主と下僕のひととき
新年、あけましておめでとうございます。
本年もご贔屓に、宜しくお願い致します。
つーか年始そうそう短い&昨日の投稿をすっかりメッキリくっきりハッキリ忘れてたですマス。
ごめんなさい。
「は~い、ご苦労さま。今日はこの辺にしておこっか」
「ふぃ~。了解」
ゲルトのおっさんから譲り受けた魔巻物の仕上げ作業。
それと、急遽アンから依頼された品々への付与作業が約三日間の缶詰の結果、ようやく完了した。
真っ先に仲間達の仕上げ作業をして、それから俺としては予定外の数々の魔巻物との格闘。
この間で付与した数はざっと二百。
いくつかは見覚えの無い、まったく何の術だか不明な術式の魔巻物を、高そうな宝飾品への付与があったが、他の大半は俺の特殊付与を使った品の量産とかでは無く、付与術士としての修行を兼ねた魔巻物作成。魔巻物作成用の特殊な用紙へ俺が今まで習得した術の付与だった。
不思議な事に、付与した魔巻物には俺のチートが効果を為さなかった。
出来上がったものは一般的な魔巻物と変わらずに普通に使い捨て状態。
つまり、一度の使用で術式が失われるようだった。
理由はいろいろ考えられるが、まあ消える事で害は無いし放置だな。
~~~
この短い期間ではあったが、俺は新たな術をアンから学ぶことが出来た。
これは大きい。身体強化系や、一般的な付与術、つまり武器の効果を高める術や、魔術抵抗力向上の術は習得可能な事がわかってはいたが、ここまで習得に至ってはいなかった。
単に修練に当てる時間が無かったとも言えるが、俺は基本的に新術より、己自信を鍛えることを優先してきたのは否めない。
己の戦闘力を高めることこそが仲間を守る最大の効果を発揮すると思ったからだ。
俺自身は、呪いのような効果である契約魔術の副作用によって、死からは逃れられる。
だが、主であるアン自身や、他の仲間たちはそうはいかない。
俺が盾になる事が最善だと信じてやまなかった。
だが、実際には俺にはまだやれる事があったワケだ。
仲間の装備の充実。
俺は俺の能力を他者に利用されない様に、俺自身を操れる敵がいないとも限らない為って言い訳を盾に、このチートスキルを向上させることを遠ざけていた。
だが実際問題、俺一人では守れる範囲はタカが知れていた。
目に映る全てどころか、僅か数メートル離れた仲間だって危険にさらす。
……その程度でしか無いのだ。
俺が敵の手に落ちればどうだって言うのだ?
きっと俺を滅してでもアンとその仲間が俺を止めてくれるに違いない。
ならば何をためらう?
そう、俺は仲間を守る術を持ち合わせていながら、それを怠っていた事にようやく気が付いた。
まさに『術』すなわち『術』。
俺の術は失いたくない彼女達を守るための術になれるのだと、改めて自覚した。
この三日で手に入れた力もきっと近い将来役に立つ。
そう確信でき、充実した日々を送ることが出来たのだった。
~~~
修練で作成した魔巻物は、アンの属する陣営である皇帝派、その軍備の一助となるのだろう。
そして恐らく、あの高価な宝飾品は件のお姫様への贈り物と思われる。
あれに付与した効果が『対毒』や『対呪』の類なのであれば、もちょっと揃えてきて欲しいものである。
……だってロミィ達に持たせたいじゃん?
うむ、今度おねだりしてみようか。
しっかし疲れた~。
過日……翼竜王討伐の翌日から始まった、アン先生のスパルタ付与術講習。
これでようやく俺も、まともに『付与術士』を名乗れる程度の術が一通り使えるようになったのかと、感慨深く思う、が少々寝不足だ。
この三日マトモに寝た時間を指折り数えながら、深いクマが鎮座するの眼を擦る。
ああ、そうそう。
この集中講座のお陰で、今までまともなラインナップの無かった俺が覚えた術だが。
まずは基本中の基本である『付与術 魔力』アイテムに魔力のコーティングを施す術。これは敵魔術に対する抵抗力を高める効果も持つ、非常に有用で基本となる術なのだ。
それとそれの発展形にあたる、弓に魔力付与し射撃効果を高める『付与弓 魔力』や着衣や鎧に魔力による防御効果を付与する『付与術 魔力鎧』
これ等の基礎的な術が使えるようになった。
これで必死こいてこの手の基本術の魔巻物を買い集める必要が無くなった。
本当に使えなかったからなぁ……『付与術 魔力障壁』と『魔力付与 武器』だけだったもんな~。
これで攻撃系魔術のスクロールが手には入れば自前で属性付与まで出来そうで期待が高まる。
下地が必要だと気が付くまでの無駄に消費した哀れな魔巻物達よ、お前たちの犠牲は無駄にしないからね。
つか今あれらがあればなぁと今更ながらに思う。
もう少しマシな装備を作ってやれたものを……くう。
ま、それは置いといて……。
「あ~時に、アンさんや」
「なんだい、ケイゴさんや」
む……存外にノリがいい。機嫌がいいってことか?
「わしゃ~少々聞きたいことがあるんじゃが」
「はい、どーぞ♪」
「今日は。って言わなかった? 今」
「いったよ♪」
「……は……?」
「うん。『は』」
「まさか……まだ作らなきゃなんないとか言わないよな? な? ないよ……な?」
「ある! たぁ~くさん、す~くごく、それはもう山程。
うれしいでしょ~ケイゴ?
まだまだゆ~っくりと、あたしと一緒に二人っきりでお仕事、あ~んど修行ができるんだよ?」
満面の笑みデスカ。
前言撤回だ。こいつはちょい逆らえる雰囲気じゃねえ。
特に笑顔ってのが怖い、すこぶる怖い、超~怖い。
この笑みが出た時は逆らわないのが吉。
間違っても機嫌を損ねていいタイミングではない。
俺はそれを経験で学んでいる。
ふっ、俺は馬鹿では無い。
いま、それを示してやるぜ。
「イエス、マイマスター」
って事で従者らしく素直に応じて見せた。
「――気に入らない」
アウチ!
スゥっと目が細められポソリと呟かれてしまった。
りょ、了承しただけなんですが、たったあれだけでモード変更っすか?
じゃ、じゃあこっちか?
俺は両の手を顎下に据えてこう言った。
勿論、笑顔も忘れない。
そう俺は学習する男!!
「嬉しいです。わんっ」
糸目笑顔のままコメカミにあがる血管のひく付き。
ふわりと舞い上がる赤の髪。
重力なんざクソクラエ。ふわふわり。
シィィィット! 選択肢間違えた!?
いや、まだだ、まだいける!
赤のオーラが全身を覆っていない。
これなら、燃える程度で済む。
即死から再生待ちのコンボまではいかない……ハズ。
「今夜のおかずは魔物の骨がいいかな、それとも棒っ切れ投げたら取ってくる?」
こちらでもワンコは骨が大好き、且つ御主人に遊んでもらうのも大好きであると。
ふむ、意外な共通点。ステータス窓のメモ欄にメモメモ……とかやってる場合じぇねえ。
今度は両手を上げ万歳スタイル。
お手上げ、降参、降伏を猛烈アピール。
しかも笑顔は忘れないでにっこりと付ける。
「お、おーけー、わかったアン。明日も手伝う、修行にも励む。もちろん喜んでだ」
「あたしは良き従者を得てうれしい♪ んふっ」
笑みが怖えってんだよ……。
だが、この場は穏便に凌げたようだ。
なので追加で気になっていたことを聞く事にした。
「アン、もいっこだけ質問なんだけどさ。
ゲルトのおっさんから預かってきた品の中に、ロミィ用にって思えるもんがなかった気がするんだけどさ、俺の気のせいか?」
「ううん、御名答。ないよ」
「なんでさ?」
「必要ないから」
「……は?」
「むしろあの子には邪魔になるかもだから。かな」
必要ない。それに邪魔だと?
はて、そいつは一体……ロミィに何があるというのだろうか。




