翼竜王(前)
前後に分けます。申し訳ありません。
俺は、警備兵イコール野盗ってこと以外に、確信していることがもう一つある。
どの馬車の残骸のあった場所にも、ある共通点がある事から思い付いた事だ。
この思い付きが、彼女らに馬を与えてさっさと解放することを俺に躊躇わせる。
その共通点は『馬』だ。
馬車なのに馬がどこにも居ないのだ。無論死体も無い。
捕まっていた彼女等に聞いたが『荷馬車』を使っていたと言う。
単に逃げただけではないのか? それは確かに頭をよぎった。
ケーナさんが言うには一番最初に馬車が襲われたと言うし、メルディ嬢は主と一緒に乗っていたのに、彼女は荷台から放り出されただけだったと言う。
放り出された際に運悪く即死してしまった主を放置してしまった事を後悔している様子だったから、本当に良くしてもらっていたのだろう。
それはいい。問題はそこじゃねえ。
件の翼竜は必ず、馬をターゲットにしている節があり、抵抗する者はその逆激で排除するが逃げる者は追わないと言う傾向がある。
これは倉庫の件のジョアンナさんや、ケーナさんの話で共通する点だ。
そしてなによりも疑問なのが『馬』を絶対に使う筈の警備兵が使っていないと言う点。
件の賊は足が必要ないのか? 否、奴らは騎竜を使っている。
闇市以外で稀にではあっても南の街道を経由した品も入って来ていた事実。これは恐らく『馬車』による運搬では無かったのだろう。
つまり翼竜の目的とは『簡単に手に入る食料』つまり馬だ。
次にここを拠点にしている盗賊の目的とその手段とその正体だが、こちらは反吐が出る結論に至った。
南の街道を監視し、翼竜が襲った商隊に追い打ちをかける事。
漁夫の利とばかりに荷と奴隷として処分しやすい妙齢の女性だけを確保する事。
それを実行しているのが、警備として配属された正規兵である可能性が非常に高い。
字面だけ追えば、知能的かつ効率的だ。
トンズラするタイミングさえ間違えなければ必ず儲かり、あと腐れも無い。
逃亡も容易。
警備兵を装うことで生き残りを狩る難易度も格段と下がる。
翼竜を退ける様な強者に当たることも無く、装備は様々な品々で充実。
商隊を襲撃するが故、食料にも事欠かない。当然そこに女も含まれるワケだ。
良心ってモノとサヨナラさえ出来れば、こんなに容易いことは無い。
俺にはこんな外道が存在することが理解できかねる。
この世界とは、他人に厳しく利己的な人間が多いのだろうか?
俺にとっての常識と照らし比べてみる。
計算ができないだろうと釣銭を誤魔化す。カラーヒヨコの如く、珍しく無い物をレアな品であると偽り売る。夜店の籤には不正があったり、産地を改竄したり。混ぜ物が入った小麦や米を売る。
はん。思い返せばなんてことは無い、俺達の世界でもごまんとある事か。
実際、阿呆の如く厳しいのは『イマドキ』な日本位だ。
正直者は馬鹿を見るとの諺からも、古くは日本でも頻繁にあった筈。
が、そのイマドキなメンタリティとは、この世界では持ってはいけないものなのだろう。
ならば宜しい。郷に入っては郷に従う、それだけだ。
俺の目の前でくだらない事を行った者には、相応の覚悟を持ってもらうことにする。
アグーデ伯の言う『偽善者友の会』ってやつ。
俺も加入してやんよ。
俺の行う偽善的行為を、その外道な身を持って体験して頂くとしよう。
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砦を全員ででて二十分。遠目に盗賊共をロミィが発見した。
スコープを借り受けて確認……間違いない。
「野郎共、また次を狙ってやがるな」
「あーやって丘の上に陣取って伏せてるワケね」
街道から南に小高い尾根が続いている。街道との高低差は七、八メートルはあるだろうか、あそこなら確かに道からは見えない。恐らく奴らが通ったであろうルートで追ってきたので発見できた。街道を道なりに追ったのでは発見できなかっただろう。
俺達はそれを前方約八百メートル先に捉えた。
「ケイゴ殿!」
「ケイクン!」
二人が同時に警戒を示す様に声を上げる。
「ああ」
皆まで言うなってね。
「わかってる」
リナが聞きつけた音の発生源は東、港町方面に見える坂向こうからくる一団だ。そしてジェシカが目にしたたのは、街道の北東側奥から夕陽を受けながら飛来する生物の姿。
「ちぃ! 間が悪い、既に追われてやがる!」
盗賊共の斥候は忌々しい事にいい仕事する。だが全員で出払った理由がこれと知れた。
恐らく、あの砦を基点として常に幾人かの斥候が方々に散っているのだろう。散った斥候が見つけたのは獲物。砦をもぬけの殻にする程の理由。今回見える商隊は規模が大きい、その数実に五台。実に美味そうに見えた事だろう。
あの場所で伏せた理由はまさにここで襲われるであろうことを、数々の襲撃の経験で予測していたのだろう。
ええい、全くもって忌々しいっ!
馬車は既に爆走状態。ここからじゃハッキリしないが巨大生物と商隊護衛達が交戦している様子。
巨大生物……翼竜があげる奇声が辺りを支配する。
猶予なんてもんは最早ない。
「リナ、ジェシカ、出るぞ。ロミィは待機。三人を守れ」
残れと言われ、憤るケーナさんの相手を悠長にしている間はない。
そんな彼女に「無手では心許ないだろう」とポーチに入っていた魔力付与済みのショートソードを預ける。
ロミィと残る三人には馬を適当につなぐなりなんなりしてもらうよう言い付ける。くれぐれも騎乗しないようにと言い含める事は忘れない。
リナとジェシカを連れて出る、俺自身は身体魔術をブルドライブ、飛ぶように先行して駆け出す。向かう先は、勿論翼竜。
眷属化し念話が通じるジェシカに翼竜は俺が相手をするので、盗賊共が逃走している商隊に襲い掛かったら、後背を付くようにと連絡。
続けてロミィに不測の事態の際は俺を呼ぶようにと念を押した。
~~~
フルドライブ状態で足場を空中に生み出しながら、飛ぶように数百メートルを走破し、上空で巨体を至近にとらえる。
デカイ!
電車の一車両分くらいあるぞ。
顔面だけでも俺の倍近い巨体だ。
鍵爪付きの被膜を広げたその姿は考えたくも無い大きさ。それが目の前にいる。
体躯だけなら下級地竜に匹敵、いやもう少しデカいか。
だが、ビビってやる訳にもいかん、それにデカいなら的としては超イージー!
ヤってやる。
「おい、デカ蜥蜴! 飛べるからって偉いわけでもねぇ! コッチ向けコラァっ」
硬質プラスチックの芯入り。つまり弾倉をBB弾フル充填済みのものに交換し、グロックとベレッタに魔力を込めて撃ち出す。
ズゥオ――。
渦巻く紫光を迸らせて銃口が唸りを上げる。
ドゥオッパパァン。
魔力光を引きながら魔力付与された弾丸が、紅色に染まる空を割く。
ARRRRRNGYAAAA!!
着弾と共に怪獣映画さながらの咆哮を上げる翼竜。
穿ち、貫通したベレッタの氷属性弾。
着弾範囲を熱しながら巨体にめり込むグロックの火属性弾。
それぞれが翼竜の馬車に襲い掛かろうとする脚部に命中。
恐竜のそれを彷彿させるような巨大な足爪が馬車本体へとめり込むのを阻止できたようだ。
怒りと苦痛の咆哮を上げ俺と空中で相対する。
ダメージはしっかりある。イケるか?
「おら、遊んでやんよ。かかってきやがれ、このデカ蜥蜴!」
苦痛を与えたのは俺だと、大げさなほどのアピールで注意を引いてみる。
人語をある程度は解すのか、効果があったらしい。奴は爆風を地面に打ち付けながらホバリングし俺を見据えて来た。
ちぃ、物理法則ぶっちギってゆったり浮いてやがる。
あんな巨体があの程度の羽ばたきで浮いてられのものかよ!
以前アンが言っていた。
竜種は飛ぶものが存在するが、目に見えるその翼で飛んでいる訳では無いと。
固有魔術を駆使しその強大な体躯を浮かせているのだ――と。
ならコイツは竜か竜の眷属ってトコかもしれない。
爆風に煽られ、這う這うの体で恐慌を起こしながら逃げ惑う商隊の連中には悪いが、そこまで面倒は見きれん。
(ケイクン! リナが駄目だって。引けって言ってるっ)
なに!?
「盗み聞き 開始」
『雑踏の会話検知』をONにしてチューニングをリナに合わせる。
(XXX、XXXXXXXXXシカ、早X! 翼竜王は下級竜すら凌ぐ。あんな魔物はいくらケイゴ殿だってどうにもならないぞ!)
おやおや――ノイズが除ぞかれ言葉として認識できる段になった時には、甚く説明的な台詞の最中とはね。どうやらどえらい蜥蜴様らしいなコイツ。
へっ、聞くんじゃなかったなぁ。
ジワリとした汗が背をつたう。
やれる。いや、ヤル!
ここで俺が引けば、被害甚大なのは自明。
ならば、最悪でも手傷以上のダメージを負わせて撤退くらいさせちゃる。
(引けねぇよ。俺なら大丈夫。いつか言わなかったかジェシカ。俺は不老不死。食われて消化されようが、そのうち復活す……っ!)
「どぅわ!?」
(どうしたの!)
アラートが脳を刺激する。
奴の喉が膨らんだかと思ったら、謎の液体を吐き出しやがった!
エグイ臭いがしやがるので、周囲を消臭する。
落下した液体の行方をチラリとみると、不幸な犠牲者がひっかぶったらしい。
クズクズに溶解した周囲の様子を見るに手遅れ。
そして毒々しく立ち昇るのは湯気か煙か、はたまた猛毒の霧か。
溶解する吐息とか猛毒の咆哮とかって奴か。
(ねぇ返事してよ。アンタ大丈夫なの? ねえってばあ!)
戦闘による被害が及ぶ範囲が正確に想像できん。
飛び回ってこのブレスをまき散らされたらたまったもんじゃねぇ。
次回 恐らく日中に後半を上げます。
その次回 10/09 AM 02:00を予定しております。




