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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~二章 ヘリオス編~
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2-2:盗賊と……

耐性の無い方には向かない記述がございます。

ご注意ください。

レジスト出来ない方はブラウザバックを推奨します。



 距離にして約十メートル程度、お互い数歩で近接戦闘な距離。

 大体、車の駐車場で三大台分程度の距離か。


「こーんな、人通りの多い街道でよくもまぁ野党なんて出来たね。迷惑だから自殺志願なら他でやんなよ。もっとも、馬車を襲うのは良し。助けて、恩を売って、運んでもらってあたしは大変喜ばしい、かつ楽ちん」


 等と余計な事も含めて、挑発するセリフを吐く良く通る声。

 なんでいきなりケンカ売るかな、このチビッコエルフ。

 怒涛の展開過ぎて付いてけねぇヨ。


「あ?」


 傍から見れば珍妙極まりない。

 突如現れたのは『お手て繋いてランラン』と見る事が可能な人族と森妖精族のカップル。

 しかも、声をかけてきたのは女のほうで軽装。しかも見た目は完全にロリ

 黒いピッタリパンツに胸元まで空いた巻頭衣を腰巻使用のストールで止めただけ。

 巻頭衣と頭髪はもちろん、鮮やかな赤。

 それなりに旅装はしてるけどマントも無し。カバンの類とか大物は主に俺持ち。


 男はゴテゴテ見知らぬ器具やらバッグやらを身に着けた軽装。

 しかも、女に手を引かれている形。

 俺がアイツ達の立場ならここは無視だな……それか問答無用でぶん殴る。


 じっくりとその珍妙っぷりを堪能したであろう野卑な男が、無造作に生え伸びているヒゲをさすりさすりに言う。


「お替わり登場?」


 お替わり扱いかよ。


「カシラぁー! こいつらやっぱ奴隷商人だ。金目のモンがあんまりない。どうする?」


「あーメンドクセェな。奴隷売るにゃキャラバンに行かなきゃならねーじゃねーか。まぁいいや、ササッとバラすぞ手前ぇら。逃げたのも追うんだ」


 奴らの言う通り、野党は馬車を襲撃し護衛の人間と交戦してる奴も居れば、荷を見ている奴もいた。護衛っぽいのが何人か倒れているところを見ると、どうやら野党側が優勢らしい。

 御者台のほうでは、恐らくマチェットらしいものに血が付いている。既に御者の命は無いと見えた。

 

 正しく、ファンタージな世界だ。

 人の死臭なんて初めて嗅いだが、胸糞悪いなんてものじゃない。

 だがそれ以上に意外な事を己の内側に発見。


 義憤だ。


 多分、吐き気に耐えれているのは、怒気が吐き気なんぞを凌駕しているため。

 こいつらを始末しなきゃならないと、脳が警鐘を鳴らしているかのようだ。

 奴隷商人と言っていた。殺されている奴らも俺らの世界基準じゃ十分悪党と言って良い。故にこの程度の吐き気なのだろうか。

 と言うか……。


 あー。マズイ……これ凄く不味い……と思うよ俺。

 アンが無視されてる。

 

 「『蔦絡みバインド・オブ・プラント』」


 カシラと呼ばれていた男が足元から生えた植物にガンジ絡目にされた。

 ぎょっとする野党。


「久しぶりの感覚ね。無視されたわ……三年も放置すると碌なことない。キールは一体何してんのよ」


 ふわり、ゆらりと揺れる灼熱色の髪。

 こりゃイカン、消し炭も残らない死体なんてまだ見たくないぞ。

 心も体も準備中よ俺。


 ここは、アレか出番か。

 いつの間にか離されていた掌は、初めての体験で汗でじっとりと濡れていた。

 動悸がドキドキ緊張しまくり。

 いや、男の子は度胸!


「おい、ボンクラ野盗。――あーそうだよ。お前らだ。「えっ俺ら?」みたいな顔スンナよ。恥ずかしくなるだろ」


 きょとんとしていた手下AからFまでの六名いるうちの、近場の三名が反応した。

 さらっと出た自分のセリフにびっくり。


「カシラふんじばってるのはテメェかこの野郎」


「襲撃中の俺らにカマ掛けるってこた、掠め取ろうって事か。あー?」


 ど三下まっしぐらセリフではあっても全員手にはマチェット、オマケに血糊付ときた。

 こえぇよ普通に。


 不意に至近距離で聞こえるセリフ。


「ま、とにかく死ねや」

 

 俺たちの側面、灌木の陰にでも隠れていたのであろう野盗Gが、アンにマチェットを振り下ろそうとしていた。


 七人目がいた。

 不意を突かれた!


「アン!」


 声をかけた時は既に、野盗Gの顎は砕かれ倒れ伏していた。


 見ると、いつもベルトで背中腰に平行マウントされていた白樫のスティックの一本が右手に握られていた。


「上等ね。『魔力飛弾(エネルギーミサイル)』!」


 スティックの先に灯った五つの魔力球は弧を描きながら、五人別々の体に吸い込まれるように的中した。射線もへったくれもなく。外れること無くそれは起こった。


 くらった野盗は五人とも意識を失ったように見える、苦悶の表情を浮かべながらに膝から崩れ落ちたのが見えたからだ。


「魔術士! 五人同時に一撃だと!? 何しやがった」


 残った動ける野盗は二名。

 御者台近くの男Dと、カシラの横で叫んでいる男C。


 アンの右手は御者台のほうに向く、すると野盗Cはチャンスとばかりにアンに襲い掛かる。

 あの血濡れたマチェットで。


 アンの前に躍り出る。咄嗟だった。


「死ねくらぁーーーーーー!」

「『魔弾 石礫(ストーンバレット)』」


 振り下ろされたマチェットを、何とか左の籠手で受け止めた。


 ギィッ ッパッパン。


 籠手が斬撃を受け止める硬質の音と同時に、右でフットホルスターから抜き放ったグロックを二連射。


 グロックは実銃のような乾いた高い音を立てた。

 練習の時の様に二連射。弾は至近の男の肩を撃ち砕いた。


「あら、すごいねケイゴ。ホントに戦闘経験ないの?」


 見れば全部自分でカタを付ける心算だったのだろう。

 石礫は野盗Dの胸から血を流れさせていた。致命傷だ。

 そして、左手にはいつの間にかもう一本のスティックがあり、魔力の輝きが纏われていた。いつでもCを倒せるように。


「ねぇよ。人との殺し合いなんてのは」


 ちぃ、何の役にも立たねえ。たまたま上手くいっただけだ。

 お世辞がウザく感じる。

 無駄な高揚感がある。

 この感じが変に精神に作用すると物語で見る『ヒャッハー』な異常者になるのか。


 わかる気がする。脳内麻薬に溺れるんだ……でも大丈夫。己を客観視出来てる。

 しかし……これが殺し合い……か。


 思った以上に胸糞ワルイ。



「全滅……」


 蔦に絡まれている頭がうめく。


「ああぁぁぁぁぁ……深紅の髪に高速魔術。アンタ『赤炎』か!」


「御名答。じゃ、さようなら」


 左のスティックから放たれた魔術弾は、頭部に穴をあけていた。

 問答無用に放たれた魔術弾のその威力は容易く人体を貫いている。


 圧倒的だ。


 アンは圧倒的だ。修練にも付き合ってもらったけど、近距離だろうと、中距離だろうと勝てる気がしない。遠距離なんて論外だ。


 知っていたつもりだった。そう、つもり。


 実戦のアン。戦闘状態のアン。殺すアン。ヒトゴロシの慣れたアン。

 見てないアンばっかりだ。

 塔の傍で魔物の相手をする所は見た。が、別物だ。

 俺のちっぽけなイメージの差だろう。人かそれ以外かと言う。


 目の前に居る彼女の強さが、今後の俺には必要なもの。

 状況判断速度、冷徹さ、純粋な戦闘力。

 全てが全て俺には無い。当たり前だ、年季が違う、経験が違う。


 無力感に食われんなよ俺。見失うなよ。俺。

 とは言え、なんとも今頃過ぎておかしな話かもしれないが。


 命が安すぎる。

「あ」っと言う間に人生がその場で終わってゆく世界。

 

 日常的に戦闘のある世界とは、これほどまでに自分の知る世界とはかけ離れるのか?

 争いが無いのが常識とか……俺が知らないだけ。平和ボケってのを体験しているのか俺は。


「ケイゴ。顎砕いた奴と、他の六人一応注意ね。気絶してるだけよ」


「わかった」


 確かにそうだ。戦闘力を奪ったとはいえ、警戒は必要。

 一撃防げたからと言って次も咄嗟に動けるかどうか。呆けてる場合か。


「馬車荷台の様子と生存者の確認をするよ」


「コイツらは?」


「あとで縛り上げて、木にでも括る」


 俺たちは馬車側の生存者を警戒しつつ、幌付き馬車の荷台を覗き込んだ。

 奥からは小太りで見たまんま奴隷商人です。私です。と言った風体の男がガタガタ震えていた。


「た、助けてもらって悪いがの。奴隷が何人か襲撃に合わせて逃げおった。つ、捕まえてくれ。報酬は出すぞ。タンマリだ。」


「あたしが外を見る。ケイゴは事情を聴いて。出来れば街まで乗せてもらえるよう頼みたい」


 危険度ゼロ。この男の事をアンはそう判断したらしい。

 事情聴取。それと足になってくれるよう交渉するのが俺に与えられた仕事。


「了解」


 吐く息を想像する事すら嫌悪感が増してきそうな親父を無視し、荷台に視線を向けると子供が一人。ゼヒゼヒと喉を鳴らしながら寝転がっていた。


 奴隷商人とか言ってたな。

 聞くと見るとで段違いだ。虫唾が走る。怖気が立つ。殺意が沸く。

 こんな子供を縛り上げて、転がすとかどんな神経してやがる。


「あー。――おっさん。願い事の前に聞かせろや。この子は?」


「商品に決まってるじゃろが。は、早く回収してきてくれ、他の逃げたやつもワシの商品じゃ。二匹逃げおった」


 はぁ……。

 会話もしたくねえ。


「あんまし余計な事喋んな。クセェよ。この子は?」


「だから、ワシが傭兵を雇って手に入れた商品の一部じゃ。は、早ようしてくれ、逃げられたら大損害なんじゃ。なんせ傭兵どもに白金貨三枚も取られた」


 子供に視線をやる。

 見れば着の身着のまま連れられたような服装。攫われました状態。無論素足だ。

 後ろ手に括られ、口には自殺防止なのかきつく猿轡が掛けられていた。

 長く拘束されているみたいだ、衰弱がひどい。顔以外は傷だらけにも見える。

 そして酷い匂い。


「攫ってきたのか? 素寒貧な親からでも買い取ったのか?」


「ど、どっちでも良いじゃろ。な? 報酬は多めに出す、十枚。金貨十枚出すぞ」


 ふと、しゃがみ込み足下を向いた俺の心臓が鳴る。

 あぁ。

 ドクン。

 コイツは――ダメだ。


 ドクン。


 ――助けれねぇわ。


 血だ。


 ドクン。たった今まで。


 血が流れてた。誰の? 子供のだ。


 ドクン。


 見なきゃよかったな。


 ドクン。心音がうるせぇ。


 子供の足から流れてる血は。


 ドクン。


 足でなく。


 ドクン。


 足と足の間から流れてこびり付いていた。



 パンッ。



 ――俺は意図的に奴隷商人の頭をぶち抜いていた。

 人殺しの仲間入りだ。




次回:「奴隷の子」


下僕:始末してやる……。

魔女:……。


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