジェシカは、レミントンのコッキングを済ませ次弾装填操作を行う。

 この玩具(モデルガン)は意味も無く良く出来ていて、コッキングしない限り次弾が放てない造りになっている。実際には次弾装填する訳でも、排莢する訳でも無いのにだ。

 さすが東京○ルイ製。こだわりの渋さに痺れる。憧れる。惚れ惚れする。


 次に見つけた獲物は、(カラス)程の大きさの鳥。

 このクアベルト界隈では、鴨の様に重宝されている野鳥の一種であり、一見食欲がそがれる南国特有の色彩豊かな容姿なのだが、意外にも食用に適しておりむしろ美味であるとの評判。

 特にこの時季の食材としては脂が乗っており格好の獲物(ダーゲット)なのである。

 その名も……。


「ジェシ姉ぇ、クッコロです」

「えっ、クッコロさん!? どこどこっ」


 冗談ではない。そんな名なのだ。

 正式には『クアベルティ コロプティツァ』コロプティツァと言い、長いので付いた呼称が『クッコロ』なのである。

 ちなみに、コロプティツァとは現地の古い言葉で『踊る鳥』を意味し、彼等の求愛行動が派手に暴れ踊り狂っているように見られるからだそうだ。

 その見た目は、独特の一言。

 雄種特有のド派手で大きく真っ赤なトサカは鶏に酷似しているが、他は似ている所は皆無に等しい。

 極彩色の飾り羽はクジャクを彷彿させるが、体型そのものは鴨の様であったりする。

 何とも変わった鳥なのだ。

 そして、目敏いロミィが発見したのは四十メートル以上も離れた木の枝の上だったりする。

 飛べない鳥である鶏である訳が無い。


「あ~、あれかぁ。良く見つけたじゃんロミィ」


 いま彼女たちがいる場所は、獲物の野鳥(クッコロ)が風上で反対の風下側。

 嗅覚が探知の基準であるジェシカが気付け無かったのは無理もない。


(むぅ、あの位置――枝とかチョイ面倒かも。スコープを用意してっと……)


 ジェシカはその場で膝立ちになり狙撃姿勢を取るいわゆる、『膝射』の体勢。


(風で気持ちちょっとホップするかな?)


 眼光は鋭く、猛禽が贄を狩るかのようなその様は、愛らしい容姿に似合わず妙に様になっており、見た目通りな少女には見えない。勿論、OLにも見えない。

 徐々に集中してゆく。

 標的は獲物の頭部、あの目立ちまくってるトサカ周辺。


(よぉうし……)


 獲物は矮躯にして遠距離、且つ狙いはその頭部と来れば、普通に考えれば非常に困難。

 まして幼い少女の形をしたものが矢で的中を成すとなれば、どんな著名な詩人にも歌いあげる事の叶わぬ、抱腹絶倒の笑い話。

 だが、二十二口径のライフルを用いて五十メートル先の的への的中を競う、現代のオリンピック競技に照らし合わせれば、断じて無理ではない。

 そして彼女が使用するのは、現代のどの狙撃銃より高性能を誇る非常識な射撃武器(おもちゃ)


(ふぅ……集中しろ私ぃ……)


 癖であるのかペロリと唇を湿らせながら、射線の先にある獲物を、スコープの十字に捉える。息をゆっくり、そして静かに吐き出す。


(魔力は回さない……マワサナイ……まわさな……いっ!!)


 意を決して引き金に添えた人差し指に力をこめ、そっと、引く。

 再び鳴る消音効果の効いた小さな発射音。

 

 そして的中!


 的中させたジェシカの腕前は確かに素人の域に無い。達人と呼んで差し支えない。

 だが、引き金を引いたとほぼ同時に、クッコロさんの小さな頭部は弾け飛んだのだ。


 スプラッタ再びの巻きである。


「あー! ジェシ姉ぇまたやりました。ロミィ『まぢ、はぁ』ですっ!」

「あえ?」


 猟犬の如く獲物の落下地点に駆け寄ってゆくロミィ。

 そして、しばらくもしないうちに、ぷりぷりと怒った表情の少女が野鳥(クッコロ)の足を持って駆け戻ってきた。


「ほらっ、胸のお肉が減りましたっ。ジェシ姉ぇ、もうそれ使うのダメですっ」


 ずずいと差し出される射撃の的の成れの果て。

 ロミィの言う様、確かに胸肉がちょっぴり減った様子の野鳥(クッコロ)さんである。

 首から先が引き千切れた様に失われているそれを『ぷらぷらり』とさせる少女と言うのは、びちゃびちゃと滴る血と共に中々にシュールな絵だ。


「たははは、おっかしいねえ。でもさでもさ? 食べる時はどうせ、アタマ落とすんだすしぃ、血抜きが楽でいいじゃん?」

「むー!」


 二人にとって最早、的中することは当たり前であり、如何に獲物が綺麗な状態であるかのほうが重要な様子である。

 この辺りを狩場と据えている常連猟師たちがこの場に居れば、顎が外れていたであろう。 弓や罠が獲物を取る最大の武器である彼等にとっては、この非常識な距離を一撃で仕留める射撃の腕前もそうだが、そもそもその手段が無いのだから。

 現代のジェシカの元の世界においても同様だ。

 普通の狩猟者が見れば驚愕したであろう事は間違いない。なにせ彼女が使用したのは狙撃銃であり、通常の狩猟者が扱う『散弾銃』ではないのだがら。

 そもそも、この馬鹿気た距離の獲物を狙うような無駄弾を放つ狩猟者は存在しないだろう。

 居るとすれば伝説のマタギ(逸話)都会の掃除屋(マンガ)ロビン・フッド(御伽噺)の存在くらいである。


「あう、ごめんごめんロミィ。次は石弓でやるじゃん」

「次は無いです! もう血がいっぱいです。魔物が来ますっ!」

 

 ロミィが言いたい事は、つまりこうである。

 狩場一帯が、今狩った獲物の血の匂いで満たされてしまい、このままではその匂いに引き寄せられた肉食獣や魔物達が集まってきて危険である。

 その為、早急にこの場所から離れなければならない。

『次』等と悠長な事を言っていては、多数の危険に囲まれる恐れがある。だ。


 この場合の魔物とは、この辺りを縄張りとしている低級魔物の代表格コボルト、ゴブリン、あとは居てもオーク辺りである。肉食獣のほうも大したもの生息しておらず野犬が居る位で、出たとしてもせいぜい狼くらいだ。

 とは言え、当然これらも出くわせば、一般人にとっては大変な脅威であり、それが多数ともなればなおさらだ。

 居残って狩りを続けること等、百害あって一利なし。

 命がいくつあっても足りないことこの上ない。

 

「ああそっか。ん~ならせめて場所を変える? もうちょっと奥へとか」

「はい。でも、まっすぐ駄目です。あとお肉を鞄に入れてください」

「んっ、おっけ~。このカバンなら匂いなんか出ないもんね~」


 出鱈目に高級な装備と、無駄に高いレベルを持ったちいさな二人。


「次。今度はマスタぁの大好きな猪持って帰りたいです」


 一人は、大好きな(マスター)の為に。


「そだねー、ケイクンの好きなのだねー」


(スキ――ニク――むちむちっ娘――。スキそうだよね……はぁ――。

 私も、もうちょっとお肉つけよっかな、特に――)


 もう一人は野望の成就の為に。


 そんな感じの二人の少女(?)は、そんな感じで、非常識な狩りをまだまだ続けるのである。



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