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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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下僕を生贄に捧げて……



 新規冒険者登録を終えたジェシカを改めてパーティに迎えた俺達。

 実はもう一名、新たなメンバーが居る。その加入から三度陽は暮れ、既に当人も俺達との生活に馴染み始めている――――と思ってたんだけど……ね?


「しかしホントにいいんっスかねえ、アタイなんかが同行しちまって。ねえ坊ちゃん?」


「いいんじゃないのか、アンが了承してんだし。あとそろそろ『坊ちゃん』ヤメロな」


「ふーん。そーなんっスかねえ。アタイはこうゾクゾクと悪寒を感じるっスけど――じゃあやっぱゴシュジン様っスかね?」


「気にすんなつーか、悪いんだけどあの変な視線には慣れてくれ。理由もわからん俺には止めようがないんだわ……そんでもって、それもイヤだ」


「うーっス。ならなんて呼んだらいいっスか。兄貴ィ……は、なんか違うんっスよね~」



~~~



 新規加入者(メンバー)――それは彼女、このクアベルトの街を拠点とするDランク冒険者、ケーナである。彼女は生まれも育ちもここクアベルトで、冒険者としての登録もここだそうだ。

 出会いの元は、彼女の元パーティのリーダーがゲットしてきたとあるクエスト。このカザス大陸における南の最果て、辺境の港町『レイドン』からここ、世界の魔術の中心たる魔道城塞都市『クアベルト』へ向かうキャラバン隊の護衛任務だった。が、そのクエストは達成される事なく終了した。強大な力を誇る強大な魔物との不運な遭遇がきっかけとなって……。


 このクエストの不運は更に重ねて不幸を呼び込んだ。大陸南部における三つの街道の内、湿った街道(ウェットパス)を狩場とした強盗集団の襲撃である。

 かの盗賊の一味の構成だが、質が悪い事に大半が元々クアベルトから派遣された街道警備兵だったのだ。

 二人の不良兵が見回りと称し、サボっていたある日、翼竜(ワイバーン)種の襲撃を受けた、商人の一行に出会ったことが一連の不幸な事件の始まりだ。

 最初の被害者は、見目麗しい奥方とこれまた男好きのする肢体をもつ娘を連れて南大陸からやってきた大陸間を行き来する商を生業とする中堅どころの商売人であった。

 強大な翼竜(ワイバーン)に襲われ馬を失い馬車は大破、商人の男も怪我は負ったものの、命だけは助かった。そんな折、彼がふと通りかかった街道警備の兵と思しき男たちに助けを求めた事は、誰も非難することはできないだろう。

 不良の兵士二名のどちらかか、はたまた二人ともがそう思ったのかは知れないが、彼らが思った事はこうだ。


『つまらない警備の仕事に飛ばされたと思ったら、とんでもな別嬪に出会ったもんだ』

『あんなに多くの金目の物を運んでやがるのか、あれだけあればいったいどれほどの大金になるのか』

『給金は安い、仕事はつまらない、女も居ない、なんて俺は不幸なのだろう』

『いやまて……目の前に金と女があるじゃないか……?』

『護衛は二人、怪我人と死人だ。男は一人、これも怪我人だ』

『……なんだ……簡単な事じゃないか……』


 かくして、味を占めた男たちは仲間を募り、盗賊稼業へと転職を果たしたのだった。

 商人を襲撃し、女と金と強力な装備を手に入れた、セミプロの暴力集団に敵は無く、生半可な力量の護衛では真正面から戦っても勝ち目はなかった。

 ただでさえ強力なこの盗賊団には、必勝の策が存在した。翼竜(ワイバーン)襲撃を受けた商人だけを襲う事だ。

 盗賊団は当初、実に巧妙であった。目撃者である生き残りは全て殺し尽くし、全てを奪う。

 捕らえた女は魔術に長けた同僚と協力者によって縛る。無論、奴隷を商う商人も協力関係にある。その為であろう、奴隷として売り払おうが、長らく事件は発覚しなかった。

 

 ケーナはそんな盗賊団によって、長年(と言っても駆け出しから過日まで、丸三年の付き合いであったそうだが)のパーティは彼女を除いて全滅させられ、更に件の盗賊団に囚われ、なおかつ隷奴印まで捺され『まさに売られる寸前』であった時に出会った。もちろん他のあの二名も同様だ。


 ちなみにではあるが『味見』はされていないそうだ。良かった良かった。

 当時、同部屋に囚われていたメルディ嬢が話してくれたので間違いない。

 メルディ嬢が言うには、自分も含めて『味見』寸前だったそうだ。なんでも、盗賊達が気絶中のケーナを牢から連れて来て縛り上げ、まさに『その寸前』で、団員は全員総出で出払っていったと言う。

 これぞまさに不幸中の幸い。

 

 そうそう、あの二人はアグーデ伯の屋敷で女中をする事になった。これでメルディ嬢は晴れて貴族様の元へと再就職が決まった形だ。

 クワゥさんは一旦は俺の預かりであったのだが、言い方は悪いが法の上での拾得物に過ぎない。この場合、譲渡契約魔術で他者がその身を請け負う事が可能なので、アグーデ伯に『どうにかならんか』と相談した結果、めでたく正式な奴隷契約をアグーデ伯付きのナイスミドルな執事さんが請け負ってくれた。

 当然、二人ともアンによる魔術的拘束は受けてもらっている。

 認識出来ているかはアレだが、いちおー色々ばれちゃなんねーもん見られてるしね。


 問題は冒険者であるケーナさんだった。賊共によって奴隷に落ちてはいたが、街道警備を担う筈の者のしでかしたこと。アグーデ伯の権限で解放することが決まっていた。なんせ正式に主が決まっていないのだ、解放しようが誰からも文句の出ようが無い。

 しかし、彼女には別の問題があった、港町(レイドン)での借金だ。

 クワゥさんの購入、つまり身請け料は即金で支払われ、当時のパーティーリーダーが(あるじ)であったが、その金の出どころは実の所借金、手付の前金と後払いのコンボでの贖い。後払い分は借金となっていたのだ。返す当てとしてはクアベルトまでの商隊護衛クエスト、護衛対象から支払われるその報酬だった。時期的に輸送事故が多発していたため、報酬額はなんと金貨七枚、かなりの高額クエストだった。

 だが任務は失敗。この場合、冒険者ギルドに対してギルド会員は、クエスト失敗による罰則金が発生する。ここにめでたく生き残った彼女には、後払い金の請求と罰則金により、金貨十枚と言う多額の借金が背をわされることになった。

 

「ぬははっ。生きて冒険者やってりゃそのうち返せるんだろうけど、その前に罰則金の納入期限が来て、ギルドから労働奴隷に落とされちまうなこりゃ。いやはは、まいった」


 俺にはこの時の彼女は、いつもの様に笑ってはいるが、少々諦めの入った自虐的な笑みに見えた。


「ねえ、どうにかなんないのかなケイクン? こんなのってさあ、ちょっとあんまりじゃん?」


 ジェシカに言われるまでも無い。

 運が無かったと突き放すには、ちょっと相手を知り過ぎた。

 何とかしてやりたい。

 その一心だけで、まあ駄目元つーことでアンに相談を持ち掛けたのだが……。



~~~



「――猫を拾って来た――みたいに言わないのっ」


 返答は色よく無い物であった。

 しかしアンの言う事もごもっともで、過日ジェシカを拾った(ヒドイ)ばかりなのだ。毎度、助けた人間を保護していては……である。

 

「でも『金銭的な援助だけ』ってんならいいわよ。アンタのお小遣いでやんなさい」


「はぁ……」


 仲間にしない、ってんならいいのか。金出すのは良いのかよ。

 甘いんだか厳しいんだか……。

 しかしそれも手だな。ふむ。さて、どうしたもんか。


「なんじゃ? あの牛族の娘がどうかしたのか主、それにアンジェよ」


「おお、ベリか。実はな――」


 百六十センチに満たない身長に、見合わぬメーター級の爆乳と漆黒の闇を思わせる艶やかな髪を遊らしつつ、棒飴をうまそうに舐めながらベリがふらりとアンの執務室にやってきた。


「う、牛族ですってぇ!? ちょっとベリ。アンタそれ本当なの?」


 ベリの『牛族』って言葉を聞いたアンがいつに無く興奮気味な反応を見せた。

 つか、牛族? 依然見た時は確か人族と表記された気がするが。

 ……どれ? 凝視、集中、ステータス オン! 

 ――なんだよ、やっぱ人族じゃないかよ。


「なんじゃ揃ってその顔は? アンジェどころか主まで気が付いておらんかったか。それは意外じゃのう、見通せん事も有るのかのう」


「ちょちょちょいと、アンジェちゃん。それってまさか『孟一族』の事ぉ?」


 なぬ? 一族ってこたぁ『種族』じゃ無く『氏族』って事か。

 なら牛族ってのはその『孟一族』の通称か何かかな。


「ケーナさん……と言ったわよね。あなた本当に? えっと、そうねフルネームを聞いてもいいかな。無理にとは言わないけど、是非教えてもらいたいわ」


「んあ? こりゃあ恐れ入ったっス。男爵夫人は『隠し名』のこと知ってんっスか。はは~ん、赤炎つー大層な称号持ちってのは博識なんっスねえ」


 ~っスって。唐突にえらく下っ端っじみた語尾が出て来たなオイ。

 まさかキャラ作りって訳じゃ無いだろうから、これってアレか、ケーナさんの貴族に対する精一杯な丁寧な言葉使いってことなのかな。

 なんか今までの豪快さが無くなって、いっきにチンピラっぽいのだが。

 まだ、今までの話し方の方が俺的には良い気がする。


「そんなおだてはいいの! で、どうなの?」


「ええ、構わないっスよ、アタイの名は確かに冒険者としての通り名っス。本当は孟珪那(モングゥイナー)って親からもらった名があるっス。ウチの先祖はイースリア大陸の出だったって話なんっスけど、こっちじゃあ無駄に目立つ名だってんで、親から二つ目の名を貰うっス、で、アタイの場合はケーナだったってハナシになるんっスよ」


 ほほう。先祖はなんらかの都合で住処を追われたのか。

 そんで移住先が遥か彼方、世界の反対であるこのカザス大陸とはたまげる。

 なんぞ大変な事があったんだろうな。


「じゃあ『孟一族』で間違いないのね?」


「ウチの死んだジっちゃんはそー言ってたっスけど? ちなみに牛族ってのには身に覚えがないっス」


 ごくり。そんな音がジェシカの喉から聞こえた。


「ア、アンジェリーナ様。ここは一つ私からもお願いしたいのですが……」


 わきわき。

 こらこら、様ってなんだよ。そんな事言うと怒られるぞ。


「そ、その顔は――どうやら貴女も()っている様ねジェシカ殿」


 どのぉ!?

 てか、アンの喉も同じ様に音を立ててますが!?


 なんだ、何があるってんだケーナさんに……。


「ええ。かの伝説は(一部で)有名ですもの。それで……駄目、ですかアンジェリーナ様?」


 心の中の括弧書きが声に出ていませんかねえ?


「ふふ、うふふふ。いいえとんでもない。ええ、お願いされちゃうわよ。他ならぬ貴女の頼みですもの仕方ないわ」


 わき、わきき。

 ってなんだよ二人してその指の動きはよ!?


「そうよねっ。そーこなくっちゃ! むほっ、アンジェさん素敵っ」


 そして二人は目と目を合わせて頷き合った。


「ケーナさん、あなたの身元はあたしが保証するわ。いいえ! それどころか是非、貴女を我が家に迎えたいと思いますっっっ!!」


「「うふふふふふふっ」」


 おいおい、どういった心境の変化だ。

 孟一族とやらがキーワード何だろうけど、何が何やらサッパリだ。


「マスタぁ。アン様とジェシ姉ぇ、二人して、変です」

 

 同感だ。

 もっとも俺の場合声には出せんがね。燃やされちゃうから。


「へ、へへ、変な事なんて、な、無いのよロミィ~。んふふっ」

 

 いや、十分変だよ。

 見た事ねーよそんなアンタ。


「そ、そうじゃん。人道……そう、人道的対処ってやつじゃん! アンジェちゃんってば背が小さくて胸も小さいけど、懐と人としての器はすっごい大きいじゃん。それよ!!」


「ぐっ……そう、そうよ! あたしは器が大きいの! 一人や二人、ケイゴが望むならなんて事ないのよ! でもって、あとでちょっとお話があるわよジェシカちゃん」


 何気に俺を出汁にしたよね?

 自分たちのWILLが相当入ってるよねえ?


「くっ、失言は謝るわよぅ。それより、これで私たちの夢に一歩前進よね? なにせあの伝説の聖……はっ!!」


「ど、どうしたのジェシカ。そんな二日酔いの頭を狼人間(ワーウフル)に全力でシャッフルされてやっとの思いでお腹の中身を吐き尽くしたみたいな青い顔して!?」


 どんな比喩だ……。

 今まで築き上げてきた俺のアンタに対するイメージちゃんが台無しで大崩壊だよ。

 ――でも、まあ確かに青い面だ。


「ねぇ……アンジェちゃん。あのヒト……アッチ(・・・)ってどうなのかなあ」


 アッチってどっちだよ!


「迂闊ぅっ。た、確かアンタたちから聞いた話からすると――駄目じゃない!?」

 

 だから何のハナシだ~~~~~~~!

 

「い、いいえ。アンジェちゃん一縷の望みを掛けて、ベリッちに聞いてみるのっては? こればかりは当人に直接ってなるとさ~、ちょっと気が引けるっていうか、抉り込みたくないって言うか、さすがに人でナシとか呼ばれそうだとかぁ?」


 ギギッとかって擬音が聞えた。絶対に聞えました!

 そんな音をたてつつ、おっそろしく人形的な動きでアンとジェシカが俺とベリとを交互に睨んでくる。


「こ、こ、この際だもの仕方ないわっ。あたしの長年の夢が、いいえ、全ての全世界の悩める乙女の夢(わけるとは言ってないケド)が掛かってるのよ!」


 なんだか、ダメな乙女心の声がダダ漏れて聞こえてきやがるんですけど?

 つーか突っ込みきれねーくらいボケやがって、そろそろ付き合いきれねえぞ。


「ベリちぁゃん~。ちょおっとだけぇお願いがあるんだけどぉアンのお願い聞いてほしいな~、な~ぁ?」


 アンの引き攣った表情でのお願いをポーズを見たベリの反応はすさまじかった。

 嘗めている棒飴をちゅっぱぺろ、ちゅっぱぺろ。横にして舌を這わせてちゅっぱぺろ。たゆんたゆんに胸部にマウントされている肉の塊を、腕組みの要領で持ち上げつつも、ちゅっぱぺろ。

 そして最後に――。


「はんっ」


 見下すように笑いやがった! プゲラって感じで笑いやがったぁぁぁぁぁぁ!

 やべぇ、巻き込まれたら死ぬ。絶対に死ぬ。大勢が死ぬ。みんな死ぬ、死んじまう!

 なんてことしやがるか、クソ三下悪魔め!

 クアベルトの街を炎の海に沈める心算なのかっつーの。

 

 ってぇ、なぁにぃ~!?

 耐えてるっぅぅ!? めっちゃ引き攣ってるけど耐えとるやぁぁぁん。

 アンがあんなことされて耐えるだとぉ。馬鹿なっ。

 マジで明日、炎の槍でも降るんじゃないのかオイ。


「た、耐えてアンジェちゃん。ここで折れて本人に聞いちゃったり魔術でほじっちゃったらそれこそ、アレなんだからね! もっとダメな事になっちゃうんだからね、ぜぇ~ったい、絶対にドン引きだよ」


「くふふふ。あたしは赤炎! この程度の嘲笑には屈しないわ。どっかの変態と違ってね」


 おーおー腕に指がめり込みまくっとりますが?

 

「フフフッ、お~お~、魅せおるのぉアンジェよ。ウム、良かろう。そのちいさいちいさい、絶壁と称しても良い『器』とやらに免じその願いを聞いてやろう。そして叶えてやろう。但し! 条件付きじゃ」


「何よその条件って。今回は大抵の事なら聞いてあげるわっ!」


「――添い寝一回――それで手を打とうじゃ~あないか~ぁ――――なのじゃ」


「……なっ!?」


「添い寝一回」


「――――そ、それは――」


「そ・い・ね・を、いっかい――じゃ」


「むぅっくぅぅ――――――――――っっっ――――。飲む、わ」


 ぬぁあんの条件飲みやがった、なんのぉ!

 そりゃ、あれか? 俺をこの変態に一夜貸出ますよってか、冗談じゃねぇぞ。

 俺の貞操の危機が一大事ですよ、火の車ですよアン様ぁ!?

 つうか、俺の意思はどこ行ったぁっ!?

 って、声が出ねぇ!?


「ほぅ。二言は無いと見るのじゃ。むふふっ、最近は入れ食いなのじゃ。毎度アリ~、なのじゃ~」


「ぬぐぐっ、じゃあ頼みたい事なんだケド――」


「無用じゃ。未通……盾は健在なのじゃ。どうじゃ回答になっておろう?」


「えっ、マジ!?」


 マジ? ぢゃねぇ! だから一体何の話だ。

 ええい声が出ん!! この魔力、この術式、ベリじゃないぞ、こりゃアンだ。

 こんの駄目エルフっ何の意味があってこんな事を。


「ああ、大いに絶壁(ちいさ)な娘よ喜べ。マジなのじゃ。もっとも後ろの方は既には開通――」


「わーわーわぁああぁあ! ベリッちぃ!! いらない! ソレいらないからぁぁっ!」


「むぎゅげぅ!?」


 だぁ~! マジで意味がわからん。何の関係が有るんだ。

 みつう? ケーナさんがスパイじゃないとかなんとかか?

 じゃあ開通の方はなんだってんだ。盾ってなんだぁぁぁぁ!

 んなろぉっ、誰か説明しやがれゴラァァァァァァァァァァァァァ!!


 疲れたよママン。


次回も、シフトした日程となります。


一応『11/23(木)AM 02:00』を予定しております。

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