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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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ご主人様と下僕の散歩



 今回は幸いな事に……と言うより見た感じより全然キレていないアン様。

 アンの被害者と言えば、俺一人電撃チリチリパーマの刑。

 ――で済んだ野は良いとしてよ? でもなんで俺一人よ? 

 アンの不機嫌の諸悪の根源は駄ッパイだったじゃんかよぅ!


 ――もっとも、パーマの刑の原因はベリの暴走のあの直後では無く、俺が見境なしに三人を救出した経緯を告げた際だったのだが――。

 だって、仕方ねぇーじゃん。ほっとけなかったんだもんよ。


 例の助けたあの三人には、彼女が赤炎の称号を持つ魔女、元冒険者アンジェリーナ・ティクナート事アン・ゼルフ男爵夫人である事は明かした。で、俺はその筆頭従武官であるとも。

 そして俺を襲った大馬鹿はいつも通り、北大陸(ノルデン)出身の高ランク呪術師で俺達の仲間だと伝えてある。

 俺の主たるアンとはどこの誰ぞやを伝えた際には、三者三様で驚いてくれたので久方ぶりの異世界定番によるカタルシスを得ることが出来たもんである。

 

 にしても、俺だけパーマってのはなんだか、ちょっと、ほんのちょっとだけアレである。


「なぁに不機嫌そうにしてんの~?」


「なんでもねぇよ親愛なるマイマスター」


「むぅ。まだそんな風に呼ぶし、そんなに痛かった? まだ痛い? どっかまだ痺れてる?」


 痛くないのかと言えば痛い。だがまあ、慣れたもんだ。

 慣れたくもないし、慣れるもんなの? とか俺も思うんだが実際のところ慣れた。慣れちまった。

 いやはや、まったくもって人体とは不思議である。


「いーや、平気だ」


「なら、あたしとの夜のお出掛けが不満ってわけだ。ふんっ、せっかく久しぶりの……」


「んあ? ちと聞き取れなかったけどな。んな訳が無いだろ。あと話すと舌噛むぞ」


「ん、平気。浮遊(フロート)の術かかってるしね。ついでに緩衝の空壁(アブゾーブ・ウォール)の重ね掛けだもん、衝撃なんて殆どないの」


「そっか――ならいいんだ」


 高速で空中を移動中の為、風音も五月蠅く聞き取りにくい。

 さっきも術で会話しようとしたが、何故かアンに断られた。

 理由を聞いても『嫌よ』としか言ってくれん。むぅ。


「その、えっと、重くない?」


 そんな事を考えていたら頓狂な事を言い出した。

 いやいや、元々アンタ激烈に軽いじゃないか。ロミィと大して変わらない。まして今の身体魔術を展開中な状態であれば筋力アシスト効果の恩恵で、尚更って奴である。

 それにアンの術の効果もある。こんなもの風船を運んでいるようなもんだ。


「俺としてはだな、もうちょっと重みを感じたいとこ――マスター!」


「んもぉ了解っ、衝撃の炎破フレイムショックブロウ!!」


 アンが一声を上げるとその刺した指先から火の属性を伴った衝撃波が、鳥型の魔物に放たれ、あっさりとそいつが撃墜される。

 

「うーん。やっぱ結構おおいなあ。ねえ、これで十三匹目だっけ?」


 鳥型なだけに()ではないのかと思ったが魔物は匹なのだろうか、とか下らない疑問が浮かんだが、最終的には欠片による魔法的な翻訳結果なのだろう。

 欠片の権能ってのは、この世界の魔術以上に謎仕様なのだ。

 それよりだ。


「確かそうだ。それよか、多いってどういうことだよ」


「夜はね、魔物って活動が活発なのと、逆に大人しくなるのがいてね。鳥型の大半は夜は大人しく巣穴に引きこもる筈なの。なのにこれだもん」


 昼に街道を進んでいた時も結構な頻度で遭遇していた魔物たちだが、今現在は速度の違いはあるが、それにしてもかなり頻繁に出会う。

 となるとだ。


「ふむ。ならマイマスターのご提案通り、この街道の生態系を乱す元凶を直ちに断ちに行くのは、正解って事だろうな」


「むぅ……」


~~~


 俺達は二人は今現在、前述の通り真夜中の空でデート中。

 土地柄、季節は冬であっても夜の気温は高くはなく、湿気さえ気にしなければ最高。

 湿った街道(ウェット・パス)の名が示す通り、足元がじめついていることも無い。(ブーツ)に仕込んだ魔法の間仕切りマジック・パーティションを駆使し、身体魔術をフルドライブ、超高速な空の散歩状態。

 己の胸で抱かれているのが赤毛のエルフの美少女(風)と二人っきりときた。

 ちびっとお相手様が不機嫌気味なのを除けば、最高に過ぎる状況。

 そこへ頻々に邪魔しに来る魔物だって、スキンシップの為の試練と考えればイイ感じ。

 

 まぁ、その散歩の行き先にはパラダイスがある訳では無く、強力な魔獣。俺がマーキングの効果で距離と方角を特定して目星をつけた、かの翼竜王(アーク・ワイバーン)の住処とする新砦だ。

 新砦とは、はさっきまで俺達の居た、と言うより今も皆の居る廃棄されたと思しき砦を旧砦として、街道警備に派遣された兵たちの最前線拠点として建設された本来の場所だ。

 そこに奴が巣くっていると思われる。


 俺とアンは皆と相談の結果、あの強大な化物を退治する事に決めた。

 それも翌朝、商人たちが出発する前にだ。

 理由としては、これ以上の犠牲を出さない為にも、早急な対処が必要であろうと思われる事。

 俺とアンだけで出向くのは、留守居として旧砦に残る戦力に心配が無いからだ。リナやジェシカだけでなく、ど阿呆ではあっても魔神様であるベリまで居る。最悪の場合、ベリからのコールがあれば転移の術で戻る事すら可能。

 何に襲われようが危険度はかなり低い。


 当初は全員で向うなどの意見も出た。俺は一人で行くと主張した。全員で帰還する。商人達のみ先行させる。クアベルトへ援軍要請し、兵が来るまで砦に籠城。様々な案が出た。が、全てを却下したのはアン。


 

~~~


「あたしとケイゴでそいつを倒す。それが一番、手間もコストもかからない。もちろん時間もね。それが理由」


 そりゃ当然、ベリやジェシカから危険だとも言われた。がそれも却下。


「何故じゃ! ワシと主殿が出向けば済むではないか」


「それは一番ダメ。嫌だ。却下。アリエナイ」


 却下の理由は……まあ、お察しだ。


「ならば、ボクとケイゴ殿なら――」


「ダーメ、無いわ。考えても見なさい、移動にどれだけかかるのよ」


~~~



 ってな感じで、出るアイディアは全てアンの発言により却下。今に至ると言う訳だ。


 おっ、どうやら見えて来たな。

 高速で深夜の空を進んで、阻むものはアンの一撃で即座に撃墜。

 移動開始から一時間のデートの目的地が見えてきやがった。


 暗視の術によって変色し拡張表現される視界の向こう、動体反応在り。

 パラ(同時起動)でサーマルの術式をオン、巨大生物のシルエットだ。

 どうやら、お休みモードらしく、あの奇怪な咆哮は聞えない。

 ラッキーじゃないの、奇襲状態で当たれそうだ。


「驚いた。本当に翼竜王だわ……しかもかなりの大きさ。なんであんなのが……」


「嘘だと思ってたのかよ。マイマスター?」


「ま、また……ふん! さてアンタの準備はいい?」


「応っ! モチロンだぜ。アン、お前こそぬかるなよ?」


「あっ……う、うんっ!! さぁ~、サッサとぶっ倒しちゃって帰るわよっ」


 不思議と嬉しそうに返事するアン。

 ご機嫌が回復したのなら、もう心配事はねぇ。


 あんの野郎ぅ……ちっと助っ人ありだが、第二ラウンドだ。

 夕刻のリベンジ戦……嫌でも付き合ってもらうぜ!


 先ずは小手調べとばかりに、ご機嫌なアンによる盛大なる先制攻撃魔法が文字通り火を噴いた。



次回も、プライベートの都合上シフトした日程となります。


一応『11/08(木)AM 02:00』を予定しております。

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