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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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闇市リターンズ①


~~~


 終始、全く俺には何故だか理由(ワケ)が解らんまま、それどころかなんの見当も付かんままにケーナさんはあのアンが自らによって仲間として迎えられた。更には即座に旅への同行の許可まで……。

 俺としてはそりゃ歓迎だけどね『アリエナイ』それが俺の率直な感想だ。

 怪しげな会話からも何か特別な理由があるに違いない! とは思うのだが……。

 

 ま、とは言えだ、ケーナさんにしてみれば栄達と言って良いだろう。どう取り繕おうが冒険者とは言ってみれば無職みたいなもんだ。一方、今の身分は下級貴族である男爵家付き武官。つまり俺の配下だ。

 

 ついでに言うとこの件でジェシカがやけにご機嫌である。

 ――何故か、とても――。

 アヤシイ……よね。すっげぇ気になる……よねえ?


「……はぁ」


「ううっ。溜息つかれちまった。わかってるっスよぉ、兄貴は無しっス。あっそうだ、隊長ってのはどっスか」

 

「なあさっきからずっと気になってたんだけどさ、アンが一緒に居るならともかくよ? な~ぁんで俺にまで、んな下っ端臭バリッバリな話し方なんだよ。ムズ痒くて仕方ないんですがねえ……」


「んあ、ばりっばりぃ?」


「途轍もなく、って意味で」


「おお! ぬはは。貴族言葉はよくわかんねーんで申し訳ないっス」


 そう言うと彼女は苦笑いと共にぼりぼりと頭をひと掻きした。


 ……貴族言葉じゃないから……。等と思いつつ、チラリと視線をやる。

 いや、やってしまう。ついやってしまう、生唾も思わず飲んじゃう。


 掻く度びにゆっさゆっさと揺れて衣装の上からも柔らかそうな胸。チラチラと見えるおへそと下乳。

 今日のケーナさんは、俺を含めて道行く男性陣を釘付けにしている。

 チューブトップに肩ひもが付きました~程度の、超絶に丈の短い白のキャミソールに、デニム地に見える素材を使ったスカイブルーのホットパンツ。そして足元は艶のあるグリーンの革ひもを膝下まで編み上げたサンダル。

 夏のビーチに遊びに来た観光客なスタイルなのである。

 百七十センチちょいの俺よりやや高めの身長で、前衛系冒険者として鍛え上げられたその体には、極一部(・・・)を除いて余分な贅肉はほぼ(・・)無い。

 引き締まった腹部、二の腕、脹脛。そして日に焼けて小麦色の肌。

 残念ポイントは、長年の強い日差しに照らされて少々痛み気味の赤茶けた髪と、そのヘアースタイルが無造作かつザンバラである事だろうか。

 これ体型で鎧を身に付けて斧でも持てば完全にちょいとガタイのいい女冒険者に見えるだろう。

 だが、今日の服装であるが故に無防備に晒された柔い部分、チチ、シリ、フトモモが男共の視線集めている。そらもぉ、ガンガンに集めまくっている。

 根暗なカンジに長くした前髪で顔を隠したチョイデカ女が恥ずかしそうに腰を曲げて、少しでも背を低く見せようとトボトボ歩いている訳では無い。この南国の熱い日差しを浴びながら、俺達の世界のグラビアモデルも真っ青のスタイル抜群の女が颯爽と歩いているのだ、そりゃあ注目されないワケが無い。

 これには、面白半分であの服を用意したに違いないベリにグッジョブと言うしかない。

 例え横に並んで歩く俺が貧相に見えようともだ!

 腰にマウントした無粋なナイフホルダーも許しちゃう。


「そっスねぇ……ケジメ、っスかね」


「あん、ケジメぇ? 何を唐突に……」


 なのにこの下らない会話である。折角の眼福気分が多少ケンナリしても仕方ないと言うもの。

 は~サッパリだ。またサッパリわからんことが俺に降りかかる。

 みんなして俺を混乱させて楽しいだろうか。って被害妄想モードに入っちゃうぞ。


「それっス。その「サン」っス。そのサンが要らねーんっスよ。アタイは借金のカタに働くことを命じられた下働き、奴隷と変わらねぇーっス。それに比べて、えっと……」


「別嬪つれてんな~あんちゃん。なあ、串焼き買わねーか? 安くしとくよ!」


「こんなクソみてぇに熱い日は、クアベルトらしく水路で冷やした西瓜が旨いぜぇ!!」


 門外に出る前からではあるのだが、この様に俺達が通りを歩いていると会話を遮るかの様に――


「よぅ! そこの身なりのいい旦那ぁ。いい酒あるぜぇ、どうでい一本」


 ――等と声を掛けられることもしばしばある。

 活気が良いのは良いが、こう度々会話に茶々が入るようではウザイ。いい加減目的地までの道程を変えようかと思ったその時、それを聞いたケーナさんは「それだ!」と天啓を得たり言った様に叫びをあげた。


「それだ『旦那』っ。その、ダンナ様はアタイの養い主である男爵夫人の騎士、そんでアタイはその部下。てことはっすスよ、アタイなんかより偉い様なんっスよ。助けてもらった時はお互い冒険者同士、でも今では立場も身分も上と下。ならケジメは必要っス」


 はんっ、んな事考えてたのかよ。


「ばぁ~か、俺はそんなこと気にしねえさ。む・し・ろだ、俺の方こそサーだ、ミスターだ、ジェントルメンだと呼ばれたかあ無いね」

 

 俺はキョトン目を丸くするケーナさんに追撃の言葉をかぶせる。


「初対面の目上の人間に敬意を払う。それは良いよ、俺にも理解できる話だ。けどな、仲間に対して他人行儀にするってのはどうなんだよ」


「いやいや。ダンナ様の事だ、ロミィやジェシカだって他の娘達全部仲間だって言いたいんでしょうがね、当のその娘達だって『です』とか『ます』使ってるじゃないっスか」


「そうだな。でもあいつらは俺の仲間だ。ケーナさん……いやケーナ、アンタは違う。あ~いや、ちょっと待った。それも違うな『まだ違う』って言った方がいいか」


「はいぃ?」


 ははっ。アタイもそーいってるんっスけど。見たいな顔してら。

 伝わらない。これじゃ伝わらないのだ。俺の、俺達の、アンの言いたいことが伝わらない。


「えっとつまりだな、ケーナは意図して俺達に垣根……じゃわかんねーか、そーだな、壁、を作ろうとしてる。見えない壁だ。そいつを取っ払ってもらわねーと俺が困るんだよ」

 

「……壁ェ……困るって――なんでっスか、それで良いじゃないっスか。実際アタイとダンナにはその壁があるじゃねえかよ。ッス」


 おやおや、へへっ、地が出て来たじゃないの。いい傾向だ。


「ま、今すぐわかれとは言わないさ。おっと、そろそろ目的地だな」


「あそこは……武器屋通り? こんなとこに用があったんっスね。へへっ何買うんスか」


 いいねぇ。さすが生粋の戦士系冒険者、いー目になってきた。

 その調子で俺達の流儀に染まってもらうぜ。それがアンの望みだろうしね。

 

「ケーナの装備一式、全部さ」


 そう告げ、ニカっとした俺には似合わない爽やかな感じで歯を見せる笑みをケーナに向けた。





「おっ、これなんかどうだ? お、あっちもカッケェ~」


「ダンナ~、本気っスか?」


 通称、クアベルト門外街。その闇市のこれまた通称武器屋通り。

 アンによる鶴の一言『いいから、好きなの買い与えちゃって!』によって俺達は二人で買い物に出てきていた。くれぐれもケチらない様にとの念の押し様でである。

 ロミィ達……特にリナが一緒に来たがっていたがアンからストップがかかった。何やら別の用事を各自申し付けられていた様だ。ナイスアン! 出来ればあまりロミィを連れて来たくない場所だ、渡りに船とばかりに、アンの言う事を聞くようロミィに言い含めた。

 ベリはと言えば俺の命令(マスター・コール)でアンの護衛を継続中。

 ほほう「よく引き下がったな」って思うだろ? 

 何、ここ最近ベリが手に入れた権利(・・)をチャラにしても良いならついて来いと言ったらあっさりと引き下がった。

 なんかその交渉の際、逆に悶えて喜んでいたのがちょっと気にかからんでもないが、後の事はまあ何とかなるだろう。つか、なれ!


 ここ門外街は、お世辞にも治安が良いとは言えない。少し裏道に入れば衛生面も非常に悪い。その上、安物やバッタ物を掴まされたり、二束三文な品質の商品でぼったくられたりもするが、意外な業物と格安で出会える可能性がある事を俺は以前の経験で知っている。

 折角なので、ロミィ達に何かよい土産を見つけて帰ってやりたいものだ。


「聞いてるっスか!」


 いろいろといつも通りに己の考えに浸っていると、耳元で叫ばれてしまった。

 思わずのけ反って避ける俺。

 つーか、その格好でこうも近くによって来ないで欲しい。青少年の青い心って奴が大いに反応しそうになってしまう。


「んおっと! なんだ? 何かいい物があったのか?」


「チガウっス。アタイの好きなのを好きなように選べって、正気っかつってるんスよ」


 ぐちぐち、ぐいぐいとまぁ~飽きもせず食い掛かってくる。

 グチグチに辟易もするが、グイグイの方も少々困り者だ。

 キレイなネーチャン状態のケーナの方が僅かだが背が高い。にも拘らず、俯く俺に視線を合わせようとするとどうかなるのかと言うと、覗きこむ姿勢になる訳である。であるからして、その豊満でボリュームたっぷりの巨大プリン様が目の前で弾む、揺れる、オマケの谷間チラリもあって、その……ねえ?


 あ~意図してやってくるベリの方がまだ扱いやすいよ。


「んだよ、まだそんなこと考えてたのか?」 


 ぶっきら棒を装い、己の視線を斬り断つべく直立。

 こんな日中の往来で『オッキ』指定されるのはまっぴら御免だっ。


「いくらココが闇市だって言っても、いい物はそれなりに高いんっスよ旦那ァ~」


 そんなこたぁ~言われんでも知ってるよ。

 相手をして欲しいでも無いだろうと似合いそうな武器の物色を続ける。


「あっ、ホレそこの斧。それとかどうだ? 良さげじゃねー?」


「旦那ァ!?」


「ああもうメンドクセェなあ。んじゃ、コホン――武器、防具、その他装備一式、好きなのを揃えろ。こいつは命令だ。アン・ゼルフ男爵夫人に仕える者に対し、相応の装備一式を供与するっ」


 露店の立ち並ぶ往来で俺は、恥も外聞も無くドが付くほどに偉そうにふんぞり返って、柄にもない命令を下した。正直、これ以上無意識の誘惑されるのはとてつもなく困る。

 ただでさえ今日(こんにち)の状況は周りが女性だらけで、若い欲求に対する不満を体が募らせっパなしで、しきりに警告を鳴らしまくってるってのによ。


「現物の支給品じゃなくて、クエストの前金代わりに金をやるから勝手に揃えろってトコっスか」


「ミタイなモンと思ってくれて結構だ」


「そんなら了解っス……ならまず、斧じゃなくて剣が良いっスね」


「剣か。形状は?」


「片手剣。長さはこんくらいがいいっス。あとなるべくなら片刃で」


 うん? なんだ……違和感がある。ケーナの表情や仕草にちょっとした変化を感じた。普通に武器について思案していると思えばいいのだろうが、それとは少し違う気がする。真剣さが増したと言えば聞こえはいいが、いやに張り詰めた感じがする……?

 ――あ、いや、俺の気のせいってだけの話かもしれないか。

 

「ふむ」


 ケーナが広げた手の幅は大よそ八十センチ。それに片刃剣ねぇ。

 この世界は俺の認識では有名ロールプレイングゲーム……とはいってもテレビゲームじゃない方だが……の世界観だ。そのゲームの中世ファンタジーな文明レベル設定のそれに近しい。その設定世界で言うと片手剣とは、片手直剣諸刃が基本だ。故に普通には存在すらしない。しかし、コチラに来た当初、アンと一緒に出会った街道の盗賊は剣鉈つうかマチェットっぽい物を持っていた。ありゃ分類すればナイフだが、酔狂であれより長い物が作られ存在するかもしれない。


「刀身はちょっと幅広で肉厚なほうが壊れにくくていいかもっスね」


「ほほう……以外にガッつくね。いい傾向だ、遠慮は消えたか?」


「御冗談。クエストを受けて任務遂行中ん時に依頼主にたかれるなら、なるべく良い物をたかる。こんなの貧乏冒険者の基本っスよ」


 当然ではあるが俺としてはそんな感覚は無い。なんせ駆け出し冒険者でクエストなんざこないだがはじめてな位である。故に思いもつかなかったな。

 そして、へらりと笑むケーナを見て思う――残念だ。

 妙に色気や艶ってのが抜けて戦士の雰囲気が強く出ている。

 いや、いいんだけどね、変態指定される恐れが減るのでいいんだけどね? 

 ……ねえ?


 ケーナの台詞からすると探すシロモノは大体の見当はつく。割とメジャーな剣である『ファルシオン』これが相当するだろう、確かイギリスが発祥の武器だ、とは言えそんな要望の長さのシロモノがあるのかどうかが問題か。なら例の場所にいくっきゃないか。

 ついでに心の師、ゲルトのおっさんの店であるシュニッツラー商店にも寄れるし良いかも知れん。


「変わった物ばかり扱う店だがお目当ての物があるかも知れないトコを知ってる。ちょいと覗きに行ってみようか」


「ウッス」




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